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第83話 対策会議のこと

「で、どうしますの?」


 坂本さんと鶴姫と別れて、僕たちは周瑜が用意してくれたホテルに戻った。


『ちょっと疲れてしまったでしょう? 観光はまた明日にしましょうか。それじゃあ、宿まで送るわね!』


 最後は明るさを取り戻した鶴姫に馬車を手配してもらったのだ。

 部屋の前で迎えたのはユーンだけで、サンと千代女はまだ外に出て脱出経路の確認や偵察に出ているということ。


 彼女たちの報告は戻ってからとして、それまで寝て過ごすのはもったいない。早速、2階の一室で僕とカタリア、そしてムサシ生徒会長は額を突き合わせて相談に入った。


 議題は2つ。


「とりあえずの問題は、皇帝陛下の密書をどうするか。そしてイース国との同盟の件。その2点だろうね」


 そうムサシ生徒会長は議題をまとめて話を始めた。


「どちらもすぐに答えは出せませんわね。帝国への派兵を説得するのは難しい。イース国の同盟は、決めてしまうには重すぎる案件ですわ」


 カタリアが苦虫を100匹くらい噛み潰したような渋い顔をしてうなる。


「あ、その前にちょっと聞いてほしいんだけど」


「ああ、イリスくん。どうしたかな?」


 手をあげた僕は、促されるままに語った。

 もちろん内容はゴサ国の経済戦争についてだ。彼らが物流を支配することで、他の国の大きなアドヴァンテージを握ろうとしていることを、なるだけ簡単な言葉を使って話をした。

 じっと聞いている2人。だがその後の反応は――


「え、と。それがどうしたの?」


「え……」


 カタリアのあまりに素朴な反応に、思わず呆気に取られてしまった。


「いや、だから物の価値が高くなって。そうなると気軽に買い物ができなくなって食べ物がなくなるんだ」


「高くても買えないわけじゃないでしょう? だったら普通に買えばいいじゃない」


 あ、ダメだこれ。

 完全にマリーアントワネット発言だ。これだから金持ちってのは。


「僕らはそうかもしれないけど、庶民には口に入るものがなくなるだろ。そうなれば飢饉が襲うぞ」


「なら自給をすればいいじゃないかな?」


「ムサシ生徒会長、イース国の自給率知ってます? わずか20%ですよ? そもそもあんな山と森が多い不安定な地域に畑を多く作るのが難しいから基本輸入に頼るしかないんです」


「ふぅん? 正直、それがどうしたって話だと思うけど」


「え、どうして?」


「だって、ないなら奪えばいいじゃない。それってつまりゴサ国がうちに対して喧嘩売ってるってことよね? つまり大義名分は十分。他の国も誘ってゴサをボコれば、そんなもの鎧袖一触じゃない」


「あのな。ゴサ国が経済封鎖をするなら、それだけ武力も持ち合わせてるってことだろ。最新鋭の装備で固めた連中に、そう簡単に勝てるはずがない


「なんで? だってわたくしたちが買わないなら、ゴサ国も売り手がいないんだからお金もなくなるでしょ? そうなればゴサ国もそう武装できるもんじゃないってことじゃない?」


 ……もうだめだ。完全に説得する心が折れた。

 てかなければ奪えばいいなんて、完全に戦国大名の発想だよ。いや、戦国時代か、今は。


 つまりそれだけ各国の上層部は、こういった経済政策に対し本腰を入れて来なかったということ。そこに彗星の如く、清盛が経済封鎖を行えば、各国は対応もなにもなくすぐに没落していく。


 カタリアは「僕らが買わないからゴサ国も貧乏になっていく」と言ったけどこれは完全に間違いだ。てかそれくらい少し考えたら分かるだろう。


 ゴサ国がこれだけ経済発展したのは、イェロ河の河口を抑えた地理的特性以外にも大きな要因がある。それが“海外”との貿易だ。この場合の“海外”は、イース国とか帝国の他国ではなく、文字通り海を越えた“海外”だ。

 つまりゴサ国だけは、帝国圏内に売り場がなくても“海外”との交易で十分に採算がとれる。そこで得た利益で武器を買いあされば、かなり強力な軍勢がそこには出来上がる。他国が空腹で弱っているなら、圧倒的な力量差が生まれるほどに。


 その流通の基礎も基礎が分かってくれないと、ゴサ国の脅威というのが伝わらない。

 それはこの後の交渉に大きく影響しそうで困るな。


「ふむ、なるほど。だいたいわかったぞ」


 さすが生徒会長! どっかのお嬢様じゃ理解できないことをあっさりしてのけるそこに痺れる憧れるぅ!


