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TS王女は罠にかかる

 王都に到着した翌日、四人で王城にて父に謁見することになった。

 魔王を討伐したパーティを見ようと、謁見の場には多くの貴族や臣下が集まっていた。彼らにより盛大な歓迎を受ける。


 「よくぞ魔王を討伐してくれた。お前たちは英雄だ。褒美を取らせよう。」


 父が穏やかに微笑む。リオンが前に一歩出て膝をつき、口を開く。


「陛下、私からは第二王女……イゾルデとの婚姻をお許しいただきたく存じます。」


 謁見の間がざわつく。俺も一歩前に出て口を開く。


「父上、私からも願いがあります。ニーナとクラリッサをリオンの側室として迎えることをお許しください。」


 父は少し驚いた表情を見せたが、すぐに王としての顔を作り笑みを浮かべた。


「……よかろう。魔王を討伐した勇者の願いだ。許可する。……そして娘よ。お前が構わないのなら四人での婚姻も認めよう。」


 謁見の間が完成に包まれる。



 その後準備期間を経て、結婚式が行われた。


 華やかな式場に、多くの貴族や民衆が集まる。四人での同時の婚姻式は珍しい形式であったが、英雄たちの門出は盛大に祝福された。


 全てが終わった後に俺は自分の部屋に戻った。


「……やっと終わった。」


 長い一日だった。


 式を振り返る。誓いに言葉の後の……誓いのキス。ここまで来て変な不仲説でもできようものなら面倒なのでしっかりとこなした。口をつけた後にこっそり目を開いたら、真剣にこちらを見つめるリオンと目があってしまったが……形式的なものだ。気にする必要はない。



 全てが片付いて安堵の溜息を吐きだしていると、コンコンとドアをノックする音がする。


 「誰でしょう?」


 もう旅は終わったのだから、脱ぎ捨てなれた王女の仮面を被りつつ尋ねる。


 「クラリッサです。少しお話いいでしょうか?」


 クラリッサか……。少し警戒するが、ドアを開ける。……一時期は目的のわからない彼女に警戒させられっぱなしだったが……今思うと彼女はリオンの側室になって教会の影響下から脱したかったのだろう。目的が達された以上、警戒する必要はない。


 部屋に入ってくるクラリッサはいつもの法衣ではなく夜の装い。髪も下ろしている。いつもより艶やかな雰囲気の彼女に少しドキッとする。


「イゾルデ様、お疲れ様でした。」


 穏やかな笑みで言う。


「あ、あぁ、クラリッサもお疲れ。……で、どうしたの?」


 クラリッサがここに来た理由がわからない。……今夜は初夜の為、俺とニーナとクラリッサはメイドに言われるがまま体を清められて華やかなランジェリーを着させられた。……ただ実際にリオンを愛していると言えるのはニーナだけなので俺とクラリッサはこっそりと自室に戻ってきたわけだが、なぜか彼女は俺の部屋に来ている。


「……実は、お礼に参りました。」


 お礼?なんだ、俺何かしたか?……お礼参りってことじゃないよな?


「おひとつ確認なのですが、貴女の前世の告白の時仰っていたことは本当なのでしょうか?……私が好みだと。」

 

 あぁ……そういえば、空気が重かったのもあってつい口を滑らしたんだっけ。


「えっと……まぁ、正直ドストライクです。」


「でしたらよかったです。」


 そう言ってクラリッサは隣にぽすんと腰かけて俺に体を預ける。


「……好きにしていいですよ。」


「……え。」

 

「……リオンの想いが貴女にあると気付いた時にこれは使えると思いました。国に戻れば貴族籍を与えられるであろうリオン、功績も考えればとても国に近い立場となるでしょう。……故にその側室となれば教会に力を与えるのを避けつつ私は影響下から脱せます。」


 彼女は今まで言っていなかった真意を語りだす。


「しかし計算外がありました。貴女がリオンと結ばれるのを思いのほか強情に避けようとしていたことです。……もとより定めていた婚姻相手の条件と貴女とリオンの仲を考えれば受け入れると思っていました。……まぁお話を聞けば納得できました。今考えると同室で着替えている時の様子はおかしかった気もしますね。」


