挿話21 源為朝(ゼドラ国将軍)
くそ。どうも力が出ない。
4矢も連続で撃ったからだ。あの異能を使って。
おっかしいな。帝都の時はまだもったのに。
あるいは使えば使うほど、何か呪いのようなものが溜まっていくのか。
いや、違うな。
今この目の前にいる2人。
この林冲と名乗った男と、土方の圧が自分を疲れさせている。
2人を相手にしてここまで自分が押されるとは思っていなかった。
あの時の土方と、あと……そう、高杉とかいう奴との時も厳しかったがそれでもまだ余力があった。だがこの場。この時においてはもはや余裕はない。
ま、余裕がないだけで、たぶんこのままぶち殺すことになりそうだけど。
まず林冲の攻撃が来る。それを避ける。これまで見てきたものなら避けられる。それで土方が来るはずだからそこを横なぎの一閃で胴体を真っ二つにする。そして返す刀で林冲の首を刎ねる。それで終わり。
「ふっ!!」
だから林冲が先に仕掛けてきた時には勝利を確信し――
喚声があがった。
何が、と思った瞬間。反応が遅れた。
左肩に痛み。林冲の槍が刺さっている。そこから毒のように痛みが全身に駆け巡る。
それが頭部に到達した時に、激情が奥底から爆発的に沸き上がる。
「この、ガキャア!!」
林冲は槍を抜こうとしたが、筋肉がそれを妨げる。抜けるも一瞬の遅れ。
横なぎの一閃が林冲を吹き飛ばした。間合いを間違え、槍の柄で打つことになったが、それでも林冲の体は10メートルは吹き飛んだ。
続いて衝撃。背中を斬られた。
「為朝!!」
「土方かぁ!!!」
咄嗟に手を出した。痛む肩を無理やり動かし、左手の拳を思い切り背後にたたきつける。手ごたえ、あり。
「ぐっ!」
土方の体が泳ぐ。
その無防備な胴体に、必殺の槍をぶち込む。それで勝ちだ。
「俺は……!」
「死ね」
「俺は!!」
土方が叫ぶ。瞬間、ゾクッとした。
血まみれの顔で大きく口をあけて叫ぶさまは、まさに鬼。躊躇。いや、貫く。土方の胴体。その胸のあたり。そこを俺の槍が一直線に――
「死ねない!!」
いや、消えた。
土方の体。貫かれたはずの骸。それが忽然と消えて、生きた土方がこちらに向かってくる。
なんだこれは。いや、見たことがある。あの帝都で俺に傷を負わせた。異能。これが土方の異能なのか。
まずい。踏み込まれた。蹴り。いや、遅い。死ぬ。
衝撃が来た。
だが斬られた衝撃ではない。
何者かに突き飛ばされた衝撃。
もちろん俺のことだ。体躯も体重も人一倍ある体をそう突き飛ばすことはできない。だが必殺の一撃を放った直後、死を覚悟したその刹那。俺の体も隙ができていた。
だから突き飛ばされはしなかったものの、2,3歩よろけることはした。その3歩が命を救った。
代わりに、命が散った。
「ぐっ……」
「ちぃ!!」
土方の刀の先。そこにはライトーンの姿があり、胸に突き刺さった刀を抱え込んでいた。
「ライトーン!?」
「逃げろ、為朝殿! 帝国軍が打って出た! 白起大将軍にはあなたはまだ必要! 逃げて――」
「こいつっ!!」
「放、すか!」
土方が刀を抜こうとしたのを、刀身を掴んで抜かないようするライトーン。
それを見た刹那。動いていた。
「全軍、後退する!!」
叫び、走り出す。
俺の足は馬と同じくらいに速い。ならばここは逃げる。口惜しいけど、あの男の命をかけた提言に逆らう気持ちはなかった。
ったく、総大将が最前線に突っ込んでくるんじゃないっての! ……ったく。
とにかく今はもう逃げる。
土方はライトーンが押さえている。背後の帝国軍はこの混戦でこちらにはすぐ来ない。
ならばあとは――
「行かせねぇよ」
林冲。
立ちふさがる。地面に2つ足をつけ、槍を構えた姿で。
その構え。ゾクッと背筋が凍る思い。忘れていた恐怖という感情。それをこの目の前の男が思い起こさせてくれた。
対峙したい。この男とサシの勝負がしたい。この男なら全力で俺の力に応えてくれる。
だが今はダメだ。
左肩と背中。それだけでも十分に動ききれない。
何よりライトーンの命を無駄にできない。
だからここは……胸糞悪いけど逃げに徹する。
それならこいつを一撃で葬る方法……1つしかない。今日5発目。どうなるか分からない。けどこれに賭けるしかない。
俺の異能。それは弓の威力を極限まで上げる力。その果てが城門を破壊する破城の弓となる。
だが今はもう弓はない。一騎討ちにあの弓は邪魔だ。
だから今ここで異能は使えない……なんて誰が決めた。
矢はある。俺の槍。これまで死地を潜り抜けてきた槍。
弓はある。俺の体。俺の長い腕が、デカい身体が弓だ。
ならばそれを異能に乗せて打ち放てばいい。
力がみなぎる。
対する林冲も何か光のようなものが集まっているように思える。
放つは互いに一撃必殺の異能。
あとは、どちらが強いかが決める。
ならば――
「鎮西大月弓!!」
「豹子一天閃!!」
瞬間。光が周囲を包んだ。




