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最後の五星上将(2/4)

扉が閉まる。

書斎には二人きり。


一人は、地球連邦最後の五星上将。

もう一人は、今夜この都市を実質的に接収した当人。


しばし、沈黙が落ちた。


言葉がないのではない。

本当に重要な言葉ほど、そう簡単には切り出せないだけだ。


やがて、先に口を開いたのは榊原だった。


「お前が直々に来るとはな。街の方は、ほぼ片づいたということか」


フィルは彼を見つめ、唇の端をわずかに上げる。


「予想より、少し手こずったわ」


その一言で、空気がさらに冷えた気がした。


傲慢だからではない。

それが事実だからだ。


榊原は淡々と言う。


「むしろ自慢しに来たと聞かされた方が気が楽だった。まだ慎重さが足りない証拠だからな」


そこで一拍置き、感慨とも疲労ともつかぬ声で続けた。


「まさか、お前たちが最終的にこの一線を越えるとはな」


フィルは伏し目がちに、卓上の光を見るでもなく、もっと遠いものを見るでもなく、声を落とした。


「ええ。……私も、ここまで来るとは思っていなかった」


顔を上げる。


「もし私が、五十年前、第三陣の地球技術交流代表としてここに来た当時、本当に植民なんて考えていなかったと言ったら――あなたは信じてくれる?」


榊原はすぐには答えない。

ただ見ていた。

その視線はあまりにも静かで、ほとんど感情が読めない。

だからこそ逆に、その目が彼女個人を見ているのか、それともフィル女士の背後に連なる、数百万年続く文明そのものの計算式を見ているのか、判別がつかなかった。


長いのち、彼は言った。


「信じる」


フィルの眼差しが、ごくわずかに揺れる。


だが榊原は、すぐ次を継いだ。


「そして同時に、お前が今、この結末を自分の手で最後まで遂行することも信じる」


「当時の三十七号は、まだフィルではなかった」


書斎がまた、短く静まる。


フィルはすぐには反論しなかった。

ただ彼を見つめるその目の奥に、かすかな、ほんのかすかな疲れが浮かび、そしてすぐに押し込められた。


「あなたは昔からそう……私をいちばん理解しているくせに、いちばん楽にはしてくれない」


榊原の唇が、かすかに歪む。

笑いと呼ぶにはあまりに冷たい、刃の表面をかすめる一筋の光のような角度だった。


「お互い様だ。本気で私を楽にしたいなら、今夜、街を丸ごと押さえてから私の前で昔馴染みの顔をするような真似はしない」


フィルは言い訳をしなかった。

彼が正しいと分かっていたからだ。


しばらくしてから、ようやく彼女は柔らかく言った。


「あの交流会、まだ覚えているわ。あなたは最前列に座っていて、いちばん真剣に聞いていた。星際法のことも、私たちが観察と翻訳と忍耐を重ねて、ようやく長期協力に漕ぎ着けた異星文明の事例も――」


そこまで言って、また少し止まる。


忘れたのではない。

その瞬間だけは、彼女自身も本当に過去を見てしまったのだ。


榊原もまた、同じように記憶の方へ引かれていた。


優秀な学生の中でもさらに選抜された者だけが出席を許される交流会。

その壇上で、銀海文明と星際法について講義するフィルの姿を、彼は初めて目にした。

その美しさも、語り口もそうだ。

だがそれ以上に、異星文明と星の海という未知そのものに触れた衝撃が、彼を深く引き込んだ。


――しかし回想は、極細の亀裂のような光を残して現在を切り裂き、また静かに閉じた。


榊原は目の前のフィル女士を見据え、表情を正した。


「なぜお前たちは、『鳥羽文明』に対したように、平和的な交易モデルを選べなかった。なぜわざわざ植民を選んだ」


「最初の五年は生態と社会の観察。次の五年は各部族の言語モデルと禁忌語彙の構築。三つ目の五年で、部族・都市国家・祭儀体系へ段階的に接触。最後の五年で、誤訳と礼儀衝突と政変を何度も乗り越えながら、ようやく星際法、文明主権、協力の境界を各勢力に説明した――しかも、その体制は今も続いている」


「理想的なやり方だった。あの場にいた誰もが、お前たちを信じた」


フィルは微笑んだ。


「そうかしら。あの場にいた人たちの大半は、私たちが『鳥人』の言葉を学ぶのにそんな時間をかけるのを、内心では笑っていたわ」


その笑みは薄い。

だがその一瞬、彼女はまだ少し青さの残る三十七号に戻ったようにも見えた。


「でも、あなた一人だけは笑わなかった。むしろ異様なくらい真剣に考えていた」


榊原は否定しない。


「あのとき考えていたのは、星際法の拘束力が、本当にそこまで厳密で、そこまで盤石なのかということだ」


「それで、抜け道を探し続けたわけ?」


「抜け道だけじゃない。塞ぐ方法もだ。惑星ひとつの運命を、異星文明の善意に預けるわけにはいかない。……結果として、私の懸念は当たった」


フィルはそこには応えず、むしろ独白するように言った。


「あなたはいつも真面目だった。だから私も、つい私たちの文明や、他星系の話をよく個人的に教えてしまった。まさか――」


「後悔しているか」


フィルは首を振り、代わりに榊原の顔の傷へ視線を向ける。


「私があの反異星人暴動で、あなたが私を守って死にかけたときに聞いたのと同じことを返すわ。――後悔している?」


榊原はきっぱりと言った。


「している」


衛星軌道定位砲オービタル・ロック・キャノンの発射命令を、私はためらわず下せるのと同じだ」


「嘘ね」


フィルは真っ直ぐ彼の目を見る。


「あなたみたいに真面目な人は、嘘をつくときほど目が強くなる」


榊原は視線を逸らした。


「今さらそんな話に意味はない……」


そう言って机の方へ戻る。

二人の間には、長くもない金属机が一枚だけ。


「それで。お前は何をさせたい」


榊原は冷たく問うた。


世間話は終わり。

回りくどさも不要。

一気に核心へ切り込む。


フィルは目を上げた。

すぐには答えず、彼の言葉の中に、探りと圧力のどちらが多いかを測るように見つめる。


榊原義重――

彼女が彼を見る目には、昔から憧憬と複雑な感情が同居していた。

あの頃、彼と関わるうち、彼の伴侶になり、一生を共にしたいとさえ思ったことがある。

だが星際法の規定では、移民として地球に滞在できる期間は最大でも二十年だった。


いま改めて目の前の男を見る。

老いたとはいえ、あらゆる崩壊を見たあとでも、自分を一本の釘のようにその場へ打ち込み続けられる、あの重みは少しも失われていない。

やはり、目を離しがたい。


そんな思いは一瞬で胸の底へ沈め、フィルは率直に言った。

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