「つまりゴサ国は床上手ってことだね」


「僕の感動を返せ!!」


 なんでこの真剣な場でそんな下ネタ言えるよな。


「違ったかな? つまりゴサ国は見目もテクニックも素晴らしい大女優。そんな彼女をものにしたいけど、そのためには高価な贈り物をするか、ねだられたものを買わなくてはいけない。そうなってはこちらは財布も魂もすべて彼女に支配されてしまう。そういう危険性があるってことじゃないのかな?」


 ……なんだろう。

 全然認めたくないけど、理屈としては合ってる。


 けど発想が完全にキャバ嬢に入れあげてるキャバクラ通いのダメ男のものなんだよな。この人だけ、時代が違くない? もしかしてイレギュラー?


「違うかな?」


「…………たぶん、合ってます」


「素晴らしいですわ、会長! このイリスの妄言を臆することなく受け止めて昇華し、自らのものにするとは。ちなみに会長。床上手ってなんですの?」


「ふふふ、知りたいかねカタリアくん。よかったら今夜、私が精一杯のテクニックで昇華ならぬ昇天させてみせようじゃないか」


「じゃないかじゃなく、絶対やめてくださいよ? てかやめろ、マジで」


 この人。いまいち尊敬できないのが、言動で損しているよな。てかエスカレートしすぎてない、最近?


「ふぅん。とりあえずゴサ国が何か企んでるってわけね。そのための同盟と。うーん……ちなみにそれだけ?」


 そう聞かれた時には胸が一瞬キュッとなった。


 まだ言っていないのだ。僕がヘッドハンティングされそうになっているということは。


 それを言ったらカタリアは絶対、


「はぁ!? なんで!? わたくしは!? イリスごときが誘いを受けてわたくしがなぜ!? ありえません! やはりあの方々は見る目がない。帰りますわよ、2人とも! このような国に未来はありませんわ!」


 なんて言い出しかねない。

 だからそこは黙っておくに限る。


「ああ。それだけだよ」


「おかしいですわね。それだけならわたくしたちを追い出す必要もないというのに」


 ぎくっ!


「はっ、分かりましたわ。もしや――」


 しまった。万事休すか……。


「わたくしに論破されるのが恐ろしかったのですわね。そのような穴だらけのチーズのような机上の空論。そこにしがみつきたかったなどと。ああ、なんて情けない話でしょう」


 僕はお前が情けないよ……。


 けどまぁ、今はそう思ってくれてればいいか。


「やっぱり問題点は最初に会長が言った2つね。しかし困りましたわね。さっさとゴサの援軍を連れて帝都へ向かわないと、わたくしの有用性を陛下に示さないと。あのラスが皇后になるだなんて悪夢が実現してしまいそう」


 あ、まだそれ言ってたのか。


 けどラスが皇后か……あの子供皇帝と? なんか色々ヤバい気がする。それは見た目もそうだけど、あの2人。どこか世間ずれしてるところがあるからなぁ。

 あー、久しぶりに思い出したな。ラス、今も元気でやってるかな。ああ、僕も早く帝都に行きたい。


「カタリアくん、1つ確認いいかな」


「どうぞ、会長」


「カタリアくんは、陛下の書状については実現させるつもりはあるんだね?」


「当然ですわ。それが陛下に対して恩を売ることになるんですから」


 ここまで打算をあけすけにきっぱりと言うカタリアに、ある意味感動すら覚えるよ僕は。


「なるほど。その目的はゼドラ国に圧迫されている皇帝陛下を助けたいという点だね」


「当然ですわ。本来ならイースの軍も動かしたいのですが、お父様が……」


「なるほど、十分に理解がいった」


「ムサシ生徒会長、なにか分かったんですか?」


 僕が少し身を乗り出しながら聞いた。

 手前味噌だけど軍師のスキルを持つ僕より先に、ムサシ生徒会長が解決策を思いつくと思っていなかったからだ。


 けどやはりそこは下位貴族階級ながらに、名門学校の生徒会長に上り詰めた人だ。発想というか、座視がはるかに高みにあるように物事を多面的に見ることができるということらしい。

 ほんと、数分前までにセクハラ発言をしていた人物と同一人物とは本当に思えない。


 その結論がこれだ。


「カタリアくん、イリスくん。ゴサ国に軍を出してもらうのは諦めよう」


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