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第6話 3つのボーナス

「転生する、と決めた場合。君に3つのボーナスをあげよう!」


「ボーナス?」


「そう、この世界は乱世だからね。君みたいななんの取り柄もない、ゲーマーで引きこもりでコミュ障で引っ込み思案で甲斐性なしでろくでなしで他人の心を分からない数字がすべての人の心を無くしたロンリーウルフだから、すぐに死んでしまうのではと考えたんじゃないかな?」


「そこまで自分を卑下しないけどな」


「そんな君に大チャンス!」


 モルスは右手を挙げて人差し指を立てて口を開く。


「異世界転生の定番、スキルを与えようじゃないか。それで思いっきりおれつえーの無双して群がって来る女の子に囲まれてウハウハだと思ったら12角関係くらいの相関図を作った上で最期は修羅場に巻き込まれてナイフで刺されてしんでしまえばいいさ!」


「なんでバッドエンド前提なんだよ……」


「え? 愛する人に殺されるなんて最高の愛じゃないか。地獄でもね、愛し愛され殺し殺されキャンペーンがあってね。その期間に恋人に殺された人間は間違いなく無間地獄行きのスペシャルコースという――」


「あ、もういいから。とにかくスキルをくれるんだな」


 スキル、か。

 人知を超えた何か特殊な力。

 それを聞けば、やはり心が沸き立つ。

 ええ、そりゃもう。いつまで経っても永遠の中学2年生。男の子は邪眼とか時間停止とか、卒業するにはまだ早い。


「じゃあ次に行こうかな。2つ目、君は開始地点を選べる」


「開始地点?」


「そう、どの地域に所属して始めるかはちゃんと選ばせてあげよう。それが重要なのは君にはよぅく分かるだろう?」


 確かに。

 こういう戦略シミュレーションゲームにとって、初期位置は重要だ。

 どれだけ広いか、人材がいるか、収入は、人口は、といった兵力に直結するもの以外にも、隣国がどうなっているか、産業がどうなっているか、守りやすいか、など戦略的な視点での見極めが重要だ。


 仮に人口がいっぱいいて、人材も超優秀で、兵力も他国の倍あったとしても、周囲を大国に囲まれた大陸中央の国なんてスタートするには下策だ。

 兵力が倍あったところで、周囲から袋叩きされて即滅亡。もちろん外交や計略などの戦略で対応できなくはないが、やりこんだ僕でさえ何回かはゲームオーバーする。


 だからなるべく端の位置。攻める(攻められる)のは2方向までが望ましい。

 リバーシと同じように、端を取った方が有利なのは間違いない。


「あ、でも1つ制限があって、所属している国が亡んだらゲームオーバー。君は閻魔の裁きを受けることになる」


 それって滅亡イコール即死亡ってことかよ。ますます最初の国選びが重要になってきた。


「というわけだから、端の大国で圧倒的な強国プレイするのもいいし、周囲を強国に囲まれた弱小国からジャイアントキリングするのもいいと思うよ」


 うん、後者ははっきり言ってありえない。

 何回かはゲームオーバーするわけだから、その最初の一回が今回にならないとは言い切れない。


 失敗したら死亡するという前提条件においては、端にある強国。この一択だ。


「さて、次が最後の3つ目かな」


 モルスが薬指を伸ばす。


「君にはこのスーパーウルテク携帯電話死神フォン99(ナインティナイン)をプレゼントしよう! 異世界でも使える特殊仕様で、スケジュールや地図だけでなく、各種アプリも取り揃えているので、見知らぬ異世界でもこれで安心! そう、死神フォンならね!」


「古いよ、そのネタ」


「さらに、今回お申込みいただいた方だけの特典として、今ならもう一台ついてくる! また、おつかいの死神フォンを引き取らせていただければ、さらに20%オフ!」


「通販番組か」


「さらにさらに! なんと今ならこの死神フォン99(ナインティナイン)の購入特典として……なんと! 僕の電話番号が入ってまーす!」


「…………」


 もう、なんというか。イケメンなのに格好から言動やらがひどすぎる。

 なんで僕、こんなやつと長々話してるんだ。


 あるいは、僕自身がこの現実を認められていないのか。

 あるいは、僕自身がこの世界に興味を持っているのか。

 あるいは――


「ふふふ、悩んでいるね。悶えているね。この死神フォンの実力に!」


「いや、それは違うから」


「えぇー、この死神フォン、ナイナイになってすっごい機能上昇したんだよ?」


「知らねぇよ」


 こいつ、疲れる。

 というか僕はもともとツッコミの人間じゃないんだ。かといってボケというわけでもないけど……。

 あるいは……本来はツッコミ側だったのか。こんな雑談にも申し訳ないレベルのどうでもいい話なんて、10年以上したことないから分からなかった。


 まだペラペラと、死神フォンとやらの説明をしているモルスを意識から外して、自分の思考に没頭する。


 考えることは1つ。

 この死神の提案にのるかそるか。


 正直、今の自分の気持ちは半々だ。

 半分、乗ってもいいと思うのに対し、半分、お断りだという思いがある。


 前者は、やはり乱世にスキルという、永遠の厨二心をくすぐるワードが僕の胸をざわつかせる。

 ちょっと危険、以上のものがあるとは思うけど、それすらも凌駕するものがあるのだ。


 対する後者は、そのために再び生きなければならないということ。

 正直、若干燃え尽きてる感じはするのだ。

 大学を出てから8年ほど。ひたすらに働いてきて、得たものは数多の恨みと解雇通知というだけの虚しさ。

 多少なりの金銭は得たけど、これといって特別な趣味があるわけでもなく、将来のために使用する相手もいない。


 どこで間違えたのだろうか。

 どこかで見失ったのだろうか。


 とにかく、だからだろう。

 生き返らせるというモルスの言葉も、むなしいだけの響きでしかなかったのは。


 まずやってみる。

 それから決めてみる。


 昔はそんな風に思って飛び込んでみた。


 思考の停止じゃない。

 責任の放棄じゃない。


 前へ進む意思。

 未来を掴む決意。


 それを持っていた。


 けど今は――


「というわけなんだけど……って、ねぇ! 聞いてる!?」


「え? あ、ああ」


「絶対うそでしょ! ボクには分かるんだからね! まったく、人の話をろくに聞きもせず、ぶつくさぶつくさ……」


 あ、こいつめんどくさいやつだ。

 話を聞いてくれないと、共感してくれないとふてくされる。女子か。


 ったく、しょうがない。

 こういう時間も、はっきりいって無駄でしかないから。やるならさっさと行こう。


「その死神フォンの素晴らしさもよく分かったんだけどさ。それだけじゃ決めてにならないんだ。だからもうちょっと他の、ないかな?」


「ん、そう? ま、そうだね。死神フォンも素晴らしいけど、もっと色々と知っておくべきことはあるからね」


 ふぅ、なんとかごまかせた。ちょろ。


「じゃあこれを見てもらおうかな」


 モルスはそう言って床に手をかざした。

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