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愛の残響  作者: あぜるん
42/73

42. ロザリア:ルカの火傷の跡。

ルカは車を確認しに行っていた。

私は安静室に一人でいた。

突然、耳をつんざくような激しい爆発音が響き、部屋全体が大きく揺れた。

床に投げ出され、意識を失った。


気がついた時、廊下は煙に包まれていた。

ドアを開けて外へ出ようとした。

ちょうどドアを出ようとした瞬間、向かいの部屋から炎が噴き出した。

私は慌ててドアを閉め、部屋へ戻った。


でも、もう一度外に出ようとはできなかった。

足に力が入らなかった。

膝から力が抜けたように、その場に崩れ落ちてしまった。

立ち上がれなかった。


また火事に捕まってしまった。

この炎は、私を焼き尽くすまで追いかけてくる――そんな気がした。


足が動かない私は、ただ床に座り込むしかなかった。

ベッドの横に、水のボトルが詰まった棚があった。

腕で床を押しながら、必死に棚まで這っていった。

数本の水を取り、髪も服もびしょ濡れになるまで自分にかけた。


私が死ねば、赤ちゃんも死んでしまう。

その考えが、私をさらに絶望へ突き落とした。

泣くことしかできなかった。


「ごめんね……許して……

ママ、あなたを守れなかった……」


ロザリアは両手でお腹を抱きしめた。


頭からルカのことが離れなかった。

どれほど赤ちゃんを助けたいと思っていても、

ルカが私たちを助けに来てほしくなかった。


火事はあまりにも大きく、建物全体を包み込んでいた。

ルカが助けに来たら、怪我をするか、命を落とすかもしれない。


お願い、ルカが建物の中にいませんように。

お願い、私のために来ていませんように。


――でも、願いとは逆のことが起きた。


「愛しい人!無事か!」


ルカがドアを開け、私のもとへ駆け寄ってきた。


ルカは来てしまった。

私たちを置いていかなかった。

私とお腹の赤ちゃんを、炎の中に残したままにしなかった。


ルカに抱きついた瞬間、

手が彼の背中に触れた。


右肩から背中にかけて、長く続く酷い火傷。

火傷の傷口から滲む血と焼けた皮膚の感触が、私の手に伝わった。

その瞬間、気を失いそうになった。


でも、ルカのぬくもりが、私の足に力を戻してくれた。

私は立ち上がることができた。


「ここから出なきゃ、愛しい人!」


ルカとロザリアは手を取り合い、部屋を出た。


「廊下の奥に非常階段がある。そこへ行くんだ」


ルカは私を背中側に守るようにして進んでいた。


廊下は途中で二手に分かれていた。

左側、突き当たりに非常階段があった。

ルカはそこへ向かっていた。


彼は私の手を強く握り、すぐ後ろに引き寄せるように歩いていた。

でも――

私が前を歩けばよかった。

ルカの背中の火傷が、胸を締めつけるほど痛かった。


ゆっくりと廊下を進む。

安静室の次、二つ目の部屋の前を通りかかった時だった。


「赤ちゃんが泣いてる……」


私は思わず、その部屋を振り返った。


「誰も泣いてない、聞き間違いだ」


ルカは一刻も早く、私を炎の外へ連れ出したかった。


ルカも、赤ちゃんの泣き声を聞いていた。

でも私とお腹の子を守りたい一心で、

彼はこの世で最も冷酷な男になりかけていた。


「だめよ!

私たちは、愛や赤ちゃんのために、すべてを焼き払っていいわけじゃない!」


私はルカを止めた。


私たちを救うために、ルカは冷酷で身勝手な存在になっていた。

でも彼は、その姿を恥じてはいなかった。


その気持ちは分かる。

私だって、ルカを救うためなら、世界を犠牲にできる。


でも、これは違う。

ここには、助けを待つ赤ちゃんがいる。


この部屋を素通りしたら、

生まれてくる私たちの子の顔を、どうやって見るというの?


何事にも限界がある。

愛にも、尊重にも、

大切な人のために差し出せる犠牲にも。


もし今日、この赤ちゃんを置いて出てしまったら、

私たちの愛も、これから生まれる子の存在も、意味を失ってしまう。


たとえ生きて外に出られても、

私とルカの存在そのものが、焼け落ちてしまう。


ルカも同じことを考えていた。

ただ一瞬、迷っただけだった。


彼は再び私を背中にかばい、ドアを開けた。


「お願い……息子を助けて……!」


ベッドに横たわる女性が、泣きながら懇願した。


部屋は煙で満ちていた。

ベッドには若い女性がいた。

手術を終えたばかりで、起き上がれない様子だった。


その横には、生後二、三か月ほどの赤ちゃんが揺りかごに眠っていた。


「身分証を、息子の服の中に入れました……

どうか、連れて行って……

父親が、きっと見つけてくれます……」


女性は私を見つめ、涙ながらに訴えた。


私たちは赤ちゃんを抱いて部屋を出た。

腕の中の赤ちゃんを抱きしめながら、

私は最後に振り返り、窓越しにその女性を見た。


涙が止まらなかった。

でも、彼女は微笑んでいた。

まるで、自分自身が救われたかのような、安堵の表情だった。


赤ちゃんは私の腕の中にいた。

ルカは再び私の前を進んでいた。

赤ちゃんを抱いていたから、彼の手を握ることはできなかった。


廊下の端が見えてきた。

非常階段が見えた。

あと二つの部屋の前を通り抜ければ、助かる――はずだった。


「ルカ!」


私が叫んだ。


ルカがちょうどドアの前を通った瞬間、

部屋の中の炎が爆発し、ドアが吹き飛んだ。


ドアは激しくルカにぶつかり、

彼の体は数メートル先へ弾き飛ばされた。


私は後ろへ下がった。

赤ちゃんも、私も無事だった。


炎がこちらへ来ていないのを確認し、

ルカのもとへ駆け寄ろうとした、その時――


「助けて!助けて!」


炎に包まれた三人が、部屋から飛び出し、私に向かってきた。


二人の女性と一人の男。

全身が燃え上がりながら、

「助けて!」と叫び、こちらへ迫ってきた。


私は赤ちゃんを強く抱きしめ、後ずさった。

でも、これ以上下がれなかった。

背後も炎に包まれていた。


あと数歩下がれば、

背後の炎が、私と赤ちゃんを焼き尽くす。


立ち止まっても、

燃え盛る人々がこちらへ来る。


――背後の炎か、迫り来る炎か。

どちらにしても、私たちは焼かれる。


「ロザリア、伏せろ!」


ルカが銃を構え、私に向かってくる人たちに照準を合わせた。


ルカは立ち上がっていた。

無事だった。

その声を聞いた瞬間、私は身を低くした。


数秒後、炎に包まれて迫ってきた人々は床に倒れた。

もう、助けを求める声は聞こえなかった。


ルカは、三人を拳銃で撃っていた。


私たちは建物の外へ出ることができた。

赤ちゃんを、母親の身分証と一緒に救急隊へ引き渡した。


今日の火事から、私たちは生きて逃げ延びた。

でも――

助かった気は、まったくしなかった。


今日の炎は、

私たち二人の魂を、確かに焼き尽くしていた。


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