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第78話 凱旋祭に向けて

 凱旋祭がいせんさい


 名前は仰々しいけど、要は戦いに勝ったからお祭り騒ぎでお祝いしよう、ということらしい。

 ザウス国の侵攻は即座に国民の知ることになって、疎開するような動きもあったという。学校もそのため、一時休校になっていた。

 それほど危機と滅亡への恐怖があったわけで、それを見事勝利で乗り越えたと知った国民は狂喜乱舞したので、そのお祝いをしようということだ。


 つまり僕がふさぎ込んでいる間に色々決まって、それで来週の土日に大々的にやるという話になっていた。

 そのためにタヒラ姉さんは前線に戻って、それと入れ替わるように将軍とクラーレが戻ってくるのは先に聞いた。その日程の開催に合わせたらしいとも。


 準備期間は10日もなく、それで大々的なお祭りをやるということで、今やイース国は上を下への大騒ぎだった。とはいえ一時の恐慌状態に比べたら雲泥の差だ。


「凱旋祭? うん、知ってるよ」


 昼休み、屋上でラスと話しながら昼食を取る。

 今日の僕の昼飯は焼き鳥のサンドイッチ。ラスはパスタだ。


「聞いたぞ、イリス。そのイベントに参加しなければ退学だと」


「うん、そうなんだ。……てか何で先生がいるの?」


 しれっとカーター先生がいるのが気に食わない。

 せっかくラスと一緒に二人きりのランチだと思ったのに。


「退学、か……」


「まぁ、まだ決まったわけじゃないし。それに、参加するだけでしょ? とりあえず頑張ればなんとかなるよ」


「あまぁーい! ジャムサンドのはちみつ漬けより甘いぞ、イリス・グーシィン!」


「あ、先生。うるさいんでどっか行っててもらえます?」


「ぐぅ……ひどいぞ。俺の何が悪いって言うんだ!」


 いや、だからうるさいんだって。


「でも、イリスちゃん。確かに難しいかもしれないよ」


「そうなの?」


「なんでラス・ハロールの時はちゃんと聞くんだよ。先生差別だ」


「はいはい、それじゃあ聞くから。簡潔に15文字以内で」


「よし! それでは教えてやろう。凱旋祭でのイベントは大きく3つある。そのどれに参加してもいいし、どれか1つに絞ってもいい。先生は絞る方がおすすめだな」


 15文字じゃないじゃん。さてはこの人、国語が苦手だな? いや、算数か。数学教師なのに。


 とはいえ――なるほど。確かに手あたり次第でやるよりは、傾向と対策をしっかりして1つに絞った方がいいのは、一般的なゲームと同じ。

 とりあえずは内容次第かな。


「うむ、気になる内容もしっかり公表されている。まず1つ目! 乗馬による賞金レース! レース中の妨害もありの、サバイバルレースだ!」


「うちには騎馬兵は少ないけど、腕っぷしが強い人が多いからすごい危ないんだって。他国の選手も登録しているみたいだし」


 要は競馬か。

 けど妨害もありってことは……確かにヤバそうな匂い。


「続いては超難問、クイズバトル!」


「様々な分野から出題されるクイズをひたすら解いていくって大会なんだって。アカシャ王国の歴代の国王はもちろん、宰相や大臣の名前とか、各地の戦いについてとか、すごいコアな問題がいっぱいあるんだって。あと回答権を奪うために、勝負とかするみたいで危ないんだって」


 クイズ大会って聞くと、なんかのほほんとした感じがするけど、ラスの口調的に油断はできないようだ。

 大陸横断とかはしないよな。


「で、最後の1つは障害物競走だって。なんか国都をまるまる使った大規模なものになるみたい。これも妨害ありで危ないみたいだよ」


「……ラス・ハロール。私の説明を取らないでくれるかな?」


「なるほど、ありがとう。ラス」


「ほら、やっぱりぃ!」


 うるさいな、外野。


 ふむ。一応聞いたのをまとめると、


 1.競馬。騎手同士の妨害アリ。

 2.クイズ。回答権争奪の勝負アリ。

 3.障害物競走。これもまた妨害アリ。


 ……ろくなもんがねぇ。特に後半につく文言。

 どれも血を見そうなものしかないんだけど。なんだこれ。急速にやる気が失せてきたんだが。


「それより詳しいね、ラス」


「うん、お父さんが警備の責任者だから、何をやるかとかのスケジュールは抑えてるの」


「そういえば、ラスのお父さんって?」


 今まで聞いてなかったけど、何やってる人なんだろう。

 この学校にいるってことは中流以上の階級だと思うけど。


「えっと……」


 少しためらう様子を見せるラス。何か恥ずかしいところがあるのだろうか?

