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第63話 祝勝会

「報告! 敵が退いていきます!」


「皇帝陛下より急報! 我、ゼドラ軍を撃退す、とのことです!」


 項羽らゼドラ軍と対峙して2日目。

 相次いでもたらされた報告に、味方が湧く。


 しかも聞けばあの源為朝を相手にして、敵の総大将を討ち取っての大金星。

 ホッとしたというかなんというか。


 ただ気になるのは、敵の総大将を討ったというがライトーンという将。ただ僕はそれを知らない。そんな歴史上の人物も知らない。

 というのも当然で、ライトーンとはイレギュラーでもなんでもなく、この世界の普通のゼドラの将軍とのこと。いや、将軍としての力量は未知数。というのもその人物はあの白起の片腕として補佐に当たっていた人物ということ。

 それはゼドラ軍の捕虜に確認したことだから間違いはない。


 そこで問題なのは為朝が総大将でなかったこと――ではもちろんない。

 僕だったらそんなもったいないことをしない。だって為朝を有効に使うなら、後方の本陣においておくより最前線で戦わせた方が使い勝手がいい。

 あの武力を後方に下げるなんてもったいないこと、あの白起の采配ならありえないだろう。


 だから総大将を別の人間に任せて為朝を前線に置いたのはいい。


 問題は呂布だ。


 いや、問題というかなんというか。

 何で呂布がいないの、という話。


 ゼドラ国のイレギュラーは白起、項羽、呂布、源為朝、巴御前の5人。そのうち項羽と巴御前はここの戦線にいる。となるともう1つの戦線である、皇帝のいる最重要ポイントになぜ為朝だけなのか。呂布を温存する意味はないわけで、いや、むしろ白起もどこにいるというお話。


 その違和感が、何かが起こっている前触れのようで少し不安にならないでもない。


 ただその不安も、考える時間がないというか、そんな状態じゃなくなったというか。


 というのも――



「酒だぁーーー!!」


 ウェルキンゲトリクスの叫びが夜空に舞う。

 それにあわせて兵、そして街の人たちが続く。


 そしてあとは飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。


 まぁなんというか。ゼドラ軍が撤退したことで、ここキョウシュの街で祝勝会が行われていた。


 もちろん敵の偽装撤退じゃないかという見方もあったけど、それはないとうのが僕ら――僕と高杉さん、そしてスキピオの見解だった。

 というのも敵軍は2日前の戦いで大きく傷ついた。さらに為朝の敗北で土方さんらがこちらに援軍を向けて来る可能性が出た。

 こちらの援軍。つまり敵にとっての増援だ。


 さらに、


「イリリー、飲んでるー!? 飲んでますよねー、知ってマース!!」


 イース国とエティン国の増援が来ていた。昨日のことだ。

 そんな状況で僕らと戦う愚は、あの項羽がするわけがないというのが出た結論。


 だからゼドラ軍が全面撤退になったのを見届けたうえで、盛大にかがり火を炊いての大宴会になったわけで。


 はぁ。援軍はありがたいんだけど、宴会に姉さんの組み合わせはヤバいって……。


 さらに、


「おう、姉ちゃん。イイ飲みっぷりじゃねぇか。気に入った!」


「ふふふ、あたしに勝てると思って? 見ててイリリ、姉さん勝っちゃうから!」


「酒の勝負か。面白い。この軍神に勝てるか?」


「あいや待たれよ! 酒飲み勝負でローマが負けるわけにはいかん! ましてやガリアなどな! そこなお嬢さんがた、私とも勝負だ。そして勝った暁には……」


「おお、いいねぇ! よし僕の三味線を持ってこい! 僕が都都逸どどいつを唄ってやろう!」


「おお、高杉さんの都都逸……はぁ、はぁ菊は、菊は幸せものですぅ!」


 姉さんにウェルキンゲトリクスが絡み、上杉謙信が挑戦状をたたきつけ、そこによこしまな狙いでスキピオが絡む。そこに高杉さんがちゃちゃを入れて、その横で菊が悶える。


 なんだこの光景。

 色々カオスすぎて考えが追い付かない。


 いや、まぁ姉さんの絡みを気にしないでいいのはありがたいけど。


 こんなところ敵に襲われたら一発だよなぁ。


「イリス、飲んでる?」


「だから飲んでな――って千代女か」


 振りが姉と同じ過ぎて怒鳴りつけるところだった。


「ったく。脳筋たちが騒いでうるさいったらありゃしないわ。気が緩み過ぎよ」


 千代女の隣には誾千代がいた。

 ぶつくさ言う割にはジョッキを片手にぐびぐびやってる。すでに顔も赤いし、人のこと言えてない気がする。


「久し、ぶり」


 と不意に声をかけられた。

 誰か、と思ってみれば千代女の影に隠れる形で、1人の少女がいた。


「話しがしたいというから連れてきた」


 と千代女が彼女のために道を開ける。

 えっと、確か彼女は――


「マシュー?」


「ん」


 帝都で出会ったお嬢様アイリーンの取り巻きの1人だ。帝都からの脱出戦で、その友人2人を亡くし、自身も瀕死の重傷を負っていた。

 その後は特に挨拶らしい挨拶もなしに帰国という流れになったけど、なんでここに?


「高杉に教わってる」


「菊が嫉妬してうるさかった」


「あー……」


 千代女の言葉にさもありなんとうなずく。


「高杉さんか


「仇討ちのため」


「!」


 仇討ち。

 きっとアイリーンと共にいた、亡くなった2人に対して。


 だけどそれは果てしなく遠い、というか極上の危険を伴う行為だ。

 なんていったって相手は呂布。

 あの飛将・呂布奉先だ。


 仇討ちということは呂布を殺すということ。それの無謀さは考えこむ前に無謀。


 そもそも仇討ちなんてろくなことじゃない。

 恨みを晴らすために相手を殺す。現代日本では当然禁じられているその行為に、こんな少女が……。


 それは不幸だ。

 恨み怨みうらみ、ひたすらに相手を呪い続けるその行為は後ろ向きな意識。それを抱え続けて生きていくなんて自身にマイナスでしかない。

 辛いだろうけど、可能なことならその想いを吹っ切って前向きに生きてほしい。


 なんて、ちょっと人生の先輩として考えてしまうわけで、ひとまず言葉を尽くして彼女に語った。

 できるだけ、彼女の感情を逆なでしない方向で。


 けど――


「する。何言われても」


 彼女の決意は揺るがなかった。


 しかも彼女を援護するのが誾千代と千代女の2人だ。


「ま、無理でしょ。ひとたび生まれた恨みは消えないって旦那も……あ、違う、あの馬鹿茂も言ってたわ」


「あの高慢独善女と和解なんて無理」


 島津に親を殺された旦那を持つ誾千代と、何年にも渡って死闘を繰り広げた武田家臣の誾千代が言うと重いなぁ……。


 はぁ、仕方ない。

 マシューの邪魔にならないレベルでなんとか援護していこう。

 殺す殺さないは別として、呂布をなんとかしないとこちらに勝ち目がないのは事実だし。

 それに加えて千代女と謙信の間もどうにかしないといけないし……味方が増えるのはいいけど、それで気苦労が増えたらたまらないぞ。


 切野蓮の残り寿命145日。

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