 一度言葉を止めた彼女はこちらをからかうように微笑む。……理性と戦って目を必死に逸らしていたことを思い出して顔に熱が集まる。


「……結局は私の目的通りの形となりました。けれど貴女には悪いと思っているんです。形だけでも貴女を隣におけたリオンはいいでしょう、リオンの妻となれたニーナもいいでしょう。しかし貴女には、形式上と言えど男性と結婚することを強いてしまいました。」


 彼女は伏し目がちにしながら、申し訳なさそうな声色で続ける。


「ですので……私をお好きにしてくださいな。」


 言葉を切った彼女は俺の目を真っすぐと見つめる。……お互いにランジェリーをまとい、好みの子に好きにしていいなんて言われて理性がガクガクと音を立て始めている。


「……い、いや俺も納得してるんだから……そんなお礼なんて_」


 なんとか断りの言葉をしぼりだそうとすると「ハァ……」とため息を吐いたクラリッサの腕が俺の頭に巻き付いて唇を奪われる。……少ししてぷはぁと息継ぎをしたクラリッサが口を開く。


「……ふふ。口直しになりましたか?披露宴の時……眉間に皺が寄っていましたよ。少しリオン様が可哀想でしたね。」


 口づけを終えた彼女は珍しく無邪気に笑いながら続ける。


「わかりました。正直にお伝えしましょう。……お礼というのが嘘という訳ではありませんが、私も貴女に惹かれているのですよ。」


 俺は彼女の言葉を聞いて、声も出せずに目を見開く。


 「あぁ先にお伝えしておくと私も中身が男性……という訳ではありませんよ?今まで特に女性を愛するような事は無かったのですが……。貴女の中身が男性だからなのでしょうか?……まぁそこは気にする必要ありませんね。とにかく貴女のそばにいたい……触れあいたい……そういった気持ちがあるのが事実です。」


 突然唇を奪われて……次は告白と来た。今日だけで驚きの新記録を彼女に二回も塗り替えられている。


「きっかけはなんだったのかも覚えてはいませんが、……貴女が好きです。ですので……どうか。」


 彼女はそこで言葉を切って俺をベッドに引き込んで仰向けに寝転んだ。……もはや止まる理由が見つからなかった俺は気が付くと今度はこちらからクラリッサの唇を奪っていた。


 

 ――――――――――



 心地の良い脱力感を抱きながらベッドに横たわる。隣にはクラリッサ。


「……やっちまった。」


「ふふ……後悔していますか?」


「いや、それはしてないけど。……お前こそいいのかよ。教会こういうの厳しいだろ。」


 中世的世界観の多分に漏れず、教会では同性愛はご法度だ。


「知ったことではありませんわね。」


「……お前がいいならいいけどさ。」



 

「……そろそろですかね。」


「なにが?」


 二人で何をするでもなくベッドに横たわっていると時計を見たクラリッサが呟いた。


「こちらの話です……っと丁度来ましたね。」


 クラリッサが呟いた直後、足跡が聞こえたかと思うとノックも無しにドアが開いてリオンとニーナが入ってくる。


「!!!」


 慌ててシーツで体を隠しながら様子を伺う。明らかに事後の様子で二人横たわっていた俺とクラリッサを見ても二人に驚きはない。むしろ予想していたような表情だ。


「……な、なんで。」


 リオンとニーナも明らかに事後の様子。部屋の移動の為だけにまとった外装を除いたら俺とそう変わらない恰好だろう。


 狼狽して固まった俺を尻目に横で寝ていたクラリッサが起き上がる。それに合わせるようにニーナも俺の隣に腰を下ろし、囲まれる形になる。


「え、なんなの?」


「イゾルデ様……申し訳ありません。先程貴女に申したことに嘘偽りはありません……ですが1つお伝えしていないことがありました。」


 俺の肩を掴んでまるで逃げられないようにしているクラリッサは語りだす。


「私は貴女をお慕いしております……ですので、貴女の子供が見たいのです。」


 ……?好きな人の子供が見たい……?まぁ不自然なことではないが。


「まぁわかるけど……私とクラリッサじゃ残念だけど……。」


 そこまで言って可能性に思い当たる。彼女がそんなことわからないわけない。……しかし彼女は俺の子供が見たいとしか言っていない。おそらく答えにたどり着いた俺は目の前に立ったままのリオンに視線をやる。……彼は申し訳なさそうな表情を浮かべつつも、熱い視線を俺に送っていた。


