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第61話 忘れられた死神のこと

 目覚めるとそこは知らない部屋だった。


「いやいや、知らない部屋ってのは酷いなー」


 と耳障りな音を響かせるのは、知らない部屋の知らない人。


「いくら君でも知らない人呼ばわりってのは傷つくよ?」


 はぁ、仕方ないな。


 視線を動かす。そこにはまぁいつものごとく、ティーカップを片手に優雅にくつろぐ自称死神の姿が。

 金髪にすらっと伸びた鼻といい西洋風の顔立ちといい、完璧に貴族様と言えるような風体をさらしているのに、なぜかTシャツにスウェットといういで立ち(しかもTシャツには「働いたら負けだと叫びたいレクイエム」とか書いてある)は、もはや日本文化に傾倒した、ただの金持ちのオタクでしかない。


「だからオタクってのは酷くない!?」


「オタクじゃないのか?」


「オタクですけど?」


「もういいや……」


 どうでも。


「どうでもよくないでしょ! ってかなんで勝手に来るかなー。こっちだってプライベートってのがあるわけでさ。その、色々ほら、ごにょごにょしている時にこられると困るというか気まずいというか」


「別に来たくて来てるわけじゃないからな。てかその言い方やめて。マジで気持ち悪いから」


「あ、ほんとは今回はボクが呼んだんだけど」


「呼んだのかよ。てか呼べるのかよ。フリーダムすぎだろ」


「ま、そこらへんはまがいなりにも神ですから。閻魔様ですから。魂の操作なんて簡単ですよ」


「すっげぇ誤解を生みそうな発言だけど。で? 何の用?」


「ん、そりゃもう……ね? ほら、あれだよ。その……」


「なんだよ、その歯切れの悪さ」


「うん。あれだ。そのだね。怒らないで聞いてくれる?」


「大丈夫、もう怒ってるから」


「そうか、じゃあ言うよ。…………最近元気?」


「はい、お疲れさまでしたー。もう二度と会いたくない」


「わっ、ちょっと待った! し、仕方ないだろう? これも社の決まりなんだよ。部下の状況を把握しておかないとさ、最近コンプラ委員会がうるさいんだよ。部下の状況も把握できないと上司失格って言われちゃうしさ」


「誰が部下だ。なにがコンプラだ。どこが上司だ。てかなに、社って。ここ会社なの? お前、雇われ閻魔様なの?」


「いや、ボクは正真正銘の閻魔大王だけど?」


「だからそれが疑わしいって話なんだよ」


「なんだって。仕方ない。こうなったら本当の閻魔にしかできない最終奥義を見せてあげよう……」


「あ、じゃあ帰っていい? 時間の無駄だから」


「なんで!? これはレアだよ!? 帝釈天すら見たことのない閻魔流最終奥義だよ!」


「はいはい。すごいすごい。じゃあな」


「あ! 分かった! 本当はこっち! 実はあの妹がまた色々やってて……」


「またそれ系? 別にいいよ。前に金貸してくれたし」


「本当にそれで信用するのは気を付けてね。今、あいつ裏で色々動いているらしいから。それから、君の国でも……」


「うっ……」


 カタリアのパパとかか。

 本当にどうなってるんだろうか。これをさっさと終わらせて、一度国の戻ってゆっくりした方がいいのかもしれない。とはいえ寿命も残り少ないし……そろそろ本気でそっちの心配も必要か。

 今、滅ぼせるような国、ないものな。


「お、いよいよ切羽詰まってきたね。それなら前に話したミッションいっとく? 今なら皇帝陛下のお命頂戴で10年の寿命プレゼント!」


「その話はやめろ」


 せっかく忘れかけていたのに。

 そんなことをしたら、僕は人でなしだ。


「いいじゃん。軍神ちゃんでしょう? 神は人じゃないよ」


「あいにく、人を辞めるつもりはないんでね。それに上杉謙信だって人をやめてるわけじゃない」


「ふーん。そう思うんだー。ふーん」


「なんだよ意味深な」


「別に。ただアレを人だと思ってるってことは、蓮くんって能天気だなぁって。あるいは何も分かってないなぁって」


「どういう意味だよ」


「別に。ただアレを人だと思ってるってことは、蓮くんって本当に心の底から楽観主義でおめでたい頭の童貞だなぁって」


「言い方が辛辣になってる! てか童貞関係なくない!?」


「あ、ごめん。つい本音が」


「本音じゃねぇか! もういい。ちょっとは有意義な内容に聞こえたけど、全然。時間の無駄だったよ」


「まぁまぁ。そこはほら、河童の川流れってことで」


「全然意味が解らん。じゃあ、帰る」


「ちょ、待ってよ! せっかく来たんだからさ。ほら、お菓子食べる? あとゲームしてかない? それともやっぱり『っとできた! 初めてのおつかいちゃん リメイク』の鑑賞会でもする?」


「なんでいきなりぐいぐい来るんだよ」


「いやー、激務すぎて疲れがたまってさー。てか寂しかったんだよ、君と色々お話ししたかったていうか」


「乙女か。恋人か」


「それとキミにプレゼントがまだ残ってるんだよ。ほら、前に話しただろ。『1回だけどこの国に移ってもいいでしょう券』さ。ほら、今ゼドラに移ればもう寿命なんてウハウハだよ」


「はいはい、すごいすごい。というわけで今度こそ本当に帰るから。じゃ、二度と呼ぶなよ」


「そんなー、ヒドイ! せっかくの出番だったのにー! とりあえず呪いの手紙を100通ほど君の家に送りつけてやる」


「大人げないことするな!」

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