表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

「友よさらば」

〈お螻蛄鳴く蟲の世界は不可知だな 涙次〉



【ⅰ】


* 時軸の勞務者時代の友逹、「ひやうろく玉」、彼は結局のところ【魔】だつたのか、否か。それは謎なのであるが、【魔】ではなかつたにせよ、似たり寄つたりで、要するに【魔】に利用され易いところにゐる、と云ふのだけは明らかだつた。彼は不慮の事故で死んだ勞務者を「祀る」塚に埋葬されてゐた。其処から、「ゾンビー使ひ」なる【魔】が、彼の遺體を蘇生せしめて、人間の中でも「惡漢」の部類に入る、田所(「ひやうろく玉」を死に追いやつた現場監督、カンテラの手で斬死)の墓を暴くやう、彼を仕向けた。



* 当該シリーズ第36話參照。



【ⅱ】


彼は田所の遺骨に、有らう事か、小便を引つ掛かけ、自らの怨念を露はにした。その後直ぐに、* 時軸と「母ちやん」が倹しく同居するアパートの一室に現れた。

時軸、「おゝ『ひやうろく玉』ぢやないか。お前、蘇生したのか」-「ひやうろく玉」は彼らしい事で、訥々と「ゾンビー使ひ」その他の事を語つた。「小便? それはまた...」と時軸、絶句してしまふ。彼をそんなデスペラな行為に向かはせた「ゾンビー使ひ」に依り、「ひやうろく玉」が所謂「ゾンビー」と化した事、カンテラに報告しやうかしまいか、時軸は迷つた。



* 当該シリーズ第81話參照。



【ⅲ】


何事も、カンテラに隠し立てしてゐては、良い方向に向かはないのは、時軸には分かつてゐた。結果、悩みに悩んだ末、時軸はこの旧い友、「ひやうろく玉」の蘇生をカンテラに打ち明けた。

カンテラ「ふーむ。小便云々(それだけ怨みを買つたのは、田所の「業」のなせる事だ)はともかくとして、その『ゾンビー使ひ』つての氣になるな」-「やはりさうですかね」-「『ひやうろく玉』は、善人志向なのかい? それとも『惡人』志向なのかい?」-「それが... 奴にもその區別が付かないみたいで」



※※※※


〈山村と云ふべき村もなくなつた道の驛には土産物の山 平手みき〉



【ⅳ】


「彼さへ良ければ、* 山城さんがさうして貰つたやうに、安保さんに『善人チップ』を埋め込んで貰つては、だうだらう」-「さうですね。こゝは僕が一つ説得してみませう」


で、「ひやうろく玉」、この儘「ゾンビー使ひ」に操られた儘、と云ふのもだうか、と思つたのか、「善人チップ」の件、承諾した。安保さんが直ぐに呼ばれ、「開發センター」でそのオペ、文字通り「善は急げ」と執り行はれた、のだが...



* 当該シリーズ第84話參照。



【ⅴ】


實はそのオペ、「時既に遅し」だつたのである。「善人チップ」は「ゾンビー使ひ」の術を上回る効果を果たし得なかつた。一度「ゾンビー使ひ」に操られた前歴が、「ひやうろく玉」を深く蝕んでゐたのである。

山城のやうに、顕著な善人の徴しは現れず、「ひやうろく玉」は魔境に据へ置かれてしまつてゐた。彼は、「ゾンビー使ひ」の次なる魔手の手先となり、他の墓までも暴いて、遺骨に小便、の愚挙を繰り返した。



【ⅵ】


「この儘ではいかん。無辜の人達の墓までが暴かれてゐる。きみにはお氣の毒さまだが、『ひやうろく玉』、『ゾンビー使ひ』と共に、斬るぞ」-「致し方ありません。じろさんに宜しくお願ひします」-時軸、悄然たる面持ちで、嘗ての友の愚行を止め得ない、自分を責めた。



【ⅶ】


カンテラとじろさん、まづは「ひやうろく玉」を闇に葬つた。「友を怨んでくれるなよ」-じろさん、必殺の蟹狹みで「ひやうろく玉」を斃した。「さて、敵さんだう出るかな」-「ゾンビー使ひ」は、魔道に老練なところを見せて、なかなか姿を現さなかつた。


カンテラ「この調子で行くと、第二第三の『ひやうろく玉』が出兼ねない」-カンテラは「修法」を使つた。そして「ひやうろく玉」に立派な供養をする事で、「ゾンビー使ひ」の面目を潰したのである。


のこのこと「ゾンビー使ひ」、その姿を見せ、即刻カンテラに斬り伏せられた。「しええええええいつ!!」



【ⅷ】


※※※※


〈秋めいて紫野菜のジュース飲む 涙次〉



流石に、この一件の後味は惡かつた。然も、「ひやうろく玉」は、結末を見透かすやうに、勞務者時代の僅かな貯へを、依頼料として遺してゐた-


「友よさらば」-一人カンテラのみがニヒリスティックなのではない。この件に携はつた皆、同じ無念さを嚙み締めた、と云ふ事であつた。お仕舞ひ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