33. ルカ:ロザリアは愛を証明した!
ジョルダーノは俺たちと“遊んで”いた。
どれだけ憎んでいても、あの男が約束を破らないことは知っていた。
残酷で冷酷でも、一度言ったことは必ず守る──そのことで裏社会では有名だった。
ロザリアがあの短剣を手に取り、自分の体に突き立てれば、ジョルダーノは俺を生かして帰す。
だがロザリアに傷がつくなら、俺が生き残る意味なんてなかった。
男が短剣をロザリアへ差し出した瞬間、血の気が引いた。
ロザリアは迷わずやるつもりだった。
俺を助けるためなら、迷いなく自分の命を差し出す覚悟だった。
ロザリアはゆっくり立ち上がった。
その姿は本当に“勇敢”に見えた。
いつもの「仕方なく」ではなく、今回の彼女は誇りと覚悟に満ちていた。
まるで自分の血で愛を証明できることが、ロザリアにとって“美しい行い”のように。
彼女は短剣を受け取ると、胸と腹の間あたりの柔らかい場所に迷いなくあてがった。
そして俺を見つめた。
瞳には、一切怖れがなかった。
むしろ、俺を救えるかもしれないという希望で満ちていた。
ロザリアはまばたきもせず、その短剣を自分の腹へ突き立てた。
あの刃が俺の心臓に刺さればよかった。
愛を証明するためにこんなやり方をする必要があるのなら、せめて俺がやりたかった。
ロザリアがこんな痛みに耐える姿など、二度と見たくなかった。
彼女は短剣を深く突き刺し、そのまま抜いた。
白いカーディガンが一瞬で真っ赤に染まった。
血の出る傷を手で押さえながら、その場に膝をついた。
それでも瞳の中の“希望”と“安堵”は消えなかった。
短剣も手から離さなかった。
ガブリエル・ジョルダーノは約束を守った。
俺は殺されなかった。
俺はロザリアの腕の中へ走り寄った。
ロザリアはまだ意識があった。
「愛しい人、車はどこに置いた?」
ロザリアを抱きかかえ、走りながら俺は必死に声をかけた。
「道の…終わりの…左側…ぶどう畑の…奥…」
ロザリアは半開きの目で、傷口を押さえながら弱々しく答えた。
そう言い終えた瞬間、彼女の瞼が閉じた。
ロザリアの目が閉じたとたん、俺の世界は真っ暗になった。
ロザリアは俺の“光”だった。
「だめだ、愛しい人、行くな! 行かないでくれ!
俺から全部奪って行くな!
まだ俺に色のついたシャツを作ってくれるって言ったじゃないか!
俺のタンスを黒一色のままにするつもりか!?
夢も、誇りも、お前に全部預けたんだ!
せめて俺の涙だけは返してくれ。
俺に家族をくれるはずだっただろ…。
こんなふうに全部盗んで、泥棒みたいに消えるなんて許さないぞ…!
首についた俺の涙を返せ。
預けた夢も返せ。
約束してくれた家族も、子どもも返せ。
色も、光も…全部返してくれ!!」
俺はロザリアを抱えたまま車に向かって走った。
ロザリアを病院に運び込んだが、出血がひどく絶望的だった。
すぐ手術に入った。
数分後、輸血が必要だと言われた。
幸い、俺の血液型が合った。
手術後も数時間は目を覚まさなかった。
だが医者は「この状態なら正常です」と言った。
やっと呼吸が戻った気がした。
やっと息ができた。
ロッコを呼び出し、仕事を数日任せ、俺はロザリアのそばを離れないことにした。
ロザリアが目を覚ましたのは、その数時間後だった。
俺はベッドの横に座っていた。
彼女が瞳を開いた瞬間、暗闇だった世界が一気に明るくなった。
「愛しい人…生きてる…。無事で良かった…」
ロザリアは微笑んで俺を見た。
キスしようとして身を寄せてきたが、俺は彼女を制した。
俺の方からそっと顔を寄せた。
「だめだよ、愛しい人。動かないで。今、輸血してるんだ。休まなきゃ」
俺は彼女の頬にそっと触れてキスをした。
「あなたが…血をくれたの?」
ロザリアは腕を見つめた。
「そうだよ、愛しい人。」
あれほど出血して、今も傷が痛むはずなのに、彼女は本当に幸せそうだった。
「どうしてそんなに幸せそうなの?
深い傷なんだぞ?
あれだけ血を流したんだ…痛いはずだろ?」
俺は彼女の頬に手を添えて聞いた。
「幸せじゃない理由なんてないよ。
あなたが生きてる。
無事にそばに居る。
それだけで十分。
しかも今、私の血管を流れてるのはあなたの血なんだよ。
私の心臓は、あなたの血で動いてる。
こんなに素敵なこと、他にある?」
ロザリアは微笑んだ。




