挿話18 ジャンヌ・ダルク(アカシャ帝国将軍)
ズドォン!
雷鳴のごとき音が響き、大地を揺るがす波となって足元を揺るがす。
方向は南門の方。
ゼドラ軍が展開した方角だ。
「少し待ってて。敵が来たらこれまでの要領で弓と鉄砲で撃退」
気になって走りだす。城壁の上を。
南門まで走ればほんの数分。けどそこまでいかなくても結果を知ることになった。
続けざまに衝撃。それも3回。
見れば、南門の中に光がさすようになっている。門が倒れて高く埋められた土に光がさすようになったのだ。
「岳飛将軍」
南門の城壁の上に立つ男性に声をかけた。
右腕を失いながらも戦い続けた、すさまじい人。今も失った右手のところを風にたなびかせるようにして、悠然と立っている様はまさに軍神。
私にも、いえ、フランスにいた誰にもまねできないだろう。そんなことをこのお人はやってのけている。
「ジャンヌ・ダルクか、持ち場はどうした?」
「敵に攻める気配はありません。来るならばこちらでしょう」
「まぁ、それはそうだな」
「これが例の弓ですか」
噂には聞いていたけど、ここまでとは。鉄砲どころか大砲でもなく、弓、しかもたった四矢でこれとは。
人間離れしたこの力に、唖然とするしかない。
「ああ。とんでもないものだ」
「土の壁でよかったのですね」
「岩だったら割られる可能性がある。土を大量に盛れば破壊できない。あの男の言った通りだな」
「あの男……土方さん、ですか」
「あいつの言うことは理にかなっている。だがそんな想像をぽんっと出せるかというと。ふっ、一体どれだけ修羅場を潜り抜けてきたのか」
「そう、ですね……」
「気になるのか?」
急に聞かれて、思わず頭が真っ白になった。
同時、急に心苦しい想いが沸き上がる。
「いえ! そんなことは……!」
「ふっ、まぁいいさ。ここは戦地だ。何があってもな」
「だからそういうことではないと――」
「新選組、突撃!!」
抗議の声を続けようとしたのを、轟く大音声が遮った。
敵陣の方を見れば、わずか500ほどの人員が1万の敵に突っ込んでいるところだった。
「行ったか、土方」
「ええ。こちらから援護できないのは心苦しいですが」
「弓、鉄砲の射程距離外。打って出ようにも、距離がありすぎてその間に立て直されれば城に戻れなくなる。それを承知であいつはたった500で行ったわけだ」
「最初は100ですよ」
「ふっ、そうだな。とんでもないやつだ」
「ええ、それについていったあの男も」
「林冲か。土方も、あの男も修羅だな」
「修羅……」
「仏教における武神・阿修羅の通称だな。そのすさまじい力には、神をも恐れさせるという」
「なるほど。まさに天の軍を率いる大天使ミカエルのごとく」
あるいはあの人は本当に神の遣わした方なのかもしれない。
あの神々しさすら感じる彼の背中に、天使の羽を見たとも感じることがある。
それならば、たとえ1万でも2万でも、500では多すぎる。
なにせ神に選ばれし軍勢を率いるのだ。人間では太刀打ちできない。
それに羨望のようなものを感じると同時、共に戦えないことに辛さ、そして憤りを感じる。
「持ち場に戻ります」
「そうか。おそらく敵は出ないだろうが――」
「かといって何もしなければ落ちます。川を挟んでのやり方もありますから」
「無茶はするな」
「……岳飛殿、私は男です。軍にいる限りは、男なのです」
「ふっ、そういう意味で言ったわけではないがな……分かった。そういう風に扱えと言ったのはお前だったな。すまなかった」
「いえ……」
彼の声に少し湿っぽいものを感じて、こちらも申し訳なくなった。
こんなやり取り――とは少し違うけど、フランスの軍隊にいた時もあった。
けど結局何もなかった。当然だ。私は軍人。私は男。
それ以前に、神に仕える者なのだから。




