表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本当は無かった怖い話

箱の中

作者:

 箱の中にいる。

 少し寒い箱の中にいる。

 さて、今日は何をしよう。

 天井を見上げると、上の方から雨の音が聞こえるような気がする。

 雨はどこか気分が沈む。

 水の流れる気配が箱の横を通り過ぎていった。

 横に意識を向けると、箱の向こうのお隣さんが、少しだけ笑っている。



 箱の中にいる。

 今日は少し暖かい。

 箱の上は晴れているのだろう。

 さて、今日は何をしよう。

 ここ数日は雨だったから、晴れるのは久しぶりだから。

 天井の向こうの空はどうなっているだろう。久しぶりに記憶を探る。

 思い出の中の空はとても遠くて、灰色をしていて。

 白いノイズがゆっくりと、ただゆっくりと風景を埋めていく。

 箱の下はきっと、きらきらと鈍く照らされた白い欠片で埋め尽くされているだろう。

 この箱もきっと、まわりを白い欠片に覆われているだろう。

 どこまで覆われているだろう。天井まで? 横の壁まで?

 横の壁の向こうにはお隣さんがいる。

 軽く会釈をする。お隣さんは少しだけ笑っている。



 箱の中にいる。

 今日は少々冷えるような気がする。

 さて、今日は何をしよう。

 こんなに寒いということは、箱の外は冬なのかもしれない。

 そろそろ冬支度を始めないといけないかもしれない。

 きっとあの白い欠片が、白く霞む残像が箱を包むように覆ってしまう。

 目と鼻の先にある天井の、その向こうを重く覆ってしまう。

 手を動かせばすぐに触れられる横の壁を暗く覆ってしまう。

 お隣さんも困るだろう。自分の分が終わったらお手伝いをしよう。

 横のお隣さんはいつものように少しだけ笑っている。



 箱の中にいる。

 空間がとても冷えている。

 きっと冬が来た。

 さて、今日は何をしよう。

 箱の周囲が少しきしんでいるような気がする。

 箱の周囲の水が凍っているのかもしれない。

 このままだと手が凍るかもしれない。足も凍るかもしれない。

 冷たいのは少し苦手だ。

 早く冬が終わるよう、真っ暗な箱の中で祈ってみる。

 そういえば、祈りの時は手を合わせていたような気がする。

 久しぶりに手を動かしてみようか。

 真っ暗な箱はちょうどいい大きさで。

 あつらえたようにぴったりで。

 手は動かない。足も動かない。

 動く隙間もない。

 そう、きっとお隣さんもぴったりの箱に入ってて。

 そして。

 そして。

 少しだけ笑っているんだ。



 箱の中にいる。

 箱が少し揺れている。

 箱を包む暗い黒い世界が揺れている。

 前にもあった。確かにあった。

 ずっと前にお隣さんが来た時もこんな感じだった。

 空気が沈んでいて、箱が揺れていて、誰かが祈っていて。


 誰かが泣いていて。


 箱の横に新しいお隣さんがゆっくりと降りてきた。

 ようこそ、歓迎するよ。

 ようこそ、どこにもいけないここへ。

 ようこそ、いつまでもどこにもいけないここへ。

 まずは少しだけ笑おう。

 それだけでいいんだ。



 箱の中にいる。

 昨日はずっと箱の中にいた。

 明日もきっと箱の中にいる。

 さあ、今日は何をしようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