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第90話 土方歳三と白起

「あ、それとなイリス。あの会津女だが」


 ふと思いだしたように土方さんが話を変えた。


「会津女って、新島さん?」


「ああ。そんな名前だったな」


 同じ会津戦争を戦った相手に淡白だな、と思ったけど、そうか。この土方さんはそのころの土方さんじゃないから、会津戦争を知らないのか。

 会津藩預かりの新選組という枠で、上司の同郷の味方というぐらいでしかないわけで。


「一応、ここで捕虜にしてる。銃も奪ってるから抵抗はないようだが」


「クース軍が襲われたっていうのは」


「無能だから殺した、か。とんでもねぇな」


「そう、だね」


 味方としてきたものの、壊滅的な打撃を受けたので撤退する。それは確かに理にかなっている。

 けど、どことなく僕の心根は白起に同感している部分があった。


 それは人を殺すことに慣れたことの同感ではない……と思いたい。


 通じているのは、この後も戦いは続く。そう。大陸全土を制覇するまでは、ということ。


 白起が、いやゼドラ国が大陸を制覇するのであれば、クース国がここで国に帰るのは不都合だった。

 それもこれも“クース軍が国に帰れば精兵を集めて次の敵になるから”であり、“だったら今のうちに精強な将兵をだまし討ちしておけば、後々にクース国を征服するのが楽できる”という考えだ。


 まったくもって最低最悪な思考だが、人間の感情を排除すればきわめて合理的。

 ゲームであれば、外交を駆使して同盟国をひたすら戦わせて疲弊させるなんてことは戦術として確立できる。


 違うのはここがゲームの中でなくて現実世界。人の数は数字じゃなくて生身としてあるもの。

 だから僕は白起の戦法が理解できても実践できない。それをすること、つまり誾千代や上杉さん、そして土方さんをも襲撃して殺すということだから。


「どうした、イリス? あの白起のやり口が許せないか?」


 黙り込んでしまった僕を心配したように土方さんが聞いてくる。


 僕は答えに困ったが、とりあえず無難に答えておくことにした。


「それは、たぶん、そう」


「ふん。まぁ普通はそうだな」


「え?」


「やり方は認めたくねぇが、効果は認められるんだよな」


 まさか肯定されるとは思わずちょっと驚いた。


 けどあぁ、そうだ。この人も、完璧な合理主義者。

 芹沢鴨せりざわかもを排除するために局中法度きょくちゅうはっとを利用し、内部の引き締めのために伊藤甲子太郎いとうかしたろうを分派させたうえで排除。勘定方の河合耆三郎かわいきさぶろうを切腹させたのだって、一部では近藤さんの使い込みを隠すためだと言われるし、洋装に変更させたのもその方が動きやすいからという徹底的な合理主義だ。


「白起ってのは、数十万も殺したうえで王に殺されたんだろ? つまり国の嫌な部分を全て押し付けられて殺されたってわけだ。狡兎こうと死してなんとやら、だ」


 あそこで白起が死ななければ、秦の全国統一は始皇帝の曽祖父の代で完遂していたと言われるわけだけど。

 あの時点で全国統一していないから狡兎こうとのたとえは若干違う、とはいえ。


 そういう意味ではこの人も同じか。

 局長である近藤さんを際立たせるため、汚れ仕事や恨みは全て自分に集中させた。


 道理主義で組織の嫌われ者。そして悲劇的な死。

 白起と土方歳三の意外な共通点に、なんだか納得がいくようだった。


「ふん。私にとっては気にくわんな。用なしとなって切り捨てるのであれば、誰もついてこん」


「へーへー、スキピオのおっさんにはちぃと酷な話だったかね」


「おっさんではなぁい!! だがこれはもう勝ちも同然だな。ゼドラ国と言ったか。あれはもはや国際的に全ての国を敵に回している。いかに大国で帝都を支配しているとはいえ、ゴサ国とトンカイ国が海上封鎖してしまえばもはや何もできず干上がるしかない。ふふ、かのカルタゴ侵攻もヒスパニアの首都カルタゴ・ノヴァを落とし、ヌミディアを味方につけた時点で勝負はついた。そしてかの地でカルタゴの雷光とかのさばっていたジジイを打倒した者こそ――」


「あーはいはい。長いか、それ」


「私だよヒジカタ!! プブリウス・コルネリウス・スキピオこそローマ救国の英雄だよ! アフリカヌスの称号を得て、終生執政官の候補にも上がったこの私だよ!」


「はぁー、それ偉いのか? 西洋のやつらのことはよくわからんからな」


「なんと……ローマの栄光が伝わらぬとは。ま、仕方あるまい。聞けば二ホンというのは海を越えたさらに向こう。天外魔境の果ての末。野蛮な猿が住むところらしいからな」


「あ? てめぇ、日本舐めてんのか?」


「ぷっ、くく」


 一触即発そうながらも、時を越えて言い争いをしている2人がなんか微笑ましすぎて笑ってしまった。


「笑うなよ、イリス」


「ぬぅ。お主に笑われるとむずかゆいな」


「ごめんよ。でも、なんだか羨ましくてさ」


「羨ましい?」


 そう。多分、それは数々の戦いを生き抜いて英雄として昇華された人同士でないとできないもの。

 なんとなく立ち入れないこの2人の間に、ひそかに羨望ににたものを感じていた。


「つまり寂しいのね、イリリ! お姉さんの胸の中で泣きなさい!」


「しないっての!」


 ここで姉乱入。肘打ちで黙らせておく。


「はぁ。そっちもそっちじゃねぇか」


「むむむ……羨ましいな。タヒラ殿に私は抱き着かれたい!」


「ジジイ、年齢考えろよ」


「ジジイではない!」


 おいおい、またそのパターンで口論勃発か。


 なんてことを考えていると、不意に何かを感じた。


「イリリ」


「ああ」


 タヒラ姉さんも何かを感じ取ったらしい。肘打ちをボディに食らって悶絶しているのでなければ格好良かったのに。


「どうした、イリス」


「土方さん、スキピオ。すぐに全軍に通達。敵が来る」


「敵?」


「分かった」


 スキピオは自分で言っておきながら半信半疑なんだろう。だってまだ陽は落ちてない。この時分に襲撃するのであれば、夜襲でなく、奇襲でもなく強襲だ。

 いや、この時間。戦いが終わって生き延びてホッとして、これから夕飯というタイミング。一番心に隙ができる時間かもしれない。それを知ってやって来るのか。あの男は。


 一方の土方さんは僕の意味が分かったらしい。すぐに踵を返すと走り出す。


 そして僕の言葉を裏付けるように、遠くから声が響く。


「敵襲ー!! 敵襲!! ぎゃあ!」


 叫びながらこちらに駆けてくるおそらく斥候せっこうの兵が、馬から落ちた。


 その後ろ。

 土煙をあげて迫りくるのは騎馬の大軍。


 間違いない。


 白起が来る。

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