42. ロザリア:ルカの火傷の跡。
ルカは車を確認しに行っていた。
私は安静室に一人でいた。
突然、耳をつんざくような激しい爆発音が響き、部屋全体が大きく揺れた。
床に投げ出され、意識を失った。
気がついた時、廊下は煙に包まれていた。
ドアを開けて外へ出ようとした。
ちょうどドアを出ようとした瞬間、向かいの部屋から炎が噴き出した。
私は慌ててドアを閉め、部屋へ戻った。
でも、もう一度外に出ようとはできなかった。
足に力が入らなかった。
膝から力が抜けたように、その場に崩れ落ちてしまった。
立ち上がれなかった。
また火事に捕まってしまった。
この炎は、私を焼き尽くすまで追いかけてくる――そんな気がした。
足が動かない私は、ただ床に座り込むしかなかった。
ベッドの横に、水のボトルが詰まった棚があった。
腕で床を押しながら、必死に棚まで這っていった。
数本の水を取り、髪も服もびしょ濡れになるまで自分にかけた。
私が死ねば、赤ちゃんも死んでしまう。
その考えが、私をさらに絶望へ突き落とした。
泣くことしかできなかった。
「ごめんね……許して……
ママ、あなたを守れなかった……」
ロザリアは両手でお腹を抱きしめた。
頭からルカのことが離れなかった。
どれほど赤ちゃんを助けたいと思っていても、
ルカが私たちを助けに来てほしくなかった。
火事はあまりにも大きく、建物全体を包み込んでいた。
ルカが助けに来たら、怪我をするか、命を落とすかもしれない。
お願い、ルカが建物の中にいませんように。
お願い、私のために来ていませんように。
――でも、願いとは逆のことが起きた。
「愛しい人!無事か!」
ルカがドアを開け、私のもとへ駆け寄ってきた。
ルカは来てしまった。
私たちを置いていかなかった。
私とお腹の赤ちゃんを、炎の中に残したままにしなかった。
ルカに抱きついた瞬間、
手が彼の背中に触れた。
右肩から背中にかけて、長く続く酷い火傷。
火傷の傷口から滲む血と焼けた皮膚の感触が、私の手に伝わった。
その瞬間、気を失いそうになった。
でも、ルカのぬくもりが、私の足に力を戻してくれた。
私は立ち上がることができた。
「ここから出なきゃ、愛しい人!」
ルカとロザリアは手を取り合い、部屋を出た。
「廊下の奥に非常階段がある。そこへ行くんだ」
ルカは私を背中側に守るようにして進んでいた。
廊下は途中で二手に分かれていた。
左側、突き当たりに非常階段があった。
ルカはそこへ向かっていた。
彼は私の手を強く握り、すぐ後ろに引き寄せるように歩いていた。
でも――
私が前を歩けばよかった。
ルカの背中の火傷が、胸を締めつけるほど痛かった。
ゆっくりと廊下を進む。
安静室の次、二つ目の部屋の前を通りかかった時だった。
「赤ちゃんが泣いてる……」
私は思わず、その部屋を振り返った。
「誰も泣いてない、聞き間違いだ」
ルカは一刻も早く、私を炎の外へ連れ出したかった。
ルカも、赤ちゃんの泣き声を聞いていた。
でも私とお腹の子を守りたい一心で、
彼はこの世で最も冷酷な男になりかけていた。
「だめよ!
私たちは、愛や赤ちゃんのために、すべてを焼き払っていいわけじゃない!」
私はルカを止めた。
私たちを救うために、ルカは冷酷で身勝手な存在になっていた。
でも彼は、その姿を恥じてはいなかった。
その気持ちは分かる。
私だって、ルカを救うためなら、世界を犠牲にできる。
でも、これは違う。
ここには、助けを待つ赤ちゃんがいる。
この部屋を素通りしたら、
生まれてくる私たちの子の顔を、どうやって見るというの?
何事にも限界がある。
愛にも、尊重にも、
大切な人のために差し出せる犠牲にも。
もし今日、この赤ちゃんを置いて出てしまったら、
私たちの愛も、これから生まれる子の存在も、意味を失ってしまう。
たとえ生きて外に出られても、
私とルカの存在そのものが、焼け落ちてしまう。
ルカも同じことを考えていた。
ただ一瞬、迷っただけだった。
彼は再び私を背中にかばい、ドアを開けた。
「お願い……息子を助けて……!」
ベッドに横たわる女性が、泣きながら懇願した。
部屋は煙で満ちていた。
ベッドには若い女性がいた。
手術を終えたばかりで、起き上がれない様子だった。
その横には、生後二、三か月ほどの赤ちゃんが揺りかごに眠っていた。
「身分証を、息子の服の中に入れました……
どうか、連れて行って……
父親が、きっと見つけてくれます……」
女性は私を見つめ、涙ながらに訴えた。
私たちは赤ちゃんを抱いて部屋を出た。
腕の中の赤ちゃんを抱きしめながら、
私は最後に振り返り、窓越しにその女性を見た。
涙が止まらなかった。
でも、彼女は微笑んでいた。
まるで、自分自身が救われたかのような、安堵の表情だった。
赤ちゃんは私の腕の中にいた。
ルカは再び私の前を進んでいた。
赤ちゃんを抱いていたから、彼の手を握ることはできなかった。
廊下の端が見えてきた。
非常階段が見えた。
あと二つの部屋の前を通り抜ければ、助かる――はずだった。
「ルカ!」
私が叫んだ。
ルカがちょうどドアの前を通った瞬間、
部屋の中の炎が爆発し、ドアが吹き飛んだ。
ドアは激しくルカにぶつかり、
彼の体は数メートル先へ弾き飛ばされた。
私は後ろへ下がった。
赤ちゃんも、私も無事だった。
炎がこちらへ来ていないのを確認し、
ルカのもとへ駆け寄ろうとした、その時――
「助けて!助けて!」
炎に包まれた三人が、部屋から飛び出し、私に向かってきた。
二人の女性と一人の男。
全身が燃え上がりながら、
「助けて!」と叫び、こちらへ迫ってきた。
私は赤ちゃんを強く抱きしめ、後ずさった。
でも、これ以上下がれなかった。
背後も炎に包まれていた。
あと数歩下がれば、
背後の炎が、私と赤ちゃんを焼き尽くす。
立ち止まっても、
燃え盛る人々がこちらへ来る。
――背後の炎か、迫り来る炎か。
どちらにしても、私たちは焼かれる。
「ロザリア、伏せろ!」
ルカが銃を構え、私に向かってくる人たちに照準を合わせた。
ルカは立ち上がっていた。
無事だった。
その声を聞いた瞬間、私は身を低くした。
数秒後、炎に包まれて迫ってきた人々は床に倒れた。
もう、助けを求める声は聞こえなかった。
ルカは、三人を拳銃で撃っていた。
私たちは建物の外へ出ることができた。
赤ちゃんを、母親の身分証と一緒に救急隊へ引き渡した。
今日の火事から、私たちは生きて逃げ延びた。
でも――
助かった気は、まったくしなかった。
今日の炎は、
私たち二人の魂を、確かに焼き尽くしていた。




