36. ダンテ: 私たち3人のゲーム. 1
その夜、誰ひとり眠れなかった。みんな自分の部屋に散っていった。ルカは私のために新しい部屋を用意してくれていて、その部屋はロザリアの隣、ルカの部屋の向かいだった。私は一晩中その部屋を歩き回っていた。ルカを見たくなくて庭へ出る気にもなれなかった。ルカは夜の半分を庭やエリオの部屋で過ごしていた。エリオは何度も起きてしまい、ロザリアは彼を寝かせに何度か部屋に向かった。
朝になると、私たちは全員キッチンに集まった。
「今日はみんなでどこかに出かけないか?どうだ、ダンテ?」
ルカは、私の気持ちを少しでも立て直したいようだった。
「数日くらい家にいた方がいいと思うわ。まずは気持ちを落ち着かせないと。」
ロザリアが私より先に答えた。
誰もが混乱していた。誰ひとり平常心ではなかった。まるで互いの状態を分かっているかのようだった。ロザリアは、この状態で外に出るのは危ないと感じていた。
朝食のあと、私はルカと庭で椅子に座っていた。しばらく無言で、何も話さずに座っていた。そのときロザリアが現れた。手にはトランプの束を持っていた。
「ゲームをしましょう!」
ロザリアはルカと私の向かいのソファに腰を下ろした。
ロザリアが持ってきたのはゲーム用のカードだった。
「ルールはこうよ。順番に一枚ずつカードを引くの。カードには“質問する”か“指令を実行する”のどちらかが書いてあるの。“質問する”カードには質問内容は書かれていないから、好きな相手に好きな質問をしていいの。でも“指令を実行する”カードには、何をどうするか細かく書いてあるわ。」
ロザリアは説明した。
最初にカードを引いたのはロザリアだった。彼女は“指令を実行する”と書かれた文字を声に出して読んだ。それから立ち上がり、テーブルの上のスマホを取った。“Hurts” の “Wonderful Life” を流すと、スマホをテーブルに戻し、私に近づいてきた。
「一緒に、少し踊ってくれる?」
ロザリアは手を差し出してきた。
指令の内容は、誰かと踊ることだった。私の正面に立ち「踊ってくれる?」と尋ねた。うれしさと怒りが同時にこみ上げた。まるでこのゲームは全員のためのものではなく、ロザリアが私を苦しめるための残酷な遊びのように感じた。それでも私は何も言わず立ち上がった。
ロザリアは指先だけで私の手をそっと取り、テーブルの脇まで導いた。触れられているのに、まるで触れたくないと言われているような軽い感触だった。彼女は私の顔を見て、右手を軽く差し出した。私は左手でその手を取り、右手を彼女の背中の上の方に添えた。ロザリアももう一方の手を私の肩に置いた。ゆっくりと踊り始めた。
けれど彼女は私の顔を見なかった。顔を私の右肩の方へ向けていた。私も彼女を気遣って、自分の顔を彼女の左肩の方へ向けた。たった二分のダンスだった。しかしその二分は、ロザリアを失ってからの私の人生で一番美しい時間だった。
次にカードを引くのは私の番だった。
「“質問する”って書いてある。でも、誰に質問すればいい?」
私はロザリアを見た。
「誰でもいいわ。好きな人に、好きな質問をして。」
ロザリアはルールを確認した。
私の頭に一番に浮かんだのは
『どうして俺を思い出さなかった?少しも愛してくれなかったのか?』
だった。でもこの質問は、たぶん死ぬまで心の中でしか言えない。
「ルカに聞く。……いつルカに恋をした?」
私はそう尋ねた。
質問した瞬間、ロザリアの目が幸せそうに笑った。まるでこの質問を心の中で何度も答えてきたかのように。彼女は迷うことなく話し始めた。
「この家で目を覚ました最初の朝よ。キッチンに行って、入り口のところに寄りかかったの。ルカはテーブルの一番奥に座っていて、エリオを抱っこしていたわ。エリオと遊んで笑っていた。ルカの笑顔を見た瞬間、不思議な気持ちになったの。“あんな綺麗な笑顔が私にもあったらいいのに”って想像したの。
……その願い、叶っちゃった。今ではあの笑顔は全部、私のものだもの。」
ロザリアの答えは私の心臓に刃のように突き刺さった。
彼女はその言葉で、私の笑顔を永遠に奪ったのだ。
これから先、その答えを思い出すたび、私の笑顔は消えてしまうだろう。




