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愛の残響  作者: あぜるん
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1. ロザリア: あの日私たちは出会い、それから一度も離れなかった

私はロザリア・カサル。28歳。ここ5年間、イタリアの首都ローマで一人暮らしをしている。

自分の家はない。以前住んでいた街には、両親から受け継いだマンションがあったけれど、火事で失ってしまった。

今は小さなアパートの一室を借りて暮らしている。小さなパティスリーで働いている。


今日もいつものように仕事を終えて家に帰るところだった。

通りを歩いていると、赤ちゃんの笑い声が聞こえた。気になって振り返ると、通りの左側のカフェの前でベビーカーに乗った赤ちゃんが一人で遊んでいた。

そばには誰もいなかった。カフェの大きな窓越しに中を見ると、女性が一人いて、どうやら注文の間だけ子どもを外に残しているようだった。


一瞬足を止めて、微笑みながら赤ちゃんを見つめた。

ベビーカーはカフェの前に並んだテーブルの奥の方にあった。

カフェの前の屋根は白いテントで、その上には明かりのついた大きな看板が吊るされていた。

その看板がギシギシと音を立てているのが聞こえた。落ちそうだった。


何も考えずに走り出した。通りを渡り、ベビーカーに飛び込んだ。

ベビーカーを引き戻す時間もなかった。看板が落ちてきた——

そのあとは、暗闇だった。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」——ロザリアが目を覚ますと、ベッドのそばに若い看護師が立っていた。

「大丈夫です。赤ちゃんは? 無事ですか?」——ロザリアは目を覚ますなり赤ちゃんのことを尋ねた。

「赤ちゃんは無事ですよ。心配しないでください。赤ちゃんの乳母とお父様もいらっしゃいます。あなたが目を覚ますのを待っていました」——看護師はそう言って廊下へ出て、乳母に知らせに行った。


看護師が出ていったあと、自分の体を見た。左腕がひどく打ち身になっていた。頭も激しく痛んだ。

今日は茶色のロングスカートに、黒いキャミソールを着ていた。その上に白いブラウスを羽織っていたが、目を覚ますと着ていなかった。

腕の手当てをするために脱がされたのだろう。

ブラウスがベッドのそばにあると思い、探していると、ドアが開き、彼が入ってきた。


「大丈夫ですか?」——ルカが赤ちゃんを抱いて部屋に入ってきた。


彼を見た瞬間、ブラウスを探す手を止めた。

彼の目は海のようだった——けれど青くはなかった。嵐のときの灰色の海のように、涙を隠しているような瞳だった。

他に特別な特徴はない。ただ背が高く、体格の良い男だった。

髪は少し変わっていて、首の後ろまである黒いウェーブがかかっていた。

一目惚れというわけではなかった。ただ、その悲しみに満ちた表情が印象的だった。

赤ちゃんを抱いている彼を見ながら、「赤ちゃん、彼に似てないな」と思っていると、彼の問いかけに答えていないことに気づいた。


「大丈夫です」——ロザリアはベッドから起き上がり、椅子にかけてあったブラウスを手に取り、着た。


着ている間、彼がずっとこちらを見ているのを感じた。

ブラウスを羽織るまで、彼の視線は私の肩の火傷の跡に注がれていた。


「目を覚まされたんですね! 具合はどうですか?」——赤ちゃんの乳母も部屋に入ってきた。

「大丈夫です。ご心配なく。でも帰らなきゃ。明日は仕事がありますから、休まないと」——ロザリアはバッグを手に取り、ドアの方へ歩いた。


部屋を出る前に、看板が落ちる直前に見た赤ちゃんの笑顔を思い出した。あの子を抱きしめてキスしたいと思った。


「その子を抱いてもいいですか?」——ロザリアはルカに近づいた。

「俺の子じゃない」——ルカは変わらぬ表情のまま答えた。

「え……どういうこと?」——ロザリアは驚いた。

「俺の子じゃない。死んだ兄の子だ」——ルカは赤ちゃんをロザリアの方へ差し出した。

「ご愁傷様です……」——ロザリアは赤ちゃんを受け取った。


赤ちゃんはとても静かだった。そっと抱きしめ、頬にキスをした。


「エリオを救ってくださって、ありがとうございます」——ルカはロザリアに感謝を述べた。

「エリオ……素敵な名前ね」——ロザリアはそう言って、赤ちゃんをルカに返した。


「待ってください。私たちが送りますね、ね?」——乳母はルカの方を見た。

「すみません、私たちはお送りできません。でもタクシーを呼んであります。外で待っています」——ルカは冷たい口調で答えた。

「そんな、ご親切に……でも大丈夫です。自分で帰れます」——ロザリアはそう言って部屋を出ていった。

「せめてタクシーまでお見送りしましょう」——乳母はまたルカの方を見つめ、返事を待った。


病院の外に出ると、男は落ち着かない様子だった。

周囲を見回し、まるで誰かを警戒しているようだった。

私がタクシーに乗ろうとしたとき、乳母が駆け寄ってきて、私を抱きしめ、もう一度感謝の言葉を述べた。


タクシーに乗って少し離れたとき、ミラー越しに彼らが見えた。

そのとき、乳母と若い男のもとへ、慌てた様子の男が走り寄った。


「ルカ様! 先ほどタクシーでお送りしたあの女性の後を、武装した者たちが追っています!」——ルカの運転手が状況を報告した。


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