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第84話 2日目

 陽が昇る。

 陽が昇れば、また敵の姿が視界に入り、殺し合いが始まる。


 よくこういった戦争ものだと、2日目も日の出とともに戦いが始まるとかって話があって。そういうのを読むと、よくもまぁ朝っぱらからそんなことができるなぁって思ってたけど、それもまた仕方のないことだとこうして実感する。


 だって、ほんの少し先に敵がいて。それがこちらを殺そうとしてくる。それから守ってくれる城壁もここにはなく、そんな時にのんびりと眠っていられるほど神経は図太くない。

 夜討ち朝駆けは武士の習いって言うのは、別に武士じゃなくても全然ありうる話。


 だから陽が昇ると共に僕らは目を覚まし、周囲に偵察を飛ばしながら軽い朝食をとる。

 朝食は硬くなったパンと水。あと干し肉。

 もしかしたら敵が来ているかもしれないと思うと、火なんか起こしてなんかいられないから柔らかい肉とか温かいスープを望むことはできない。だから仕方なくこの美味しくもない朝食をもそもそと食べるしかない。


 もしマズいといって朝食を食べなければ、力が入らずにそれで死ぬことだってある。それに12時になったからといって、はいお昼というわけにはいかないかもしれない。

 それを分かってるから、しんとした中で誰もが詰め込むにようにパンにかぶりつく。


 そして周囲に敵がいないことが分かると、100人の各部隊に分かれて点呼。夜に脱走するって話もあるから、それを事前に確認する必要がある。1つの部隊に脱走者が1人だとしても、それが10や20、果ては100も積み重なると大きな違いになる。

 1つの部隊がいなくて、ここぞという時の踏ん張りが効かずに負けたら目も当てられない。だからそれを前もって確認しておくことが大事だ。


 幸いにしてそんな人がいなかったことに安堵するのもつかの間。

 それを確認すればもう出陣だ。


 柵でこしらえた簡易的な陣を出ると、そのままローカーク門に向かう。

 ほんの数キロの距離。それでも緊張はある。そこらの物陰に敵を伏せていないかということもある。けどそれ以上に危惧していることがある。


「敵はいるかな、姉さん」


「そりゃいるでしょ。門を利用されると辛いわよね」


「いや、それより辛いことがある。敵が門にいないことだよ」


「門を捨てる? わざわざ防衛拠点を放棄するって?」


「たとえば、だよ。敵が門を捨てて、こっち側に潜んだとしよう。そしてツァン国の国都や、どこか村々を襲ったとするとどうなると思う?」


「それって補給を絶たれるってこと?」


「そう。一応、ここの補給はツァン国から受けてることになっている。だからその補給路を絶たれるとこの軍はすぐに飢える。連合軍の1つであるツァン国から略奪するわけにはいかないからね。けどそれ以上に困るのが、どこかから救援要請が届くことだよ」


「なんで? それって普通のことじゃない?」


「そう、普通のことなんだ。けど普通なのはツァン国の軍にとってで、他の国――正直言うと僕らにはあまり関係ない」


「あー、つまりあれね。うちらには関係ない話だから、そこまで本気にならない。けどツァンの軍は違うと」


「うん。酷い言い方かもしれないけど、それが事実だ。だからツァン国の軍は領地を救うために向かわないといけない。そうなったら僕らはどうする? ツァン軍に同行するか、それとも空になったローカーク門を抑えるか。どちらにせよ状況は悪い。ツァン軍を孤立させたら各個撃破になるだろうし、それについていって振り回される時間的猶予もない。だってうちらの大半は遠征軍だからね」


 人をいたして人にいたされずという言葉が孫子にある。

 敵の行動を誘導して、自分に有利な状況を作るという意味だ。この場合は、そのまま全軍でローカーク門に向かうなら補給路を絶つ、ツァン軍が単独で動けば各個撃破、全軍で戻れば各地でゲリラ的に戦いこちらの兵糧切れを待つなどなど。

 どれもこちらにとっては最悪の事態しか望めない。


 もちろんそれを理解して状況を把握できるか、ということになるけど、できるんだろうな。

 項羽や呂布は向いていないとはいえ、相手の総大将・白起ならばそれくらいのことはやる。だからこそ数十万の屍を積み上げ、最凶の名をほしいままにしたのだから。


「なるほどねぇ。なんかやっぱイリリって頭いいね。ちょっと前はそんなことなかったのに」


「えっ!? あー、いや、最近色々あったからなぁ」


 そういえばイリスとの乖離を一番知ってるのがこの姉だった。最近、ボケばかりで忘れてた。

 少し気を付けないとな。


 というちょっと物事の本質にかかわる会話で、昨日からの精神的疲労とこれからの緊張を紛らわしていると、視界の果てに巨大な門が見えてきた。ローカーク門。帝都へ向かうための関門。

 ここを突破しなければ、帝都は奪還できない。


 そう思うと心拍が早くなっていき、何よりその手前1キロほどのところに展開する軍を見てどこか安堵してもいた。


「いた……」


「普通にいたわね」


 さっきの懸念は全て白紙に戻った。

 かといってこれはまた大きな問題をはらむ。


 つまり、数で劣る相手が正面からぶつかって勝機を感じているということだから。


 昨日の戦闘、元の兵力は互角、いや、相手の方が多かった。

 けど今やその数値は逆転している。こちらの方が若干多いはずだ。

 というのも、昨日の戦闘で最終的には左翼――クース軍に大勝した。そう思えなかったのはウェルキンゲトリクスに林冲という大きなものを失ったからで。とはいえ、敵の将を2人討ち、挟撃の挟撃で兵も徹底的に削った結果だった。


 それで兵数敵には互角になったわけだけど、何を思ったか白起はその残ったクース軍を切り捨てた。

 昨夜の戦闘でクース軍はほぼ全滅。こちらの犠牲も多かったとはいえ、兵力差は逆転したのだ。


「真っ向勝負でも勝てるってことね」


「…………」


 そう。源為朝を倒したとはいえ、相手には項羽と呂布という、一騎当千の強者が2人もいる。

 さらにその下には巴御前、そして琴さんという油断ならない相手もいるし、それを率いるのは最凶白起。


 兵力が上回ったからといって油断できる相手ではないし、すべきでもない。


 敵が何を考えているのか。それを見破りながら戦う。そうしないと勝てない。生き残れない。


 そんな風に思ったんだ。

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