表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

808/808

挿話69 項羽(ゼドラ国将軍)

 上杉謙信とかいう女の言葉に、これ以上ないほどの屈辱を覚えた。

 俺を馬鹿にしたことはいい。だがすいと虞に吐いた暴言は看過できない。その命をもって償わせるべきだ。


 いや、それ以上に。この上杉謙信というそれなりの武を持つ者が、そのようなくだらないことで俺を怒らせようとしていることに失望した。

 せっかくあの腐れ亭長(劉邦)らとは違った、骨のあるやつらと戦えることが楽しみになってきたのに。このようなくだらないやり口。あのかんの負け犬(張良)のようなことをする。はなはだ不快だった。


 ただその後は少し良かった。

 前に上杉謙信。

 後ろにイリス。

 その挟撃は少し愉快だった。押せば引き、引けば押す。その戦い方は真正面からぶち破りがいがある良い戦術だ。


 だがそれだけ。

 麾下きかがいくら倒されようが、俺は項羽だ。たとえ数千に囲まれても、上杉謙信とイリスをひねりつぶして脱出することはわけない。


 なら何だ。

 何をしようとしている。


 そこで上杉謙信が右に方向を転換した。それに半歩遅れて相手の軍も動く。良い動きだ。

 このまま陣に突っ込むのかと思いきや、何か狙いがあるのか。


 はん。どうでもいい。

 いつまでもこうして鬼ごっこをしているわけはない。奴が速度を落とした時。すいと虞をおとしめた償いを払ってもらうだけだ。


 相手の動き。それが少し歪む。

 何が。そう思う前に、左手方向。何かを感じた。


 茂み。伏兵か。

 しゃらくさい。いくら来ようが無駄だ。弓ならば打ち払い、歩兵ならひと薙ぎにしてやる。


 来る。


 だが茂みから来たのは、弓でも刃でもなかった。

 激しい爆発音。そして血煙が舞う。銃だ。鉄の球を飛ばすという、未来の兵器。


 それと分かったのは、この身に銃弾を受けたから――ではない。


すい!!」


 銃声がする直前、突如としてすいが大きく跳躍した。俺の意志とは無関係に、ただただその身を空に躍らせた。

 そのすいの下を銃弾がかすめていく。

 ただその下は地獄だった。

 後ろに続いた兵たちは、真横から銃弾を食らいバタバタと倒れていく。


 だがそんなことはどうでもいい。弱者に興味はなかったし、なにより俺の着地を狙った大馬鹿がいる。謙信だ。すいが地面を踏みしめると同時に、上杉謙信が単騎、こちらに刀を振って来た。


「斬り裂け、三鳥毛さんちょうもう


「しゃらくさい!」


 槍を逆さにして斬撃を防ぐ。だがいつもの矛じゃない分、勝手が違った。右肩に鋭痛。斬られた。この俺が。首を刎ね飛ばしてやりたかったが、相手はすでにすれ違って距離を取られた。


 さらに攻撃は続く。


「奇兵隊、次弾装填! その間に抜刀隊は突撃!」


 この声。そして奇兵隊とかいう奴。

 高杉といった。今日、散々に蹴散らしてやった奴らを率いていた敵だ。それがここに潜んでいたのか。


「ふはははっ! この僕にかかれば、このような奇襲はお手の物だ!」


「決めたのはスキピオと土方だろう。しかもおびき寄せる奴がいればの保険だ」


「高杉さん!? なんでここに!?」


 舌打ちする。


 前を上杉謙信、左を高杉、後ろにイリス。なるほど3方向からの包囲というわけか。しかも兵の数は圧倒的。

 こちらが残り100もないのに対し、敵は高杉の部隊を入れて1000は余裕で越えている。


 ならばどうする。

 右は空いている。


 逃げるか。


 愚問だな。


「この項羽に、貴様ら雑魚が敵うか!」


 最初の獲物にすいを向ける。左。高杉とやらだ。

 同時に槍を振った。地面に叩きつけ、救い上げるように。そこから生まれるのは爆発。そして地面が大量の土の塊となって敵に襲い掛かる。地を割る覇王の力。


 だが浅い。

 いつもの矛なら敵を覆いつくすほどの巨大な土塊が、今では敵の先鋒を潰すくらいにしかならない。


 左をひるませればあとは前後。

 先に面倒な方を片付ける。前。上杉謙信だ。


 単騎、上杉謙信に躍りかかる。

 槍と刀がぶつかり合う。


「天以外に俺を殺せるか!」


「我は天上より降りた毘沙門天の化身。ならば殺せるな」


「ほざけっ!!」


 弾いた。いくら強かろうが女の力。その技はあっても力は俺に及ばない。さらに距離も。相手の刀。その刃渡りは1メートルもない。それを小柄な上杉謙信が使うのだから、こちらに長さで敵うわけがない。

 相手の距離外から数度、槍を叩き込む。

 のんびりしてられない。今も後ろにいるイリスが迫っているだろう。


「項羽!」


 予想通りすぎて笑いたくなる。敵なのにこの息の合いよう。いかんな。こんなことでは虞に叱られる。


「うぉ!!」


 渾身の力で前の上杉謙信に一撃を叩き込み、返す刀で背後に横なぎを振るう。

 どちらも金属音に阻まれたが、相手をわずかにひるませたのが分かる。


すい!」


 同時、すいに呼びかける。その前にすいは動いていた。本当に利口な奴だ。

 直後に背後を銃弾が過ぎ去る。高杉だ。

 ああいう奴のやることは分かる。こちらが隙を見せた時に噛みつく臆病者のやることだ。ならばわざと隙を作ってやれば、そこに嬉しそうに噛みついてくる。ゆえに外すのは容易い。


 そのまますいを走らせる。その先にいた上杉の雑兵を数人叩き潰す。


「退け! お前らの敵う相手ではない!」


 上杉謙信が叫ぶ。

 ふん。その通りだが、若干引っかかるな。


「貴様なら敵うと!?」


「それをやると言っている!」


 心地よい返答だ。

 それはイリス、そして高杉も同様だろう。


 3対1か。


 しゃらくさい。

 だが面白い。


 そう感じ、自然と頬が緩むのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