「勿論私とイゾルデ様で結ばれて子供が設けられればそれが一番……ですが無理なものは無理です。……まぁリオン様であればギリギリ許せますので。」


 最悪の予想は当たっているらしい。もはや彼女に説得の余地はない。……俺は肩を固定している片棒を掴んでいるもう一人に声をかける。


「ニーナ!いいのか!?このままじゃリオンと俺が目の前で……いいのか!?」


 「リオンの初めてはもらえましたので!……イゾルデさん。私はみんなで家族になりたいんです。それにリオンはちゃんと私の事も愛してくれてますけど、それでもイゾルデさんも大事なんです。……大丈夫です!本当の家族になるだけです!それにリオンは優しくしてくれました。イゾルデさんもきっと気に入りますから!」


 コイツもダメだ。顔を上気させて先程の感想を語り始めている。


「リオン!……お前!言ったよな!?形だけでもいいって……!あれは嘘だったのか……?」


 俺が責めるようにまくし立てるとリオンは申し訳なさそうな顔をする。やはり説得するならコイツだ……!


「……嘘じゃなかったさ。君が幸せならそれでいいかなって……あの時は確かにそう思ってたんだ……でも_」


 リオンが葛藤するように言葉を紡ごうとしていたが、リオンの後ろ側にまわったクラリッサがリオンの両肩に優しく手を置き口を開く。


「……大丈夫ですわリオン様。貴方は十分耐えました。」

 

 微笑みながらリオンを慰めるクラリッサは見た目だけならまさに聖女。しかし言葉巧みに人を惑わす魔性のような雰囲気が滲んでいた。


「イゾルデ様……貴女は知らないでしょうが……。リオン様はあの約束をしてから……ずっと苦しんでいたのですよ。先程三人で相談している時も苦しそうに涙を滲ませて……。私とて聖職者の身です。毎晩悪夢を見るほど苦しんでいる彼を見捨てることがどうしてできましょうか……。」


 そう言ってクラリッサは涙を流す。……たしかに俺とて心苦しい……が。話す前にリオンの耳元で小さく口を開いたこと、三人で相談したと言っているのに今初めて聞いたと言わんばかりにショックを受けているニーナの様子について説明してほしい。


「イゾルデ様……どうか、苦楽を共にした私たちの為に受け入れてくださらないでしょうか……?」


「いやぁ……でもなぁ。」


「……ハァ、ニーナさん。そのまま抑えててください。」

 

 尚も難色を示した俺の様子にクラリッサは清廉な微笑みを消して、面倒臭そうに溜息を吐いてニーナに声をかけて共に俺を抑える。


「リオン様。どうぞ。」


「え、いやでもイゾルデはまだ……。」


「いいのです。大体先程女の身で私を抱いたのですから、文句など言わせません。さぁ早く。」


 そう言ってクラリッサは俺に声をかける。


「イゾルデ様……私は今まで女性と褥を共にすることは想像したことはありませんでした……が先程の時間は悪くありませんでした。貴方も案外気に入るかもしれませんよ。」


 クラリッサとニーナに抑えられ、もはやまな板の鯉と化した俺はリオンの顔に影が差していることに気が付いた。


「……イゾルデ……僕は……。」


 そう呟いた彼は感情が葛藤からか泣きそうになっていた。……おそらく先程のイゾルデの悪夢云々は適当言っているだけだったろうが、結果的には全部嘘ってわけでもないらしい。……今でも友達としてしか見られない。だが計画に乗って置いていざその時になったら日和る優しいコイツが目の前で苦しそうにしているのを見て、思わず口を開いていた。


「……いいぞリオン。もう好きにしろよ。」


 それを聞いたリオンは一瞬喜びを浮かべたがすぐに首を振る。


 「いやでも……こんな形はやっぱり。……すまないイゾルデもう近づかないから_」


「いいって言ってんだろ。……別に自暴自棄って訳じゃねぇよ。ただお前にそんな顔させるほうが嫌なんだよ。」


 そう言って俺は先ほどイゾルデが俺にしたようにリオンの首に手をかけてベッドに引き込んだ。


「もう覚悟したからさ……気が変わらないうちに始めてくれ。」


 それを聞いたリオンは俺に覆いかぶさり、窓から朝日が差し込むまで四人で過ごした。


 

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