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第70話 開戦の日

 日が昇った。


 同時に、全軍が動き出した。

 その数6万数千。

 帝国以外の八大国のうち6国が連合した部隊。


 エティン軍の屈強な騎馬隊1万5千を率いるのは魏の五大将・張遼ちょうりょう。そして上杉謙信うえすぎけんしん

 ガリアの英雄ウェルキンゲトリクスが率いられたキタカ軍1万8千は、立花誾千代たちばなぎんちよという補佐を得て一級の攻撃力を持つ。

 三国志の英雄・関羽かんう小松こまつに率いられるのはトンカイ軍1万。

 そしてこれまでずっとゼドラ国と戦い続けてきた高杉たかすぎさん率いるツァン軍は1万4千。そこには高橋菊たかはしきくもついていった。


 これで5万越え。

 率いる将も、率いる規模からも軍の中核となる部隊だ。


 それからタヒラ姉さんのイース国が2000ちょいと、大祝鶴姫おおほうりつるひめのゴサ国200が、本隊である岳飛がくひ将軍と土方ひじかたさん、ジャンヌ・ダルクの帝国軍4千強につき、本陣となる。


 その大軍の総指揮はあろうことかこの僕。イリス・グーシィン。

 その補佐として岳飛将軍と土方さんがつき、さらに軍師としてスキピオがついた。


 皇帝の周囲を固めるのは、もう皇帝の両腕となっているラスとアイリーンの2人の少女。そこに戦闘は不得手のムサシ生徒会長に、万が一の護衛として千代女ちよめ、そしてなぜか帝国軍についてきていた林冲りんちゅうに頼んだ。


 6万を超える軍に僕を含めてイレギュラー14人。


 それでも勝利は確信できない。


 対するのはゼドラ軍とクース国。

 ゼドラは本国からの増援があったのか、数を増やして4万強。

 クース国は土方さんらの目算で2万5千ほど。


 合計6万5千の兵がいる。


 しかも率いるのが覇王・項羽こうう

 三國志最強の武将である飛将・呂布りょふ

 今は怪我をしたとはいえあなどれない鎮西八郎ちんぜいはちろう源為朝みなもとのためとも

 平安最強女子・巴御前ともえごぜん

 さらに、僕たちと戦ってきた中沢琴なかざわことさん。


 それをかの殺戮将軍・白起はくきが率いる。


 さらにクース国も名将ぞろいだ。

 幕末最強の火力を有した長岡藩家老・河井継之助かわいつぎのすけ

 自顕じげんを極めた戊辰戦争の軍学者・伊地知正治いぢちまさはる

 そしてまだ存在が確認できていないが、戦国の最強スナイパー・雑賀孫一さいかまごいちこと鈴木重秀すずきしげひで。そしてもう1人。女性の鉄砲撃ちがいる。


 兵の数はほぼ互角で、イレギュラーは総勢10人でこちらより少ない。

 といっても項羽、呂布、源為朝と、1人で相手するのは命がけの一騎当千が3人もいて、その総指揮は、生きていれば秦の天下統一は数十年早まっただろうと言われる数十万を殺した白起がいる。

 さらにクース国は長岡に薩摩に雑賀と、まさに日本の鉄砲技術の粋を集めたまさに鉄砲大国。こちらの火力では、数も腕も段違いだろう。


 そんな相手となれば、ほんの数人のイレギュラーの差はあってないようなもの。というかこっちが明らかに不利だ。ゲームバランスとしては最悪だ。

 何よりこっちは混成軍というのが痛い。


 けど、ここで引くわけにはいかない。

 ここまで兵が集まることなんて、おそらく二度とないだろうし、ここでゼドラ軍を倒せなきゃ世界はゼドラに塗りつぶされる。


 それはいけない。

 皇帝。ラス。そしてイースに残した家族や知り合いたち。


 それをこんな暴虐の国の侵略を受けるなんて許すわけにはいかない。


 だから僕は総指揮官を受けた。

 たとえ役者不足だとしても。うぬぼれだとしても。

 この混成軍をうまく動かせるのは、確かに僕しかいないわけで。


 ローカーク門が見えてきた。

 こちらが見えるということは相手も見えるということ。

 門が開き、ぞろぞろと敵が現れた。


 鉄砲の射程を考慮して、離れた位置で停止した。


 こちらは6万数千。

 相手も6万数千。


 この地に13万もの人間が集まり、それが今から殺し合いをしようとする。

 そう考えると、それだけの命を預かる僕の胸が苦しくなり、何より気分が悪くなる。今すぐ総指揮官なんて返上して逃げ帰りたいと思うほどに。


「イリスちゃん」


 ラスが声をかけてくる。

 僕の不安を察したのか。


 情けない。

 実際の年齢からすれば、僕の半分くらいしか生きていない女の子に諭されるなんて。


 そうだ。

 負けられない戦い。

 そう決めた。僕じゃない。皇帝がだ。この世界で一番の権力を得る少年が。

 伊達や酔狂でそう決めたのなら、とんだ独裁者だけど、彼がこれから起こることをはっきり理解しているのだとはラスから聞いた。何より住むところを奪われ、親類も殺された少年の立場を考えると、助けてやりたいという気持ちも出てくる。


 まったく。なんて因果だよ。

 僕らを舐め腐ったクソガキが、まさか僕らがその下で戦うなんて。


 ままならない。本当に。

 けど、ままならないからこそ人生。

 琴さんが助かって、僕と敵対することになったように。


 感傷は断ち切れ。

 彼女のために、この好機を逃してしまう。そんなことがないように。

 今だけは。それでも彼女ともう一度分かり合える。それを心の片隅に置いて。


「では、先陣を出してください」

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