38. ダンテ: まさにルカを殺そうとしたその時!
あの日、ゲームの最中にロザリアへ投げたあの質問——
あれは、わざと彼女を傷つけるために言った言葉だった。
その瞬間は、彼女を傷つけたいと思っていたのだ。
だけど後悔した。
ロザリアが悲しそうにしている姿を、俺はどうしても耐えられない。
彼女に謝ったが、ロザリアは気にしていないと言った。
気にするはずがない。
俺なんて、ロザリアにとって“誰でもない”存在なのだから。
俺の言葉なんかで、どうして彼女が心乱されるだろう。
牢を出てから、もう二週間が過ぎていた。
ルカは相変わらず仕事に出ていた。たまに俺もついて行ったが、基本は家にいた。
牢に入れられる前から、ルカはあまり俺を仕事に巻き込むことはなかった。
ルカが家族を失ったときは、そばにいてほしいと言われた。
でも今の彼はもう一人ではない。
俺は必要とされていない。
ロザリアが彼のそばにいる。
ルカにはもう家族ができたのだ。
なら、俺が去る時が来たんだろう。
本当に“ひとり”なのは、今や俺だけだ。
数日後にこの家を出るつもりだった。
その前に、もう少しだけロザリアを見ていたかった。
ずっと恋しかった。
ロザリアをルカの隣に見つめるのは胸が裂けるほど苦しいが——
それでも、あと少しだけ、彼女を見ていたかった。
その痛みに耐える覚悟はできていた。
その日、俺はルカと一緒に外出した。
その日の仕事は少なかった。仕事が終わったら、ルカは俺と話したいことがあると言っていた。
だが、結局話せなかった。
ルカの車が爆破されたのだ。
俺たちが車へ向かっていたちょうどその瞬間、車は爆音とともに吹き飛んだ。
ルカは、これをやったのはロレンツォだと言った。
ロレンツォはルカを殺すつもりはなく、脅して従わせたかったらしい。
爆発で俺たち二人とも怪我をしたが、命にかかわるほどではなかった。
俺はかすり傷だけだったが、ルカは少し重傷だった。
にもかかわらず、彼は病院へ行こうとしなかった。
とにかく家へ戻りたがっていた。
急いでやらなければならない何かがあるように見えた。
家に戻ると、ロザリアはルカの傷を見た瞬間、顔色を失った。
飛ぶように駆け寄り、必死で傷を確かめる。
「ルカ、怪我してるのよ! 病院へ行かないと!」
ロザリアは動揺で声を震わせていた。
「平気だよ、愛しい人。大したことじゃない。こっちへ来て。」
ルカはロザリアの手を取り、二人で部屋へ上がっていった。
俺はその場から動けなかった。
ロザリアがルカのためにあれほど取り乱した、その光景が胸を焼いていた。
やっと自分の部屋へ向かったが、ルカの部屋の前で足が止まった。
半分開いた扉の隙間から、中が見えたのだ。
見なければよかった。
頭では“見てはいけない”と分かっていた。
けれど、俺の理性は、もう身体のどこにも届いていなかった。
ロザリアを愛してしまった目、
ロザリアに触れたくて仕方ない腕、
彼女の声に喜ぶ耳、
姿を見ただけで胸を叩く心臓、
近づこうとしてしまう足。
理性は、それら全部と必死に戦っていた。
だが一番の戦いは、胸に残る火傷の痕との戦いだった。
ロザリアは背中をこちらに向け、ルカと向き合っていた。
ルカが顔を上げれば、俺が覗いているのはすぐに気づく位置だった。
でもどうでもよかった。
ルカも周囲を見る余裕などなかった。
彼の目にはロザリアしか映っていなかった。
他のどんなものも、視界に入れたくないというように。
ロザリアが救急箱を取ろうとしたとき、ルカが彼女を止め、自分でシャツを脱いだ。
ロザリアは黒いベルベットのロングドレスにロングカーディガンを羽織っていた。
ルカはそっとカーディガンを滑らせて脱がせ、
それからドレスの肩紐をゆっくりと下ろした。
その瞬間、俺はロザリアの火傷の跡をすべて見てしまった。
肩から背中の中央まで深く焼けただれている。
ロザリアを火の中から抱えて助けたのは俺だ。
だが、その傷に触れているのはルカだった。
ルカはロザリアのドレスを背中の下まで下ろし、
片手で彼女の背の傷に触れ、
もう片方の手でためらうように胸元へ触れていた。
「話したいことがあるの。」
ロザリアが告げる。
「俺も伝えたいことがある。」
ルカはロザリアを抱き寄せた。
理性はもう完全に敗北していた。
その場から離れろという指示は、足に届かなかった。
思考は止まり、残ったのは引き裂かれそうな心臓の声だけだった。
「先にあなたから言って。」
ロザリアは小さく言った。
「昨日、結婚の届け出を出してきた。
二週間後、俺たちは夫婦になる。」
ルカは嬉しさを隠せない声で告げた。
————聞いてしまった。
だが聞こえたのはルカの声だけではなかった。
右手は腰にあった。
心臓は怒りと痛みに満ち、もはや耐えきれなかった。
右手で銃を抜き、ルカへと向けた。
それでもルカは気づかないまま、
ロザリアの首筋に顔を埋め、彼女の匂いを吸いこみ、
腕でロザリアの素肌をしっかり抱き寄せていた。
血がロザリアの背中へと流れ落ちていた。
そのとき気づいた。
二人が触れ合っているのは、ただの肉体的なことではない。
彼らは互いの“傷”を癒しているのだ。
それを理解した瞬間、俺の中で何かが完全に崩れ落ちた。
ルカは銃口の真正面にいた。
指に少し力を込めれば——
ルカは消え、俺の苦しみは終わる。
本気で引くつもりだった。
「ルカ、私からも……嬉しい知らせがあるの。」
ロザリアは優しく微笑み、ルカの目を見つめた。
「……赤ちゃんがいるの。」
彼女はそう告げた。
ロザリアの妊娠——その一言が、俺の指を止めた。
心臓は、ルカの“結婚する”という声を聞いた瞬間に決めていた。
殺す、と。
だが耳が、ロザリアの“妊娠”を聞いた瞬間——
心臓と手の間で、何かの和解が起きたようだった。
銃口を下ろした。
俺にはルカを撃てなかった。
その日、ロザリアの妊娠という知らせが——
ルカを死の縁から救ったのだ。




