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もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?  作者: 冬馬亮


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9/12

ヤキモチ疑惑



「オズワルドさま、あたしです! ケヴィン・クルルスの妹のキャナリーです! 覚えてますか?」



声がした窓の外を見ると、エリーゼより少し年下だろうか、可愛らしい風貌の少女が、オズワルドに向かって手を振っていた。


エリーゼと同じく窓の外に視線を向けたオズワルドが、ああ、と小さく呟く。



「キャナリー・・・もちろん覚えてるさ。ええと、君もこのカフェに? ケヴィンは一緒じゃないのか?」


「今日は一人です! お兄さまとオズワルドさまがこのカフェの話をしていたでしょう? あたしも行ってみたくなって、一人で来ちゃいました!」


「そうなのか」


「はい! それで列に並ぼうとしたら、窓側の席にオズワルドさまがいるのが見えたから、嬉しくなって!」



オズワルドとエリーゼが入った時にはまだいくらか席が空いていたカフェも、今は待ち客の列ができ始めていた。



キャナリーはついさっき来たところで、待ち客の列に並ぼうとして、窓際の席に座っているオズワルドの姿を見つけたという。



「突然キャナリーの声が聞こえたからビックリしたぞ」


「あたしもビックリしましたよ! すごい偶然ですもんね!」


「はは、本当だな」


「あ、そうだ。オズワルドさま、お兄さまったらね・・・」



と、こんな調子で、そのまま窓越しにオズワルドとキャナリーの会話が始まった。


話題に上がるのは、主に『ケヴィン』なる人物だ。


キャナリーの兄で、オズワルドの友人だというが、一応今も婚約者である筈のエリーゼはその人を知らない。

というか、エリーゼはオズワルドの友人関係について何一つ知らない。



オズワルドは、友人知人にエリーゼを紹介する事を嫌う。


たまに茶会や夜会で一緒に出席した時でも、オズワルドが自分の友人たちとエリーゼを引き合わせた事は、偶然を除けば一度もないのだ。


昔はその事で悩んだりもしたが、婚約解消を目指す今となっては、別に知る必要もない事だったと自然に思える。



(それにしても・・・)



目の前でぺちゃくちゃとお喋りに興じる二人を見ていると、関係の再構築とはどの口が言ったのか、と問い詰めてやりたい気分になる。オズワルドが変な勘違いをしそうだから、絶対に言わないが。


デートと称したこの場においても、友人知人をエリーゼに紹介しないというオズワルドのスタンスは変わらないらしく、エリーゼは未だ放置されたままだ。



(・・・慣れてるから別にいいけど)



エリーゼは、そう思った自分にハッとした。


これでは前と同じだ。我慢して、譲って、言いたい事を呑み込んで、なかった事にする。



(オズワルドのいいようにさせてたら駄目なのよ・・・あ、そうだわ!)



一人で先に食べてしまおう。

そして、ついでに先に帰ってしまおう。


これはいい案だと、エリーゼはフォークを手に持ち、さっそくケーキを口にした。


口の中でチョコレートの風味が口いっぱいに広がる。美味しい。


次は紅茶を口に含む。これも美味しい。

爽やかな香りがとてもいい。


既に紅茶は少し冷め始めていた。

美味しく飲めるギリギリのところで気がついてよかったと、エリーゼは思った。



(ルネスの女性対策と一緒ね。相手にしないのは、なかなかいい方法かもしれないわ)



ケーキと紅茶を交互に味わっていると、あっという間に皿とカップは空になった。



(・・・さて)



エリーゼはフォークを置いた。



後は席を立つだけだ。


黙って帰るのはかなりの不作法。

エリーゼとしては、自分側に瑕疵は作りたくないので、できれば一声かけてから去りたいところだ。



(でも、お喋りしているところに声をかけて、また妙な絡まれ方をされても困るし・・・

何かいい方法はないかしら?)



そんな事を思案しながら顔を上げると、ぽかんと口を開けたオズワルドと目が合った。



(あら、変な顔)



「エ、エリーゼ。お前、オレを待たずに先に食べたのか?」


「はい」


「なぜだ」


「・・・? ケーキと紅茶が来たので」


「そうじゃない、なぜ待たない。今オレはキャナリーと話しているところだろう? それを無視してケーキを夢中で食べるなんてみっともないし、話をしていたオレとキャナリーに失礼じゃないか」


「・・・私が食べずに待つ必要がありましたか? 紹介もされていないので会話に参加する訳にもいきませんし、それなら先に食べて帰ろうかと」


「帰る? どうして帰るんだ?!」


「それは・・・」



何を言おうかと言い淀んだエリーゼは、ふと思いついて、窓の外に立つキャナリーに目を向けた。



「あの方・・・キャナリーさんを、この席にお呼びしたらいいと思って」


「はあ?」


「だってキャナリーさんは、もともとこのカフェに来ようとしてたのですよね? オズワルドとも話が弾んでいたようでしたし」


「っ、それは、だが、お前が帰る必要はないだろう」


「あの!」



エリーゼとオズワルドのやり取りに、外に立っていたキャナリーが声を上げた。



「婚約者さん。オズワルドさまを怒らないであげてください。あたしが邪魔なら、今日はこのまま帰りますから。

このカフェの窓側の席を勧めたのは、あたしのお兄さまなんです。婚約者の機嫌が悪いってオズワルドさまが悩んでたから、お兄さまが相談に乗ってあげてて・・・なのに帰るなんて、オズワルドさまが可哀想です!」


「キャナリー、オレの事はいいから」


「よくないです! オズワルドさまは、婚約者さんを喜ばせたくてここに連れて来てあげたのに! 

婚約者さん、オズワルドさまの気持ちを分かってあげて。あたしとオズワルドさまは何でもありません。ヤキモチなんて妬く必要ないんですよ!」



どこから突っ込んでいいか分からないキャナリーの理論に驚いて、エリーゼが言葉に詰まってしまったのがよくなかったのかもしれない。


キャナリーの主張は、最後にとんでもない疑惑をエリーゼに投げかけた。


そして、それにオズワルドが見事に食いついたのだ。



「・・・ヤキモチ? エリーゼが?」










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