72. ダンテ: 今度は、ひとりじゃない! ( 最終話 )
「ロザリア!!!」
――ダンテは叫び声をあげて、ベッドから跳ね起きた。
目を開けると、そこは刑務所の独房だった。目覚めた瞬間、反射的に胸に手を当てる。
「……夢か」
ダンテは胸に手を置いた。
心臓はちゃんと動いている。だが、胸の上に残る火傷の痕が痛んだ。
今見たのは、ただの悪夢だったのか。それとも、二度目のチャンスだったのか。
いいや、どちらでもない。
これは、これから待ち受ける悪夢を生き抜くために与えられた“機会”だった。
ようやく終わる。今日は刑務所を出る日だ。ルカが迎えに来る。
俺が刑務所に入った理由は、友人を守るためだった――少なくとも、これまではそう思っていた。
だが今日、出所の日になって、ようやく分かった。
俺がルカの代わりに刑務所に入ったのは、彼を救うためだけじゃない。
自分自身を救うためでもあったんだ。
ロザリアを探し続けた疲れを癒すため。
ロザリアを想い続ける苦しさから逃れるため。
ここは、ロザリアを見つける前の“準備”の場所だった。
そして、彼女を見つけたあと、間違った選択をしないために――俺はここにいた。
「ダンテ・パレルモ、準備しろ。出る時間だ」
刑務官が独房に入ってきて、俺に声をかけた。
手続きを終え、外へ出ると、刑務所の前にはルカが待っていた。
門を出ると、ルカは車の横に立ち、じっと俺を見ていた。
――ルカも、同じ悪夢を見たんだ。すべてを知っている。
俺はルカを見つめながら、彼のもとへ歩み寄った。
「お前も、同じ夢を見たのか?」
「同じ悪夢だった。でも――あの悪夢の中で犯した過ちを、もう一度繰り返す必要はない」
ルカも同じ夢を見ていた。すべてを理解していた。
「ロザリアは……お前の家にいるのか?」
「そうだ。君のことは覚えていない。でも、すべて話した。君が誰なのか、ロザリアに伝えた」
そう言ってルカは、まっすぐ俺の目を見つめた。
「帰ろう、兄弟。俺たちの家へ」
これから起こる不幸を前もって知っていれば、すべてが変わる。
結果も結末も分かっていれば、もっと正しく、もっと良い選択ができる。
だが――痛みそのものは、変わらない。
俺は今日、刑務所を出た。
ルカは俺を家へ連れて行った。
家に着くと、ロザリアはエリオを抱いて、家の前で待っていた。
今回は、ルカだけじゃない。俺のことも待っていた。
ルカが車を止め、俺たちは降りた。
ロザリアはエリオをルカの腕に預け、俺のもとへ歩み寄った。
「お帰りなさい、ダンテ」
ロザリアは、俺を抱きしめた。
彼女は、俺を抱きしめていた。
何年もかけてようやく見つけたのに、見つけたその日に失った。
痛みは同じ。喪失も同じ。何ひとつ変わっていない。
むしろ、前よりも胸が痛んだ。
でも――今回は違う。
ロザリアを抱きしめた瞬間、涙が止まらなかった。胸が焼けるように痛かった。
だが今回は、俺の痛みは隠されたものじゃない。
もう、隠す必要もなかった。
ロザリアも、ルカも、俺の苦しみを見ていた。
今回は、彼女に抱きついて泣いても、髪が涙を遮ることはなかった。
涙はそのまま、彼女の首元へ流れ落ちた。
ロザリアは、今もルカを愛している。
これからも、決して彼を手放さないだろう。
それでも――俺の痛みを見て、受け止め、理解し、助けようとしてくれている。
悪夢の中のように、俺から距離を取ろうともしない。
哀れむ目で見ることもしない。
今のロザリアは、俺を“傷ついた男”として見ている。
癒やしたいと、本気で思ってくれている。
今回は違う。
ルカは、俺の人生で唯一の“近しい存在”として、俺の痛みを無視しない。
彼はロザリアを手放さない。
だが、それを俺を傷つけることなく、やり遂げようとしている。
今回は違う。
今回は、親友が、魂の友がそばにいる。
今回は――ルカが、俺のそばにいる。
刑務所を出たあと、ルカは俺に出て行けとは言わなかった。
この家で、彼らと一緒に暮らそうと言ってくれた。
最初は、受け入れるのがとても辛かった。
だが、この痛みは一度経験している。あの悪夢と同じだ。
違うのは、今の俺には“経験”があるということだった。
痛みを受け入れることを、俺は学んでいた。
ロザリアとルカが婚約している現実を理解し、受け入れるには時間が必要だった。
それを、二人も分かってくれていた。
ロザリアもルカも、俺の前で愛情を見せることはなかった。
まるで、三人の友人が同じ家で暮らしているかのようだった。
やがて、二人は入籍し、その後、結婚式を挙げた。
式は、ロザリアの望みどおり、ぶどう畑で行われた。
悪夢の中のような結婚式にはならなかった。
誰も、ロザリアや、彼女のお腹の中の子どもを傷つけることはできなかった。
ルカと俺は、全力でロザリアを守り、そして守り切った。
結婚式は、夢のように美しかった。
俺はルカのもとで働き始めた。
仕事に深く関わるようになり、気がつけばロッコ以上に頼られる存在になっていた。
ルカと共にロシアへ行き、ニコライ・イワノフと契約を結んだ。
彼はルカを支援し、ほどなくしてルカはガブリエル・ジョルダーノを殺し、その全財産を手に入れた。
ジョヴァンニが生まれた。
数か月後、ロザリアは再び妊娠し、ルカは二度目の父親になった。
ドメニコが生まれた。
――俺のドメニコが。
父親はルカだ。
だが、育てるのは俺だった。
名前をつけたのも、俺だ。
ドメニコが生まれたあと、大きな儀式を行い、俺は彼の代父になった。
その後、俺は自分の家へ移った。
それでも、毎日ルカと一緒に働いていた。
そして毎晩、ドメニコに会うため、ルカと共に彼の家へ行った。
ドメニコは一歳になった。
彼は、俺の“薬”だった。
俺の痛みを、確かに和らげてくれた。
毎週必ず一日は、ドメニコを自分の家に連れて帰った。
息子が安心して過ごせるよう、若い乳母も雇った。
悪夢は、いつも悪いものとは限らない。
時には、これから訪れる痛みに備えさせてくれる。
悪夢は、痛みを消してはくれない。
楽にもしてくれない。
だが――同じ悪夢をもう一度生きるとき、
すべてを壊さないために、正しい行動を教えてくれる。
作者より
貴重なお時間を使って、私の物語を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語を皆さまと共有できたことを、心から嬉しく思っています。
そして、この物語を私と一緒に体験してくださったことに感謝します。
これから公開する新しい物語も、楽しんで読んでいただけたら幸いです。




