55. ロザリア: 思い出しても、帰る場所は一つ!
すべてを思い出した瞬間、とても奇妙な感覚だった。思い出したはずの出来事が、まるで自分のものではないように感じられた。まるでそれは、他人の記憶を覗き込んでいるかのようだった。
まるで――ダンテの婚約者だったロザリアは、あの火事で本当に焼け死んでしまったかのように。
ロザリアは炎の中で生き延びることができなかった。ダンテに属していた女性は、そこで死んだのだ。
その代わりに、炎の奥深くから、まったく別の存在が現れた。
新しく生まれた魂――ずっとルカを探し続けていた魂。
その魂はロザリアの身体を借りて炎の中から抜け出し、ルカを見つけた。そして、ロザリアの記憶を返したのだ。
その瞬間、ダンテに対して私が感じていたのは、ただ「哀れみ」だけだった。
それ以外の感情は、何ひとつなかった。
大きな空白。
私は彼のものではなかった。だから、ダンテに対しては同情以外、何も感じられなかった。
刑務所から出たあとにダンテと再会した日から、今日までのすべてが目の前をよぎった。
どれほど辛かっただろう。
愛する人が、別の誰かに恋をしている姿を見ること。
長い間探し続けていた愛する人が、他の人と結婚するのを見ること。
そして、その人の子どもを腕に抱くこと。
ダンテの気持ちは理解できた。
もしルカが他の誰かを愛している姿を見たら、私はきっと死んでしまう。
私はダンテを思い出していたけれど、彼を理解するためでさえ、頭に浮かんでいたのはルカだった。
私たちは、ただ静かに向かい合って座っていた。
ダンテの表情は悲しげで、それでもどこか希望を抱いているようだった。
私は「悲しい」としか言えなかった。
本当に悲しかった。けれど、罪悪感はなかった。
なぜなら、ダンテに属していた私は、もうここにはいなかったから。
私にはなれなかった。
私の魂も、私の存在も、すべてルカのもの。
これからも、ずっとそう。
「……本当に、全部思い出したのか?」
ダンテは、私の口から直接その言葉を聞きたがっていた。
「全部、思い出したわ。ごめんなさい……本当に、ごめんなさい」
ロザリアは泣きながら、ただ謝り続けた。
「……俺のところに、戻ってくるのか?」
ダンテは必死に尋ねた。
「戻れない。だって、私は最初からあなたのものじゃなかった。
あなたと一緒にいた“私”は、本当の私じゃない」
ロザリアははっきりと言った。
その答えは、ダンテをさらに傷つけた。
彼の目には涙が浮かんでいた。
何年もの時間、数えきれない出来事を経て、私たちが交わした言葉は、ほんの二言三言だけだった。
ダンテは立ち上がった。
「……待つよ。
いつか、本当の意味で俺のことを思い出してくれる日を」
そう言い残して、ダンテは扉へ向かい、去っていった。
私はしばらく、ソファに座ったまま動けなかった。
ルカはすべてを聞いていた。
二階の階段に座り、私に時間を与えるために待っていたのだ。
しばらくして、彼は降りてきた。
私が泣いているのを見て、耐えきれずに近づいてきた。
何も言わず、ただ私を抱きしめ、そのまま静かに寝室へ連れて行った。
ベッドに私を横たえ、自分も横になり、後ろから強く抱きしめた。
「全部思い出してくれて、嬉しいよ……
でもね、愛しい人。今度は、その思い出すべてを、永遠に忘れる番だ」
ルカは私の耳元で、そう囁いた。
彼は、私がどれほど彼を愛しているかをよく知っていた。
それでも、記憶が戻ったことに不安を感じていた。
ダンテが去る前に言った言葉も、彼の心を乱していた。
ダンテが嘘をついていないこと、その言葉がどれほど本気だったかを、ルカは分かっていた。
ダンテが、本当に私を待ち続けるだろうということも。
「覚えておくべきことは、ただ一つ。
君が帰る場所なんて、どこにもない。
君の居場所は、俺の心。
俺の思考。
俺の身体。
俺の視線。
そして――俺の隣だ。
覚えておくのは、それだけでいい。愛しい人」
そう言いながら、ルカはロザリアの首元に顔を埋め、そっとキスをした。




