2.始業式
晴れ渡った、新学期初日。昇降口は、クラス替えの張り出しのせいでごった返していた。
南高では二年次に一度クラス替えをして、卒業まで繰り上がり方式だ。クラス替えは文系と理系に分かれるもので、一・二組が理系、三・四組が文系となる。内容としては、理系は化学と数Ⅲに力を入れる代わりに、日本史世界史Ⅱが無くなり、文系は化学と数Ⅲをしないかわりに日本史世界史Ⅱのどちらかを履修するのと、現代社会や政治経済に力を入れる。
因みにどちらも生物は三年までやり、日本史世界史Ⅰは両方とも一年時に履修済みである。
俺は昨年度の進路希望調査で文系にしたから、三組か四組だろう。名簿の後ろから確認していくと、四組の欄に俺の名前はあった。
「光太郎、何組だった?」
「四組だよ」
「やだ、私もよ」
「なんで一緒で「やだ」なんだよ」
「だって、教科書忘れたら借りれないもの」
「そこかよ」
「そこよ」
こいつは絶対に気付いていない。俺が今の会話でどれだけ振り回されたか。気付いてやってるとしたら、相当小悪魔だ。悪女だ。はあ。
「あー、みっちゃんおはよー!」
「オハヨ」
視界にいる満が突然揺れたと思ったら、見覚えのある女子に飛び付かれていた。
確か、飛びついているブラウンのボブの子は嶋杏奈さん。で、後ろで眠そうにしてるベリーショートの子が古川夕さん。昨年の満のクラスメートで、特に仲の良い二人だ。
「おはよう、杏奈、夕。てか杏奈苦しい~」
苦しいとか言いながら、顔は喜んでいるぞ満。
「だって今年も一緒なんだよ~?!嬉しくなあい?」
「マジでー!?嬉しい嬉しい!」
きゃっきゃっ、となんて言うか、女子って賑やかだよな。
ふと、傍で微笑ましく見守って居らっしゃった古川さんと目があった。
「どうも」
「あ、こちらこそ」
「鈴木くんも四組?」
「ああ、そうなんだ」
「ふーん、大変だね」
・・・
い、意味深・・・!
なんか、その一言が、俺のこれからの学生生活を物語っている気がする・・・。
教室に入ると、見知った顔が手招きをしていた。
「鈴木、はよ」
「おはよう、新村」
新村鷹志。俺も昨年のクラスの友人が居たと思うと、運が良いらしい。
近づくと、眼鏡をかけたやつに会釈された。
「こいつは萩原雄大。同中なんだ。ハギ、こっちは鈴木光太郎」
「よろしく~」
「こちらこそ、よろしく」
お硬いのかと思ったけど、どうやら違って気さくなようだ。彼らが居れば、あの女子たちの渦中にいても大丈夫、な気がする。
「今年は円藤さんと一緒かー。嬉しいような恐ろしいような」
俺の視線の先に気が付いたのか、萩原君が感慨深げに呟く。
満は良くも悪くも有名人だから、こういった感想を持たれるのも致しかたない。
「まあ、鈴木が防波堤になってくれるから心配いらないっしょ」
「え、俺人身御供?」
「えー、なになに?鈴木君て円藤さんと何か繋がりが?」
「確か幼馴染だったよな?」
「・・・ええ、まあ」
「家向かいだしな」
・・・よく覚えてるね。
「へー!羨ましいようなお気の毒なような」
「うん、気の毒が百パーセントだと思ってくれ」
羨ましいって言う男どもは数多くいたがな。あの三兄妹に揉まれる感覚は是非とも体験してもらいたいものだ。
「苦労したんだな・・・」
二人から哀れまれた視線。あれ、なんか目頭熱くなってきた。
「あれ、光太郎が泣いてる。お弁当でも忘れたの?」
満が不審気に近づいてきた。
うん、君のおかげでね。
と言いかけた言葉を無理矢理飲みこむ。
「ちょっとコンタクトがずれてさ・・・」
ていうか、今日は弁当いらない日だぞ。
チャイムが鳴った。黒板には始業式までの流れが書いてあり、それの通りに簡単清掃を始める。
「なあ、担任誰になると思う?」
「さあ。去年の担任陣は誰も移動してないから、持ち上がりだとは思うけど」
「じゃあ金子?いや、でもあいつは数学だから違うだろ」
「なら国語の小塚」
「あー、ぽい」
そんな会話をしながら、机を運び、掃き掃除を進めていく。たった二週間いなかっただけなのに、この埃の量は異常だろ。
「失礼、品川はいるかな。品川始。」
教室の入り口に、美少女現る。みんなの掃除の手が止まった。
凛としていながらも、その栗色の髪と瞳が醸し出す甘さを兼ね備えた美少女は、俺もよく知っている。生徒会長だ。教室が静かにざわめく。なんで会長が此処に?
「品川なら、今日高熱が出たらしくって休みですよ」
萩原君が声大きめに伝えた。近寄れば良いのに?なかなか近付けないと思うよ。なんか恐れ多い感じ。なんで知ってるのかな、と思っていたら、萩原君は親切に去年のクラスメイトだと教えてくれた。
「えっ」
会長は一瞬驚いた表情をして、頭を抱えている。
そういえば、品川って名前聞いたことあるな。去年の選挙の時だ。たしか事務局員に当選したんだ。思い出した。
「会長、何かお困りですか?」
ああ、その困っている立ち姿も愛らしい近づき難い存在に、容易に近づくのはお前くらいなもんだよ満。
「あ、えっとね、品川にはこの後の入学式に出席する新入生や保護者の誘導を頼んでおいたの。だけど休みでしょ?他に人員もいないから困っちゃって・・・」
ふむふむ、と頷きながら聞いていた満は、最後に大きく頷いて言った。
「私が代わりにやりましょう」
一週間とかほざいてごめんなさい。
なんか登場人物多くて困りますね(自分で言うn)
でも春は出会いの季節と言いますし。話数が増えれば丁度よくなるはず。
あ、次回百合フラグ。
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