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第133話 皇帝区画突入!

 皇帝を先頭に走るのは上級区画ノーブルエリアの市街。新月の夜ながら、各所にかがり火が灯されてそこそこ明るい。だが宮殿からどこか遠ざかっている風もある。


「陛下、本当にこの道で!?」


 不安になって前を行く皇帝に問いかける。


「吾輩を信じよ!」


 信じよって言ったってなぁ。これまでの経緯を考えると、どこまで信じていいのやら……。


「イリスちゃん、後ろに」


 最後尾を行くラスが叫ぶ。

 見るまでもない。敵の追っ手が来たのだろう。


 このまま宮殿に向かえば白起と追っ手に挟み撃ちされて全滅させられる。それが白起の描いたストーリーだろう。


 どうする。こうなったらもう、皇帝を無理やり引き連れて上級区画ノーブルエリアを駆けまわって時間稼ぎをするか。


 そう思った時だ。


「ここだ!」


 急に前を行く皇帝が道を折れた。


 そこは初見なら見逃してしまうほどの小道。お屋敷の間を縫うように開かれたわずかな隙間を馬が行く。当然、一列でしか入れない隙間だ。僕らもそうなって行くが、追っ手としても必然、一列にならざるを得ない。そうなれば人数が多い相手は不利だ。

 まさかそれを知って皇帝は?

 まさかな。


 ただその通路はなかなかにハードだ。

 狭いだけでなく、曲がりくねって、途中ではお屋敷の庭を突っ切るようなこともあった。

 全力疾走で走る馬で入るような道じゃなく、自然速度も落ちる。大丈夫か、これ、と思ったことも何度も。


 だが、


「抜けたぞ!」


 と、皇帝が叫ぶのと、広い通りに出たのはほぼ同時。

 さらに目の前に大きな壁が現れたのも同時。


 どうやらそこは、皇帝区画インペリアルエリアを囲む壁の一部らしい。しかもその正面玄関である正門から100メートルほど離れた位置らしい。

 すでに正門前には敵が群がっている。

 つまり中に入るにはやはり白起を倒さなければならない。


「陛下!」


「安心せよ、ここだ!」


「え?」


 言うが早いが、皇帝は馬から降りて、その小さな体を走らせると、そのまま壁に激突――したわけじゃなく、そこにあった小さな扉に鍵を差し込むとドアが開いた。


「ふははは! この吾輩のお忍びでいつも使ってた勝手口だ! いつもの礼服に鍵を入れておいてよかった!」


 得意げに鍵を見せびらかせて中に入り込む。それにアイリーンが続く。


 まさかの隠し扉。というか通用口ってことか。

 いや、まいったね。そこまでやられたら笑うしかない。


「皆、早く中へ!」


 見れば正門の方から兵がこちらに駆けてくる。時間はない。


 全員が馬から転がるように降りて、小さな扉をくぐる。僕も最後に続いた。その入る瞬間、先頭をは知って来る恐ろしい形相の白起を見た。


「鍵を!」


「裏にある!」


 僕の言葉に皇帝が怒鳴りかえした。

 ドアを閉める。そこに鍵もあった。すぐにかける。その数秒の後に壁に激突する音。兵がすぐ向こうにいる。


 僕は脇にある木箱を見つけると、それをずらして扉の前に置いた。ほかにも重そうなものを扉の前に置いて、完全に塞いでしまう。これでよし、だ。


「イリス、無駄だぞ。正門は我らの手にある。兵を送り込めばそれで袋のネズミだ!」


 扉の向こうから白起の声。

 そりゃそうだ。勝手口は塞いだけど、巨大な正門は封じようがない。しかも相手が制圧している今、続々と兵を入れられたらそれこそ僕らは皇帝区画インペリアルエリアで袋のネズミだ。


「私に任せて」


「小松?」


 まさか1人で食い止める気か。

 そんなことは任せられない。そう思うが、小松は先に走り出す。門へと向かって。


 そこでは今まさに扉が開かれようとしている状態。それが開いてしまえば、敵が入って来て、血みどろの闘争が繰り広げられる。その結果は、さすがに覆せないだろう。


 だが――


「力を解放せよ! 泰山伐鵬撃たいざんばっほうげき!」


 と、地面に向かって振り上げたこぶしを叩きつける小松。


 何を、と思った次の瞬間。


 ドォォン!


 彼女の前方数メートル先からの地面が割れ、飛び出し、突き出した。

 それは波のように波及し、前方10メートルに近い巨大な岩――いや、土石が姿を現した。隆起した地面が、開きかけた正門を吹き飛ばし、代わりに開くことのない城門として出現していた。


「…………」


 開いた口がふさがらない。

 それは他の皆も同じようで、


「あ、ちょっとやりすぎた?」


 その中で小松はあっけらかんと言う。


「い、いや。すごい、上出来だ」


「そ。よかった! 役に立てて」


 と言って笑みを見せる小松。

 その笑顔はとても魅力的だったけど……。


 これ、軍同士の激突でやられたら、ヤバかったな。


 どこか背筋を流れる汗が、冷たいものに感じられた。

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