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第84話 布陣

「よし、陣を敷こう」


 敵を前にして、こちらは陣立てを開始する。


 こちらは混成軍。

 誰かが先頭とかになると色々問題があるので、皇帝を後ろにして横陣を敷くしかない。


 率いる将がどうこうというより、戦う兵の士気にそれは大きく現れるからだ。

 そしてどこに誰を配置するか、それは今朝、兵たちが食事をしている時の軍議で決まっていた。


「敵はゼドラ軍のみ。ただおそらく部隊は昨日と同じく3つに分けてくるだろう」


 スキピオが説明を始めると、誰もが押し黙って聞いた。

 今やこの連合軍の実質の軍師は彼だからだ。失敗があったといってもそれは彼が自らを責めているだけであり、悲しさはあれど誰もがスキピオのせいとは思っていない。


 何よりそれを皇帝が認めた。

 いや、今や実質的に連合軍の総大将になった土方さんがそう助言をしたというべきか。


 だからこそスキピオは、昨日のショックをまだ引きずっているのか一度断ったが、それでも作戦をまとめるのは彼しかいないということでそれは決まった。


「白起、項羽、呂布。その3将に率いられた軍は強い。彼らの経歴はおおよそ聞いている。そして昨日の戦いぶり。それを総合して考えれば敵の布陣はこうだ」


 広げられた地図に、敵を模した駒を配置する。三角形の形だ。白起を頂点として、下辺の左右に項羽と呂布。

 屈指の猛将がいるのならそれを前衛に置くのは当然。それが2人なら出てくるのは2人だというのも当然だろう。

 こちらから見て左翼に項羽、右翼に呂布なのは昨日もその位置だったから。変える必要もないのであれば、今日もそれだろうということ。


「昨日はこの項羽の軍に関羽殿、呂布の軍に張遼殿が当たったが、今回は少し変える」


 そう言ってスキピオは今度は味方の駒を地図の上に配置していく。


「敵の兵数を加味すれば、ぶつけるべきはこうだ。左翼の項羽の軍に対し我らキタカ軍が当たる。その援護に関羽殿らトンカイ軍。右翼の呂布軍に対しては高杉殿のツァン軍、その援護に張遼殿のエティン軍とする


 こうやって見れば、兵数的にも将帥的にもこちらが圧倒的有利なように見える。

 それもこれもクース軍の撤退が大きい。


 ただそれもこれも、ある一点を除けば、だが。


「正直、伝え聞く伝説の怪物相手に真正面からぶつかりたくはない。だがここは平地で伏兵を置く余地も少ない。だが、昨日の戦いを見る限り、そして諸君らのことを知るにして、これが一番勝率が高い戦い方だと考えた。包囲殲滅を取ろうにも、陣を薄くすれば突っ切られるだろうしな。そもそもぶっつけ本番で、よく知らん軍を操れるものでもない。それに――」


 チラとスキピオは諸将を眺めて、


「かの項羽と呂布。それを互角か討ち取れるまでできる奴らが揃っていると私は信じている」


 関羽と項羽。

 張遼と呂布。


 確かに昨日は互角の戦いをできていた。

 やはり勝手の違う異国の軍というのが、1人で戦いをするわけじゃないことを物語っているのか。いや、単純に味方の武は敵の武に匹敵するほどだったと思いたい。


 ただそれだけで安心はできない。

 だから僕は手を挙げる。


「1つ、質問いいですか?」


「なんだ、イリス。手短にな」


「項羽と呂布。それはいいとして、この一番の問題はどうします?」


「……それをこれから話す」


 そうつぶやくスキピオは、僕をじっと見つめ、そして彼の策を話し出した。


 そして今。


「けどあのオジサン、なかなかうまいこと考えるねぇ」


 隣で軍の動きを見ているタヒラ姉さんがつぶやく。


「大丈夫ですよ、いざという時は鶴がお守りします!」


 その隣で鼻息を荒くするのは鶴姫。馬上に巫女服というのもまたなんか違和感しかないな。


 はぁ。しかしとんでもない役目を仰せつかったなぁ。


 そうため息をつき眺めるうちに、味方の布陣がおおよそ済んだ。

 朝にあったとおり、左翼にスキピオと誾千代が率いるキタカ軍1万6千。その補助に関羽と小松が率いるトンカイ軍6千。

 右翼は高杉さん率いるツァン軍9千。そこに土方さんも入る。それと張遼のエティン軍1万。


 そして後ろに控えるのが皇帝を守る帝国軍1千と、

 後方に皇帝の帝国軍残り1千と、その前に遊軍として僕らイース&ゴサの1千8百。そして上杉謙信の騎兵2千だ。


 合計6万数千の部隊。


 対する敵は――


「なんだ……?


 ツァン軍とキタカ軍の間から眺める敵の配置。


 それは部隊を3つに分けた形。いや、それは想定通り。

 ただ問題は分けた部隊をどう配置するか。


「鶴翼?」


 中央から両側に伸びたような、上から見れば翼を広げた鶴のような形の陣形だ。

 ただそれは基本、兵力が多い側が少ない方を覆いつくすようにして包囲するための陣形。相手の方が兵力が小さいし、こちらは横に広がった陣形。

 鶴翼は横に広がる分、縦の厚みが薄くなる。覆いつくす前に突破されて後ろに回られたら逆に包囲されてしまうのだ。


 もちろん、そういった前例がないわけじゃない。

 徳川家康VS武田信玄の三方ヶ原(みかたがはら)の戦いだ。あれはおびき寄せられた数の少ない家康が鶴翼、待ち構えて兵力の多い信玄が魚鱗という本来なら逆になるべき陣を敷いたことで有名だ。


「千代女、はいないか」


 大規模な乱戦には向かない千代女は、ローカーク門方面を探ってもらってここにはいない。


 くそ。信玄が何を考えていたか分かれば、この相手の陣形も予測はできたんだけど……。


 どうする。

 左翼にいるはずのスキピオの軍を見る。けどそこまで1キロ以上離れているし、彼は今、最前線でそれどころじゃない。


 くそ、こういう時だけ丸投げかよ。


 というのもスキピオは作戦をあらかた伝えた後に、


「イリス。戦いが始まったらお前に全軍の指揮を預ける。戦場の中央にいて戦局を動かすのだ」


 そう言って僕に全権を預けてきた。それには皇帝も同意した。


「おお、イリスか。良いぞ。十分にやれ」


 とお墨付き。ラスは目を輝かせてこちらを見てくるし、他のみんなの期待も重い。


 本来ならダダでもこねたかもしれない。

 けどスキピオが本陣で指揮を取らず、前線に出たのは昨夜の責任を感じているからだろうし、何より僕を信じて任せてくれたのだと思うと否やは言えない。

 何より、決めたんだ。

 みんなの想い。願い。希望。それらを背負って、戦うって。


 そして僕の役目はそれだけじゃない。


「そのうえでお前、そして上杉殿に頼む。機を見て貴軍らの騎馬でもって、白起を討て。この戦場。数は有利だが戦局に有利はない。ここであの男を討たなければ、おそらく負ける。それほど重要な戦い。全てを託す形ですまないが……頼む」


 そう言って頭を下げたスキピオの想いに、そしてここにいる全将帥、そして兵たち、彼らの帰りを待つ民衆のために。

 何が起きても、戦い抜く。

 そう決めたから。


「敵、動き始めました!!」


 2日目。最大の激戦が始まる。

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