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もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?  作者: 冬馬亮


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8/12

初めてづくし



メニューを受け取ってはみたものの、街のカフェに来る事自体が初めてのエリーゼは、羅列された名前がどんなものか想像するのも難しい。


ケーキも飲み物も、他のものだってそうだけど、料理人が準備しメイドがテーブルまで運んだものを口にする。

公爵令嬢であるエリーゼは、ずっとそうしてきた。


貴族令嬢でも、友人同士で出かけたり、婚約者に連れて行ってもらったりなどで街歩きをする機会はあるかもしれない。

そして、そこでカフェに入ってケーキやお茶を楽しんだりするのかもしれない。


だが、あいにくエリーゼの婚約者はオズワルドだった。


オズワルドがエリーゼの交友関係を制限したから、一緒に出かける友人など作れなかったし、そもそも友人がいたとして、あの(・・)オズワルドがエリーゼと友人の外出を許したとも思えない。


そして、オズワルドがエリーゼをデートに連れ出したのは今日が初めて。


つまり、カフェも初めてで、メニューを見るのも初めて。


初めてばかりで、メニューを渡された後、何をどうするのかもよく分からない。


だが、ここでオズワルドに尋ねたら、きっと喜ばせてしまう。

そんな気がしたエリーゼは、取り敢えず黙って様子を見る事にした。


オズワルドが店員を呼び、メニューを見ながら頼みたいものの名前を言っていく。


メモを取った店員は、次にエリーゼを見た。



(・・・人気のカフェなら、きっとどれを選んでも美味しい筈よね)



少し考えて、上からメニューを指でなぞり、適当なところで止めて、そこにあった名前を口にしてみた。


飲み物は、と店員に聞かれ、同じようにして適当に選ぶ。


知っている名前もいくつかあったけれど、ここは未知なるものに挑戦した。


注文を終えて店員が下がると、二人のいるテーブルに、しん、と沈黙が降りた。


これまでは、こういう時にエリーゼが頑張って話題を振っていた。


オズワルドが返事をしなかろうと、そっぽを向かれようと、微笑みを保ったままエリーゼが話し続ける場面だ。


だが、エリーゼはもうそんな親切な事をしてあげるつもりはない。


無言で、けれど眼差しでは何か言いたげなオズワルドから視線を外し、エリーゼはせっかくだからと窓の外の花々に目を向けた。


配色をよく考えて植えられた花は美しく鮮やかに咲き乱れ、目を楽しませてくれる。たかが花壇と侮るなかれ、気分は小さな植物園だ。


花々の向こうは街を歩く人たちが普通に見えるのが、なんだか非日常的で面白い。


ふと視線を巡らせば、カフェの入り口付近で待機しているルネスが見えた。少し離れてオズワルドの護衛も立っている。


きりりと真剣な表情で姿勢よく立っているルネスの姿は、道の隅なのに目を引いて、道行く女性たちの多くが、ちらちらとルネスに目をやっている。


中には、実際に声をかける強気な女性もいたが、ルネスは完全無視を貫いていた。



(・・・うん。こっちはいつもの光景ね)



街中でもこうして女性の目を引くルネスだが、社交界でも彼の人気はかなりのものだ。


伯爵家の後継者でまだ婚約者がおらず、その上かなりの美丈夫、騎士らしくバランスの取れた引き締まった体格をしていて、背も高い。

そして性格は折り紙付きだ。

これで人気がない訳がない。


ルネスはエリーゼの護衛任務を最優先にする為、彼自身の夜会茶会などの出席率は限りなく低い。


そのせいか、会そのものには不参加でも、エリーゼの護衛として付いてきたルネスと接触しようとして、わざわざ会場の外に抜け出す令嬢たちまで現れる始末だ。


そんな場合でも、ルネスの対応は今とほぼ変わらない。そう、完全無視だ。


ルネス曰く、どんな形であれ反応を返すと、令嬢たちが喜んでしまって話が長引くそうだ。


昔はそれで要らぬ噂がたった事もあったが、今のエリーゼはその辺りの事情もよく理解しているから問題ない。



(あまりにしつこい令嬢の時は、お父さま(公爵)を通して『公爵令嬢の護衛任務を意図的に妨害した』と苦情を入れたりするようになったのよね。あ・・・また一人、挑戦者が現れたわ)



エリーゼが観察している最中にも、若い町娘がルネスに近寄って行った。


一生懸命に話しかけているが、ルネスの表情はぴくりとも動かない。



(あんなに人気があるのに、肝心の想い人には婚約者がいるなんてね・・・。

ルネスには幸せになってほしいのに、ままならないものね)



ルネスを観察しているうちに彼の想い人の事を思い出し、エリーゼがちょっと切ない気分になってしまった時、店員がやって来た。




「お待たせいたしました」



エリーゼがメニューから適当に頼んだのは、ケークエコセという名称のケーキだった。


焦げ茶色とクリーム色で二層になったケーキから、ふわりとチョコの香りがする。


フルーツや生クリームなどで飾られてはいないが、ツートンカラーが可愛らしい。


飲み物は何が来るかと思っていたら、普通に紅茶だった。


見慣れぬ名前は、エリーゼがまだ飲んだ事のない種類の茶葉だったからのようだ。



(・・・紅茶もだけど、初めて見るケーキの味が気になるわ。カフェで出してるんから、美味しいのは間違いないでしょうけど、なんだかドキドキしてきたわ)



ケーキにしろ紅茶にしろ、屋敷で口にした事のないものを引き当てた。


それが単純に嬉しくて、エリーゼの口元が、ふ、と自然に綻んだ。



「あ・・・」



それを見たオズワルドが、何か言おうと口を開いた時だった。



「あ~っ! オズワルドさまぁ!」



窓の外から女性の高い声が聞こえ、発しようとしたオズワルドの言葉は遮られた。







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