第47話 タヒラ姉さんの来校
週のあけた月曜日。
カタリアと授業でやり合ったり、カーター先生の露骨なアピールに辟易したり、ラス以外のクラスメイトの交流(?)があったりと、色々な事件が起きたわけだが、それらがすべて些事に思えるほどの大事件が僕を――いや、平和なこの国を襲ったのだ。
「イリス、いる!?」
カーター先生の授業を適当に聞き流しながら、今日も今日とてのんびりと午後の陽気に春眠暁を覚えずな感じでぼぅっとしていた時だ。
教室のドアが思い切り開いて、その人物が入って来た。
「え、もしかして……」「タヒラ様!?」「嘘っ!?」
一瞬でクラスがざわつく。
有名人が学校に来たのだ。それも仕方ないだろう。次の瞬間、きゃーだの、わぁーだの歓声が爆発した。
「これは、タヒラ・グーシィンさ――いえ、いったいどうしました?」
カーター先生が落ち着いた――ように見せて顔を上気させながら聞く。お前もか。だって“様”って言おうとしたよね。
「失礼します、先生。ちょっとイリスを軍の権限で徴発します」
だが当のタヒラ姉さんは、舞い上がることもなく深刻な表情を崩さずに答えた。
「あ、ああ。それは構いませんが……一体、何が?」
「申し訳ありませんが、軍機によりお話しすることはできません。イリス」
タヒラ姉さんがくいっと顔を動かしてこっちに来いアピールをしてくる。
そういえば、いつもみたくイリリって呼ばないんだな。あんな姉でも公私は使い分けるわけか。どうでもいいけど。
仕方ない。平和な学園生活に、ダラダラとした雰囲気も心地よく名残惜しいけど。
タヒラ姉さんが学校に来てまで僕を呼んだのだ。
かなりの重大事が起きたのだろうと察しが付く。それが何なのか。少し――でなくとても気になる。
「先生、では行ってきます」
「う、うむ。気をつけてな」
気を付けて、どうにかなるのか。
軍の徴発、その不穏な単語がこの後に降りかかる災難を物語っているように思えてならない。
だから僕はカーター先生に断ってから席を立ち、タヒラ姉さんの元へ向かう。
その途中、クラスメイトから受ける視線は困惑、そして羨望。ラスなんて「いいなぁ」なんて呑気につぶやいていたし、カタリアに至っては嫉妬と憎悪の混じった視線に殺意を覚えた。怖いよ。
「それでは、失礼します」
タヒラ姉さんがそうお辞儀をすると、僕の手を取り、さっさと教室から抜け出す。
思い切り引っ張られて、引きずられるように廊下を走る。
「ちょ、タヒラ姉さん! 痛いから!」
「ああ、ごめん。でも時間がないから」
いつもなら、なんかその後にふざけてくるタヒラ姉さんだが、今日はそれがなし。
つまりそれほどの緊急事態ということか。でもそれになんで僕が?
「時間って……」
するとタヒラ姉さんほ速度を少し落としながら、周囲をうかがって誰もいないことを確認して、僕に耳打ちしてきた。
「ザウスが攻めてくる」
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