 やがて、ラスはちょっと頬を赤らめて、


「あのね、捕吏ほりの長官なの」


「ほり?」


「捕吏は犯罪者を捕まえる組織だな。アカシャ帝国では“警察”と呼ばれているが、その下の各国では捕吏となっている」


 先生が、先生らしく補足してくれた。


 あー……つまり警察の、長官? の娘?

 警察庁長官の娘!? ラスが!?


「言うと、そういう反応だから……ちょっと恥ずかしくて」


「あ、いや、ううん。ごめん。そうじゃないんだ。ちょっと驚いて」


 なんというか、全然ラスのイメージに合わない。

 こんなぽやっとした感じの娘なんだ。もっとこう、文化庁とか、経済産業省みたいな感じのイメージじゃん?


 それがまさか、警察のトップの娘だなんて。

 ちょっと意外だった。できればお父様とはお付き合いはしたくないなぁ。怖そうだし。


「と、とにかく! どうしよっか、イリスちゃん。といってもどれも難しそうだけど……」


「ま、どれでもいいんじゃないか。参加するだけなんだから」


「いや、待てイリス・グーシィン。そうなんでもいいなんて甘い考え方をすると後悔するぞ」


 カーター先生がちょっと真剣な表情で遮ってきた。


「まず馬のレースだが、お前は馬に乗れるのか?」


「それは……えっと、とりあえずは」


「ならばやめておいた方がいい。馬に振り回されて怪我をする可能性があるし、何より“あのグーイシィ家”の人間が、馬にも乗れずに醜態をさらすとなれば外聞が悪い。説明したはずだぞ、この祭りには各国の人間も来る。そこで醜態を見せれば、お義父様や姉君の評価につながりかねん」


 確かにそれは問題か。

 あんまり外聞ってことを気にして生きてこなかったけど、これからはそういったことも考えなくちゃいけないのか。

 しれっと“お義父様”って言ってるのはスルー。もうツッコみきれない。


「そうだよぉ。クイズ大会も、イリスちゃんの頭の良さは分かるけど、歴史になると多分わたしの方が上だよね。そうなるとちょっと辛いことになるかもよ?」


 なるほど。算数や国語レベルなら前の世界の知識でなんとかなるけど、歴史だけは別だ。

 前の世界の歴史でさえ、10年以上いろいろ学んでこのレベルなのに、この世界に来てまだ1か月ほど。学びきれるものじゃないし、いくらこの世界の学術レベルが高くないとはいえ、丸暗記はまた別だったりするから僕の有利に働かない。

 それはたぶん、『軍師』スキルを使っても同じだろう。知らないことは、天才軍師も知らないのだ。


「いや、あと10日ある。これから徹底的に叩き込めばなんとかなる、いや、してみせる! というわけで寝る間も惜しんで勉強だ。そうだな、帰宅するのももどかしい。今日から私の家に止ま――るぇ!?」


 変なことを言い出したカーター先生の、すねを蹴ってやった。


「い、痛いぞ、イリス・グーシィン!」


「そりゃ痛いところ蹴ったからね。あ、違うか。痛いのは頭の方だった」


「もはや教師を否定!?」


 ほんと、なんでこんなのが教師なんだ。


「となるとあとは……」


「障害物競走、それしかないかもね」


 障害物競走とか、小学校の運動会かな。

 まぁ他のと比べたらやりやすい。いざとなったら『軍神』スキルでなんとかできるだろう。


「でも気になるんだよね。“国都を使った”っていうから、かなり大規模になるんじゃないかな。太守様も色々かかわって張り切ってるみたいだし」


「国都を、ねぇ……」


 なんか嫌な予感しかしない。

 あの馬鹿息子とエロ爺が絡んでくるとさらに。


「ま、しょうがないからやりますか。なんとかなるでしょ」


「うん、頑張ってね! 応援してるから!」


 うーん、女の子からの応援しているって言葉は、こう、なんかグッとくるよね。


「先生も応援しているぞ、イリス・グーイシィ!」


「あ、そういうのいいんで」


「差別がひどい!」


 あ、そうだ。

 イベントについて情報は集まったから、ついでに聞いてしまおう。


「そうだ、この学校って図書館ある?」


「あるよぉ。とっても大きいのが。お父さんが蔵書はアカシャ本国に次いで2位だって言ってた」


「他国のことも分かるかな?」


「それは分かるぞ、イリス・グーシィン。アカシャ帝国と各国の事情については、すべて網羅されていると言っていい。今もアカシャ本国からの定期的な資料は届いているのは、教職員なら誰でも知っているからな」


 なるほど、そこがデータベースになってるわけか。

 タヒラ姉さんが言ってたことはあながちまちがいじゃなさそうだ。


 けど――


「そんな大きな建物、この辺にあったかな?」


「あー、イリスちゃん。どうせ興味なかったから覚えてないんでしょ」


「一応、国家機密を扱う場でもあるからな。そう表に堂々と出ているものではないんだ」


 表にはない。

 ということは、そうか。


「学校の、地下だよ」

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