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第37話 再び死神のこと

「あっれー、久しぶりじゃん。どうしたの?」


「……最悪だ」


 目覚めから死神か。あ、自称死神。久しぶり過ぎて忘れてた。

 例の死神宅の居間。そこで目を覚ませば、あとはもういつも通り。


「いやいや、自称もなにも。本家本元死神ですがなにか?」


「引きこもりやる気なしゲームアニメオタクの不健康優良児のどこが死神だ」


「言うねぇ」


「うるせぇ」


「あれ。ご機嫌斜め? んっとー、あー、なるほど。こりゃそうもなる……ってか、え、馬鹿なの? 敵地で飲み物に手を付けるとかって。え、馬鹿なの? 足軽子ちゃんでもやらないよ?」


「本当にうるさい!」


 まぁしくじったのは確か。何がいい人っぽいだよ。完全に騙されてるじゃないか。

 つい3か月くらい前にも、帝都の途中で騙されそうになったのに。今度はこうも簡単に……。屈辱だ。


「んー、しかもヤバいねぇ。君たちの首を手土産に降伏する感じじゃん? ホント馬鹿なの? 大事なことなので3回言いました」


「うるさいっての。分かってるよ。分かりましたよ。自分が甘ぅございましたよ」


「うんうん。自らの過ちを認めて謝ることができる。これぞ日本人の美徳だね?」


「お前、何様だよ」


「死神様です」


 ……頭が痛くなってきた。こんなコントに付き合わされる身にもなってよ。


「コントとは失礼な。これでも心配していたんだよ。気になりすぎて、足軽子ちゃんの劇場版を見ながら携帯ゲームをしながら漫画を読みながらソシャゲをやるくらいしかできなかったんだ。ああ、本当に心配で胸が張り裂けそうだ! いったいどうなってしまうんだ、足軽子ちゃんの未来は!」


「僕はお前の頭が心配だけどな! なにマルチタスクで引きこもり生活エンジョイしてんだよ!」


「あっ、さてはボクの心を読んだのか!? まさか神の心を読むだなんて、神をも恐れぬ所業だね!」


「お前がペラペラしゃべってただろ!」


 あー、もうこいつめんどくさ。もうこいつの言うことは無視して妹に売り渡そうかな。お前の兄貴、仕事ほっぽりだして推し活エンジョイしてるぞって。


「そ、それはやめておいた方がいいかな!? い、妹は関係ないよ、ね!?」


 ん、なんだこいつ。いきなり挙動不審な。


「あ……ははーん?」


「な、なんだいその目は! む、無駄だよ? 妹にボクのことを告げ口しても、あいつは何ら気にしないでトドメを刺しにくるくらいしかしないんだから!」


「うん、じゃあこっちもお手伝いしないとな。とりあえず四肢の自由を奪って、その目の前でコレクションを1つ1つたたき壊していくのを永遠と見せ続ける」


「うわぁぁぁぁぁぁ! なんてことをするんだ! この悪魔! 鬼! 死神!」


「死神はお前だろ。自称の」


 けど、なるほど。いいことを聞いたぞ。こいつは妹を恐れている。そしてそれ以上に自分のコレクションに命を賭けている。

 と、いうことは。


「じゃあ、もっといいスキルくれ」


「何が“じゃあ”なのかまったく微塵も一ミリも分からないんだけど」


「とりあえず今のスキルの100倍強くて、で、デメリットなんてなくて、俺つえーを地で行ける最強スキル頂戴」


「頂戴って、それはもう強請ゆすり以外の何物でもないよね……」


「あ、そ。じゃあいいや。とりあえずデス子にコンタクト取って、あることないこと告げるだけだし」


「わ、わ、わ、分かったって! 頼むからそれだけは勘弁をぉぉ、お代官さまぁぁぁ」


 誰がお代官だ。


「けどそういうスキルは残念ながらなくてさ」


「よし、デス子直行」


「だ、だからちょっと待ってって! えっと、そうないんだよ。君もゲームをやる人間なら分かるだろう? いくら最強のユニットがあったとしても、それ単体で完結することはないって。呂布なら低知力だし、強い効果にはデメリットとかクールタイムがあるっていうの」


「ま、それはね」


「だからスキルの中でも、最強ってのはないの。というか軍神と軍師は軍事面ではこれ以上ないくらいに最強の組み合わせなんだよ。だからそれ以上の効果のものはないし、デメリットをなくそうとすれば、今より大きく効果を下げなくちゃいけなくなる」


「駄目じゃん。使えねー、自称死神。じゃあデス子でいい?」


「いやいやいやいや! だからだよ! ちょっとボクに時間をくれないかな? ちょっとスキルをいじくって強化してあげるからさ」


「して、あげる?」


「全力でさせていただきます!」


「うん、じゃあ1か月でよろしく」


「1カ月!?」


「だって僕だって時間ないんだよ? 寿命が増えたからって……えっと、あと何日だっけ?」


「もう、だから端末を常備してって言ったじゃんか。あと423日だね。1年以上あるから少し遅れても全然平気だよね?」


「分かってない。まるで分かってないよ自称死神」


「あのー、一応ボクにはモルスっていう名前があるからそっちで呼ばない? てゆうか、ボク結構偉いんだけど?」


「いいかい、自称死神。今や世界は新しく勃興したイース国を含めて八大国が覇権を争う世の中になったんだ。ザウスとかノスルとかっていう小国はもうない。つまり僕が寿命を延ばすためには八大国を相手にしないといけない。その八大国が1年かそこらで滅ぶと思ってる? 戦力が拮抗しているから乱世ってのは続くんだよ。しかもどこかを攻めれば、他のどこかが助け船を出すなんて状況があれば、さらに状況は混とんとする。つまり1国を滅ぼすのに1年どころか、2年や3年、いや、もっとかかるかもしれないってことなんだよ。それにスキルを使えば寿命が縮むなんてクソ設定のせいで、1年じゃあ全然足りない!」


「あ、はい」


「だからあと10年寿命くれ」


「じゅ、10年!?」


「あ、ごめん間違えた。20年だった」


「それはさすがにないよね!? それ、もうほとんど普通に寿命もらってるじゃん!」


 ちっ、騙されなかったか。足軽子ちゃんにうつつを抜かす引きこもりの世間知らずだから簡単に騙せると思ったのに。


「聞こえてるよー。心の声も」


「あ、さすが死神様。今日も頭の悪そうな顔をしてらっしゃる!」


「君がさっき思ってた言葉をそのまま返すよ。なんでこんなコントに付き合わなくちゃいけないのさ」


「人間の世界には返報性の法則っていうのがあってね」


「もうそういうのいいから……分かったよ。死神としての掟破りだけど、寿命は1年延ばすよ」


 1年か。まぁ棚ぼたのものだし、それで手を打っておくか。


「君、本当に遠慮がなくなってきたね……」


「そういう奴らに苦労させられればね」


「というわけでスキルの件はちょっと待ってよ。それで、この話は妹にはコレで」


 人差し指を立てて唇に当てる。


「ふふふ、お主も悪よのぅ」


「いえいえ、お代官さまには敵いませんて」


 なんだ、これ。本当にコントかよ。


 ま、いいや。コントに付き合ったら寿命が1年伸びたんだから、それはもう上出来だ。それにスキルの件も後の楽しみにしておこう。


 さって、それじゃあカタリアたちも心配だし。陰謀と血と悪意に満ちた世界に戻りますか。

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