表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

787/818

第87話 肉薄

 敵襲。その言葉に咄嗟に馬を返した。


「全軍、続け!」


 走り出す。続いて姉さんが、一歩遅れて他の兵も駆け出す。

 昨日、優秀な騎兵500が為朝のスキルによって消えたのが痛い。それでも残った兵はその穴を埋めようと決死にもがいている。

 その想いは皆にも受け継がれていて、誰もが亡くなった仲間のため、そして皇帝のために戦おうと決意を固めているのだからその士気は高い。歩兵であっても全力で戦場を駆けている。


 それでもその場にたどり着いたのは僕と姉さん、そして鶴をはじめとした騎兵300騎。

 対する敵はおそらく1千ほど。

 しかも皇帝の馬車は横転してもはや逃げることも叶わない状態。


 もはや絶対絶命の窮地に、声が響く。


「アイシャちゃん! なんとしてでも守るよ!」


 ラス。ああラス。

 お前はそこにいるのか。そこにいて、まだ皇帝を守ろうとしているのか。1千もの巨大な敵に。ただ立ち向かっていくというのか。

 あの時。帝都から離脱する時にもまた、ラスはアイシャと共に皇帝を守っていた。だがその時に彼女らと共に戦っていたカイヤとオルトナは命を落とした。

 それがまた繰り返されない保証はどこにもない。


 その想い。そして危機に、僕の体が引き締まる。それを感じ取ったのか、乗っている馬が応えて速度を上げた。本当に、速い、そしていい馬だ。


「白起!!」


 見つけた。

 ラスたちを殺そうとする兵の奥。そこに隠れるようにして白起がいる。

 生きてる。まだ生きている。


 ならあとは行くだけだ。あの1千を叩き潰して、白起も倒して捕まえて。そうすればゼドラ軍は崩壊する。……いや、項羽と呂布という難問が残るけど、少なくとも“やりやすさ”は少なからず減るはずだ。


 だからここだ。やるなら今。

 スキルのV2も視野に入れるべき。残り寿命は105日。いや、ここで5分使ってV2を使えばもうそこで寿命は尽きる。

 けどそれでこの戦いが勝てるなら。ラスたちが生き延びられるなら。あるいは一考できる最期の計略。


 ……いや、それは本当に最期の手段だ。

 受け継いだものがある。守りたいものがある。そして、生きたい思いがある。

 その全てをなげうってなお、届かない時の、最期の最後の手段。

 そう。だから生きる。生きて。生きて。生きて。


 これ以上の犠牲なく。皆で勝って笑える日まで。

 それまで、命の安売りはなしだ。


 だから――


「うぉぉぉぉ!!」


 突っ込んだ。敵の中。赤煌しゃっこうを振るって、2人、3人と叩き落す。


「イリスちゃん!」


 ラスの声。生きてる。


「イリリ!!」


「イリスちゃん!」


 姉さんと鶴姫も来た。これで300。相手は1千。歩兵が来るまで耐える。耐え抜いて見せる。


「ラス! 陛下を後ろの歩兵に!」


「わ、分かった!」


 これで良し。少なくとも皇帝に敵がたどり着くまで時間が稼げる。

 あとはこの劣勢をなんとか味方が来るまで持ちこたえるだけだが……。

 狙うは白起。だがそこにたどり着くまでは敵の壁が厚い。


「ここは鶴にお任せください!」


 と、鶴姫が前に出た。


 いや、でもちょっと待った。彼女は武闘派じゃない。それがこんな前に出て大丈夫なのか?


「わが恋は三島の浦のうつせ貝……むなしくなりて名をぞわづらふ。我が父よ! 山と海をべる大神よ! 我が祈りに応えて参上せよ!」


 不意に鶴姫の体が光に包まれた。


 あ! そうか。なんというかあまりに衝撃的過ぎてそうだったことを忘れていた。あの鶴姫のトンデモスキルを。

 大山津見神おおやまつみのかみとかいう神様を憑依させ戦うスキル。その力は圧倒的で、あの妲己によって作られたキョンシー兵を文字通り消し飛ばした力の持ち主だ。

 それにカタリアから後で聞いたけど、牢を破る際にも色々やらかしたとか。


「ふはははは! 我は山にして海の神である! 事態は理解している! 我が娘を傷つける全ての者に、断罪のときを告げるであろう!」


 おおお! なんか凄いぞ!


石長比売いわながひめパーンチ! 木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめドロップキーック!! さらに新技をくらえ! 鶴ちゃんフライングローリングソバット!!」


 鶴姫が馬から飛び降りて、次々と敵兵を肉体言語でなぎ倒していく。

 ……いや、強いのはいいんだけど、なんでプロレス技!?


 と、とにかく!

 鶴姫、もとい神様のおかげで数は劣勢でも形勢は一気に有利に。何より、なぞの言語を放ちながら敵をなぎ倒していく鶴姫に恐れを抱ていた敵が及び腰なのが大きい。


「え、ツルルヤバくない!? え、今度からツルル閣下って呼ばなきゃいけない系!?」


 と、味方のタヒラ姉さんが驚いて引くほど。


 このまま行ける。その思いに体が前のめりになる。


 だが、そこには考慮すべきものが漏れていた。


 つまり――


「あまり調子に乗るな。我罪天通わがつみはてんにつうず


「なに……?」


 パリン、と何か割れる音が響いた。

 けど何かが起きた様子はない。


 ただ変わったのは鶴姫の様子。

 これまで縦横無尽に敵を馬から叩き落していた、鶴姫の動きが鈍り、


「くっ、こ、この力は――ぐわあぁぁぁぁぁ! ……あ、お父様、帰ってしまいまさいた」


「ちょ、何しに来た!?」


「ご、ごめんなさい~!!」


「でも、イリリ!」


「っ!」


 姉さんに喚起されて気づく。白起だ。白起が前に出ている。

 これが白起のスキル。スキルを無効化するスキル。とんでもないけど、連発されない様子が報告されている。


 ならば今がチャンス。

 なんだかんだ、鶴姫のスキルは敵を大きく乱した。

 そして白起を吊り出すことに成功したならそれはもう上々。


 あとはこの男を倒せば。この戦い。

 帝都を取り戻し、ゼドラ国の野望を打ち砕くのは、すぐそこだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