パンが紡ぐつながり
気まぐれです。ウマ娘が投稿できないみたいなので短編小説を適当に投稿しておきます。気になった方はpixivへお願いします。
朝焼けが、東の空を淡いオレンジ色に染め始めていた。静かな住宅街の一角にある小さなパン屋「麦の香り」。まだ開店前の店内には、焼きたてのパンの甘く香ばしい匂いが満ちている。
店主の佐々木は、黙々と作業を進めていた。丁寧に生地を丸め、オーブンの火力を調整する。彼の指先は、長年の経験によって磨かれた職人の技そのものだった。
佐々木にとって、パンを焼くことは単なる仕事ではなかった。それは、彼にとっての日々の祈りのようなものだった。小麦の囁きに耳を傾け、酵母の息遣いを感じながら、一つ一つのパンに心を込める。
彼の焼くパンは、素朴ながらもどこか温かく、人々の日常にそっと寄り添うような味わいがあった。近所の人たちはもちろん、少し離れた場所からも、彼のパンを求めてやってくる。
今日は日曜日。週末の朝食を楽しもうと、いつもより少し遅い時間に、常連客の田中さんが店にやってきた。
「おはようございます、佐々木さん。今日もいい香りですね」
田中さんの明るい声が、静かな店内に響く。
「おはようございます、田中さん。いつもの食パン、焼き立てですよ」
佐々木はにこやかに応じた。田中さんは、焼き立ての食パンと、今日の気分でいくつか惣菜パンを選んだ。
「そういえば、裏の畑のトマト、ずいぶん赤くなってきましたね」
田中さんが、店の奥にある小さな畑に目をやりながら言った。
「ええ、おかげさまで。そろそろ収穫できそうです。今度、あれを使ったフォカッチャでも焼いてみようと思っているんですよ」
佐々木は少し照れくさそうに笑った。新しいパンのアイデアを考えるのは、彼にとって何よりも楽しい時間だった。
田中さんは、パンが入った袋を手に取り、店を出ようとした。
「いつも美味しいパンをありがとう。また来ますね」
「ありがとうございます。お待ちしています」
佐々木は深々と頭を下げた。
田中さんの姿が見えなくなると、店内には再び静寂が戻った。朝の光が差し込み、焼き上がったパンたちが金色に輝いている。
佐々木は、次のパンの生地をこね始めた。今日もまた、誰かのささやかな幸せを彩るパンが生まれる。そのことを思うと、彼の心は静かな喜びに満ちた。