10.皆さんは何かプレゼントしますか?
巡り巡ってこの時期です。
「あー、明後日母の日か。考えてなかった。」
教室を掃除中、壁に掛けてあったカレンダーを見て、新村が言った。対して萩原が、どこか疲れた顔をして「オレ、妹とプレゼント買ったよ~」と近づいてくる。
「まじ?妹いるんだ」
これは俺の言。
「そこかよ。」
呆れた新村の声。い、良いじゃない、知らなかったんだから。
「今小五でさ~、可愛いんだけどさ~、奴も女だったわけだよ・・・」
「は?」
「おかんのプレゼントを買いに行ったんだけど、も~、なんであんなに長いわけ!?」
あー・・・。俺と新村は納得だ。女性は買い物が長いというやつですね。あれって、なんでだろうね。
「やれハンカチだ、財布だ、エプロンだ・・・。どれでも良いじゃん。何度も行ったり来たりする必要性はどこに~!」
うがー、と萩原が頭を抱える。よっぽどストレスがたまる買い物だったんだな・・・。
「まあ、なんだ。お疲れ。」
「あんがと・・・。鈴木はなんかあげんの?」
「んあ?あー、ケーキ焼く。」
「「ケーキ!?」」
ちょっ、二人して五月蝿い。目立つからやめれ。
「お前、ケーキなんか焼けんのか。初めて知った。」
「俺の唯一の得意料理だ。他は出来ん。」
ケーキは焼ける。これは胸を張れるが、他の料理に関しては・・・。悲しいね!
「一気にレベル高ぇ~」
「本当にな。しかし、光太郎も決めてんのか・・・」
「肩たたき券でもあげたら?」
「小学生かよ!」
え、良いアイディアだと思ったんだけど。
母の日当日。俺は朝から抹茶のシフォンケーキとチョコのシフォンケーキを焼いていた。
抹茶は母さんのリクエスト。チョコは美代ママの分である。
「まだー?」
「まだー」
母さんはそわそわしながらあっちへ行ったりこっちへ来たり。メレンゲが出来てはそわそわし、型に流し込んではそわそわし、まだかまだかとオーブンを睨む。どんだけ好きなんだよ。
焼き上がったケーキを冷ましてから切り分け、ホイップクリームを添えてお茶にすることにした。
食卓の中央には、カーネーションが活けられている。俺じゃないよ。親父が送った奴だ。母さんはそれを眺めながら、ケーキにフォークを入れる。
「ふわっふわ~。あんた、ケーキだけは上手よね~。おいしー。ありがとね。」
「いいえ、こちらこそ。」
ぱくぱくと消えて行くのを見るのは、作った側としても嬉しい。自分でも食べてみるが、なかなかの出来栄えだ。緑が鮮やかで良い。
味も申し分ないので、もう一個の方も大丈夫だろうと、円藤家へ持っていくことにする。以前大量購入したケーキボックスに入れると、クリームも忘れずに俺は円藤家へ赴いた。クリームを塗ってあるケーキと違って、倒そうがぶつけようが問題無いのが良いよね。
勝手知ったる向かいの家。俺は遠慮なく上がって挨拶する。
「こんにちはー。美代ママ、いつもお世話になってます。」
「あらー、ありがとう。毎年悪いわねぇ。今年は何かしら?」
「チョコのシフォンケーキ。」
「あらー! 早速食べましょう! 満、お皿お願い。」
「やったーシフォンケーキー!」
テンションが上がった二人に微笑みながら、満が用意した皿によそうべく食卓へ。
ちゃんと人数分切り分けてきたので、皿によそってクリームを絞る。うむ。こちらも良い出来だ。
「いつも思うけど、光太郎は凄いわよねー。ケーキを作れるなんて。」
甘党の満は、飾られたシフォンケーキに目が釘付けだ。
「ケーキしか作れないけどな。満もなにか作ってみたら?」
「駄目。料理だけは駄目。この前もゼリー作ろうとして変な物体が出来あがったわ。」
冷やし固めるだけなのに、どうしてそうなった。
固形にならないし気味悪いし、処分に困ったわ・・・、と続ける満に、果たしてそれは物体だったのか謎の生命体を作り上げたのかとちょっと想像の中の産物に怯えてしまった。あくまでも食べ物、しかもゼリーの評価に「気味悪い」とはこれいかに。
まあ、確かに満の料理の腕は酷い。なんでも人並みを軽く超えるくせに、料理だけは酷い。
調理実習は皿洗いに特化していたのは記憶に新しいもんな…。
「良いの! 私一人くらい料理ができなくても、何も問題は無いわ!」
君の将来の食生活はどうなんだろう、と思ったが、ちょっと虚勢を張っている様に見えたので黙っておく。
今度は簡単な料理を選んで、一緒にやってみようかな。
俺も、普通の料理も作れるようになりたいし。