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第59話 激突、再び…

「動いた!」


 敵の前衛、もとい敵全軍2万が一斉に動き出す。

 それも当然か。相手は項羽に巴御前。ガンガン前に出てくるタイプだ。敵兵は一戦して疲れているといっても、あと1回は戦える力はあるだろう。

 それをまだまだ元気な覇王が逃すわけがない。


 だからこちらも迎撃の構えで陣を敷いていた。

 右にゼドラ軍。左にツァン軍。

 同兵力なのに、兵を割ってしかも迎撃の待ちの構えなんて愚の骨頂だけど、今回はそうせざるを得ない。


 というのも、相手はゼドラ一国に対しこちらはツァンとキタカの2国の混成軍。しかも出会ったばかりで過去には小競り合いもあったという話だから、出会ってすぐに一緒に戦いましょう、とはならない。

 指揮官のイレギュラー連中にその理屈は通じないといってもいいけど、それ以下の部隊長、そして末端の兵にはその理屈が当てはまってしまう。


 だから一緒に一軍となって戦うのは危険。そう思っていっそのこと部隊を分けた。


 そしてこちらから攻勢に出ないのは、なにも項羽を恐れてのことじゃない……というのは嘘。超怖い。今後の戦いを考えるなら、できるだけ兵を温存しておきたい。

 それに後ろにはタヒラ姉さん率いるイース軍と上杉謙信率いるエティン軍がいる。今日1日耐えきれば、明日にはその2万弱が合流すれば、兵力差は倍になる。


 そうなればいかに覇王・項羽といえども簡単に突き崩せないだろう。項羽は3万で20万を打ち破ったけどあれは劉邦が超絶油断していたからだし、垓下がいかでも韓信かんしん相手に3倍の兵力差で勝っているが、最初だけだった。

 それにこちらには軍神・上杉謙信を筆頭に、多分強いウェルキンゲトリクスに魏の五大将・張遼と猛将が揃っている。そう簡単には負けないはず。負けないと思いたい。

 まったく。これだけカードをそろえても安心できないとか、本当に項羽はチート過ぎる。


「まずはこっちかい。ありがたいね」


「高杉様のことなめくさりやがってー。ぶっとばしちゃいましょう!」


 高杉さんが横で不敵に笑い、その横で菊が馬から降りた状態で威勢のいいことを吐く。歩兵としての方が高杉さんを守りやすいから、とか言ってたけど、どこまで本気なのか。ま、ツァン軍は歩兵主体らしいからそれも格別な問題じゃない。


「傷ついたキタカ軍じゃなく、こっちに来るとは。やっぱり、向こうも戦いを分かってるみたいだね」


「ああ。そうだな。よし、全軍迎撃態勢! 鉄砲隊、構えろ!」


「?」


 僕の感想に高杉さんが頷きながら指示を出し、菊が首をかしげる。

 ちなみに千代女はいない。100騎ほどを裂いて彼女につけた。なにも彼女に本格的な戦闘をしてほしいわけじゃない。いや、あの影分身スキルは貴重なんだけど、混戦となればそれもまた同士討ちの可能性を生むだけで先ほどみたいな数の利を活かすことはしづらい。

 だから彼女には少数を率いてこの戦いから離れてもらった。といっても逃げたとかそういうわけじゃない。

 ゼドラ軍の後ろ。そちらに向けて回り込んで向かう。狙うは敵の補給路。さすがに補給部隊に呂布や項羽レベルをつけるはずがないから、彼女のスキルと機転で十分に戦果をあげられるはず。

 たとえそれが空振りに終わっても、補給を脅かされた軍は弱い。実際、項羽なんてそれで負けたようなものだし。


 というわけで千代女は現在離脱中。

 残った3人でツァン軍を率いるわけだけど。


「簡単なことだよ菊。敵は帝国を狙っているとはいっても、実質戦っているのはツァン国だ。そしてツァン国の領土を削られている現場、ツァン軍は戦闘の当事者で負けても逃げることはできない。対するキタカ軍はあくまで援軍。こちらが全滅すれば彼らに最期まで戦う理由はない。後々困るといっても、今は領土を奪われているわけじゃないしね」


「それにうちらには鉄砲があるからな。厄介な敵は先に叩いておくに限るってことだ」


「はぁ……つまり、やつらは高杉様が天才すぎるってことですね!」


「あー、うん、まー、それでいいや」


「やっぱり! さすが高杉様! あんな獣の輩にも恐れられるなんて……ああ、もう高杉様が眩しくて見えない……」


 いやいや、よくないだろ。とツッコミたかった(てゆうかそういう対応してきたから菊がこんなんじゃないのか?)けど、敵はすでに射程距離に入ろうとしている。


「高杉さん」


「ああ、鉄砲隊、構え!」


 前列に並んだ鉄砲隊200人が膝立ちになって鉄砲を構える。そこから吐き出される死の暴風はそれだけで敵の数%を一気に削り取る最強の兵器だ。


 だが――


「よし、狙いつけ、撃――」


「高杉さん、待った!」


「っ!!」


 鉄砲を放とうとした刹那。

 突如として荒ぶる牛の大軍が突っ込んできた。


 この牛。見覚えがある。帝都からの撤退のときに見た。そして先ほどの戦いでも使われたと聞いた――スキル。巴御前のスキルだ。

 どうする。迷いは一瞬。


「鉄砲隊、撃て!」


 その前に高杉さんが動いた。迫りくる牛の大軍。それを脅威と見た高杉さんは鉄砲で排除することにしたのだ。

 銃声が轟き、牛たちの悲鳴がこだまして地面を揺るがし倒れていく。動物虐待で怒られるか、と思ったけど、倒れた牛は片っ端から光る粒子となって消えていく。

 そうかスキルで作られた借物の牛。だから大丈夫。そう自分を納得させて、一瞬でも迷った自分を恥じた。


 ともかくこれで鉄砲の一斉射が牛によって防がれ、元気満々な敵兵が突っ込んでくる。

 その先頭はもちろんあの人。


「菊、援護を! 高杉さんは1段下がって!」


「任され!」


「ああ、気をつけろ」


 かねてより打ち合わせてあった通り動いてくれた。あの項羽と真っ向からぶつかるのは危険。だから菊と2人でなんとか時間を稼ぐ。その間にスキピオが軍を動かし、敵の脇腹を狙ってくれるはず。

 だからそれまで高杉さんには無事でいてもらわないといけないから、彼を下げたのだ。


 先頭。巨馬に乗った圧倒的な武神に、背筋が凍る思い。だけど隣にいる菊の存在感、そして負けられない思いを胸に小さく息を吐いて気合を入れる。


「項羽!」


「イリス!!」


 再び覇王が降臨する。

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