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エピローグ

 朝日が差し込む部屋で目を覚ます。周囲を見ると四人が横たわっている。リオンとニーナはまだ寝ているようだが。


「……やっちまった。」


 小さく呟く。体は虚脱感に包まれ、複雑な気持ちが胸に渦巻いている。


「ふふ、おはようございます。……私を恨みますか?」


 先に起きていたクラリッサが微笑みの中に不安を滲ませながら俺に問いかける。


「……いや、恨むってことはないよ。まぁ子供云々は面食らったけどな。」


 それを聞いたクラリッサは安心したかのように俺の胸に顔を埋めて抱きしめてくる。……少し苦しいくらい力が入っているあたり本当に不安に思っていたのだろう。


「私はクラリッサが思ってるよりきっとクラリッサの事大事だよ。……これくらいで嫌いにはならないって。」


「そうですか……。それはリオン様より……でしょうか?」


 埋めていた顔を上げて尋ねてくるクラリッサ。


「……ずっと言ってるだろ。リオンに友愛以上の感情は無いよ。……昨日受け入れたのは苦しそうなアイツを見てられなかっただけだ。」


「嬉しいです……。」


 そういって笑ったクラリッサは再び俺を抱き枕にする。


 ……結局思い描いていた形とは異なる形になってしまった。けれど悪くはないと思っている自分が居るのも確かだった。


 

 ――――――――――


 

 あれから1か月。俺達は魔王討伐の褒章の一環で与えられた屋敷で暮らしていた。


 四人それぞれやることはあるので前みたいに常に一緒という訳では無いが、同じ屋根の下で暮らしていてまさに家族のような形だ。


 勿論俺は魔法研究に明け暮れている。未婚の王女という煩わしい立場から解放されつつ研究の環境が十分に確保された現在は、ある意味昔思い描いた理想かもしれない。



 「……もうこんな時間か。」


 先程昼に休憩を取ったような感覚だったが、気づけば夕方となっていた。そろそろキリのいいところで引き上げるべきかもしれない。


 コンコン――そんなことを考えていたら研究室のドアがノックされる。


「イゾルデ様。」


 俺をこう呼ぶ奴は屋敷に1人しかいない。俺はドアを開けてノックの主を迎え入れる。


「おうクラリッサ。どうした?」


「そろそろ貴女が片付けを始める頃かなと。……今夜、お部屋に来ませんか?」


 クラリッサは俺に自らの体を沿わせつつ、妖艶な笑みを浮かべて誘った。


 「すぐ片付けるから待ってて!」


 俺は急いで片付けてクラリッサの部屋へと向かう。



「おまたせ!」


 「いえ、大して待っておりませんよ。……私も彼も。」


 部屋に入ると当然部屋の主であるクラリッサ……、それとリオンが待っていた。……またか。クラリッサに誘われて部屋に向かうと一定の割合でリオンも待っている。毎回じゃないのが彼女の巧妙なところだ。


 俺を部屋に迎え入れたクラリッサは俺をベッドに引き込んで口づけをする。……そして俺はまた流されるままにリオンも含めて三人で夜を迎えることとなった。


 

 ――――――――――



 ベッドに横たわったイゾルデの傍でクラリッサとリオンは小声で話し込んでいた。


「……毎回毎回、こんな騙し討ちの形で……本当にいいのかな。」


 リオンは未だに捨てきれない罪悪感を抱えた様子で呟く。それを聞いたクラリッサが少し刺々しい様子で口を開く。


 「……リオン様はイゾルデ様の事を、少々足りない方とでも思ってらっしゃるのですか?」


 尋ねられたリオンは「いや」とすぐに否定を口にするとゆっくりと弁明をする。


「彼女は態度が少し悪い時があるけどしっかりした女性だよ。……でなきゃ王国でも最高の魔術師になんてなれるわけないじゃないか。」


「その通りです。」


 自分の事のように誇らしげにしたクラリッサがリオンの言葉に同調する。


「……何が言いたいの?」


「イゾルデ様が本当に嫌であれば、こう何度も騙されたりしないと言っているのですよ。……まぁ私のお誘いを断りたくないというのが一番でしょうがね。」


 そう付け加えたクラリッサの様子には独占欲と優越感が少し滲んでいる。


「そうだといいなぁ……。」


 リオンが少し寂しそうに、けれど納得したような様子で言う。


 そこで話が終わったとばかりにクラリッサは横で寝ているイゾルデに向き直って、彼女にしか聞こえない声量で呟いた。


 「……でしょう?」


 目は瞑ったままだが、顔の表面が熱を持つのを感じる。……狸寝入りが彼女にはバレていたようだ。


 まぁ否定はできない。心までは女になった訳じゃない……と思う。けれど四人で共に暮らす生活は楽しい。それにクラリッサに誘われて部屋にリオンの存在を認めた時も仕方ないかとすんなり受け入れるようになっていた。


 

 ――――――――――



 結局イゾルデの作戦は失敗し、想定外の生活が始まった。


 前世が男だった王女は勇者の妻となり、旅を共にした四人で暮らすことになった。


 イゾルデは心まで女になったわけではない。今でも前世の記憶を持つ、男だった自分がどこかにいる。


 でも、この生活を否定するつもりもなかった。


 魔法研究は続けられている。

 自由も、ある程度は保たれている。

 そして……大切な人たちもいる。


 望んでいた魔法研究も続けられ、大切な人たちと自由な時間を過ごす彼女は、研究室の窓辺で魔法陣を描きながら、悪くなさそうな顔をしていた。

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