2. ルカ: 僕は彼女を助けなくてはならない!
「火傷の跡が酷く深い。ひどく焼けてる。どうしてこんなことに……何があったんだ? 傷自体は醜くはないけれど、見ると胸が詰まって涙が出そうになる」——ここ十〜十五分、自分が初めて見たその女の傷を思い返しながら、そう感じている自分に気づいた。今大事なのは、彼女が乗ったタクシーに間に合うことだ。武装した連中が先に着けば、その女を殺してしまう。間に合わなければ、エリオを助けてくれたお返しにあいつが死ぬことになる。
「間に合った!」——ルカは車を飛ばして、武装した男たちの車を振り切った。
間に合った。タクシーは目の前にいる。でも、タクシーが彼女を自宅に降ろしたあと、どう切り出せばいい? ありのままを話すべきか? そうすれば警察に行くだろう。警察は何もできないかもしれないが、大騒ぎになる。考えろ、ルカ。その子の前で何と言うんだ? 一時間も傷のことばかり考えてる場合じゃなかった、何と声をかけるか考えていればよかった。あ、わかった! 「エリオの娘の子守をしてほしい」って頼もう。断られたら? 夫や家族がいたらどうする? 家を出てくるわけない。指に指輪はしてなかった。しかも家に帰ってから休むって言ってた、子どもがいたらそんな言い訳はしない。子どもがいるなら、子どもを心配して連絡するはずだ。何時間も病院にいたのに誰も電話してこなかったし、目が覚めてからも携帯をまったく見ていなかった。家族がいれば起きてすぐ知らせるはずだ。なんで今日の俺はこんなにバカみたいに考えてるんだ。しっかりしろ、ルカ! しっかりしろ! おまえはマフィアのボスだ! その娘をエリオの子守にできないなら、この仕事をやめてしまえ! ただの娘一人を助けるのがこんなに難しいなら、父さんが遺したすべてをどうやって管理するつもりだ?
「このアパートに住んでるのか?」——タクシーは古い小さなアパートの前で止まり、ルカは自分の車から降りた。
「ちょっと待ってください!」——ロザリアがタクシーを降りるとき、ルカは走って声をかけた。
「あなた?」——ロザリアは驚いた顔をした。
「ここに住んでるのか?」——ルカはロザリアに歩み寄ってたずねた。
「ええ。どうかしたの?」——ロザリアは立ち止まった。
「中で話せますか?」——ルカは周りを見回しながら言った。
「いいわ」——ロザリアは不安げだったがアパートに入った。
「どう切り出せばいい? 家族についての推測が間違っていたら? もし既婚だったら? 家族がいたら、俺を尾行しているマフィアの連中はその女を俺の恋人だとは思わないだろう。ロレンツォが送ってきた奴らも馬鹿だ。考えなしに、ただ娘を殺すだけだ」——ルカはロザリアの後をついて行きながら、どう話を切り出すか考えを巡らせていた。
「入ってください!」——ロザリアは三階で立ち止まり、鍵のかかったバッグから鍵を取り出して右側のドアを開けた。




