第83話 触発
小説や漫画、そしてゲームの世界。
そこにある戦場は、数千数万の人がぶつかり、豪傑同士が火花を散らし、知将たちがしのぎを削る。
そんなロマンとスペクタクルあふれる甘美な空間。そう思っていた。
この世界に来るまでは。
確かにその一部は当たっていた。
人がぶつかり合い、豪傑が火花を散らし、知将がしのぎを削る場だ。
だが、それだけじゃなかった。
戦えば人は傷つき、そして死ぬ。
血と、臓物と死体にまみれた世界。
物語では『勝った』という結果だけで、その直後の後処理のことはあまり描かれない。
だから知った気になっていた。
その報いを僕は受けた。
そして今。
こうしてここにいる男3人。
彼らはあの大将軍の直轄という。
つまり、戦場に出ていない、ただの雑魚。知った気になっているだけのおしめの取れない赤ん坊。
それが、こうも威張り散らして、さも自分の手柄のように語り、なによりそれで他人を不幸にしている。
戦った人は犠牲者を悼んで慎むべきなのに。
戦わない人は次の戦いに備えて努力するべきなのに。
この男たちは、そのどちらでもない。どちらでもないのに、驕るその性根はなんだ?
あの形だけの大将軍、その麾下にいる何かがあるというのか。
分からない。
分からないけど、動いていた。動いてしまっていた。
琴さんにここまでだと言っておいてこのざまだ。
けど許せなかった。
こんな偶然ともいえる出会いを、喜んでくれたこの2人。その憩いの場を壊すことも。
だから――
「ちょっと、あんた。何をしてんのよ」
トーコの手が僕の肩を掴んできて、引き戻された。
「この人たちは大将軍様の兵だよ。それを戦いを知らないとか……」
「あぁ、本当のことだから言っちゃ失礼か」
「違うっての!」
おお、良いツッコミだ。こんな時でも的確。
最近、うちの周りはボケが多くてツッコミしきれないところがあるからなぁ。
「ぐっ……貴様らぁ……よくも!」
のどを抑えた男が静かに吼える。
手を痛めた男も、怒り心頭といった具合。顎を打った男はまだ倒れている。
「もはや許せん。大将軍様の名を汚す逆賊め。斬って捨ててくれる」
と、男2人は有無を言わさず腰に履いた剣に手を伸ばして引き抜いた。
その動作に、野次馬から悲鳴が漏れる。巻き添えを恐れたのだろう。
「抜いたな。ならボクの暗黒の業炎滅薩剣が火を噴くぞ」
金属がこすれる音。
琴さんがすらりと美しい刀身を陽光に光らせた音だ。
さっき光の刃とか言ってなかった? さてはこの人。設定がぶれぶれだな?
しかし、まずいな。
僕が原因とはいえ、結局、一触即発の事態になってしまった。
かくいう僕は、少し相手を痛めつけて溜飲が下がったのは内緒だ。
「どうやら知りてぇようだなぁ! 戦場で100人もの血を吸った、この剣の威力をなぁ!」
「あーあ、キレちまったよこいつ。さぁ、謝るなら今のうちだぜ……」
男たちがげひた笑いと殺気を振りまいてこちらに近づいてくる。
仕方ない。
ここは最低限の動きで対処するしかない。騒ぎがこれ以上大きくなる前に。
そう決意した――矢先のことだ。
「あら、あなたごときの剣で、その女が斬れるとお思い?」
声だ。
聞いたことのある。同時、さらに事態がめんどくさくなると直感した。
「誰だ!?」
男たちが振り向く。
その先に、彼女がいた。
「誰だと聞かれたならば、答えてあげるがわたくしの流儀。無知蒙昧にして軽慮浅謀なる下賤の者にも伝わるよう、美しく雄々しく圧倒的に宣言させてもらいましょう。イース国のインジュイン家が次女、カタリア・インジュインがこの場を裁きます!」
私服姿のカタリア・インジュインがそこにいた。




