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第28話 姉妹のこと

「まったく、お姉さまの意地悪は悪趣味すぎです」


 ぷんぷんと怒りながらコップを飲み干すカタリアに、クラーレは瓶を片手にからから笑う。

 もちろん中身は両方とも水。陣中での酒は規律を乱すから、少なくとも今は許されていない。一応、おつまみとして揚げたナッツが出されているが、それに手をつけているのは千代女くらいだった。


「まーまー、いーじゃない。実はこれね、少しだけ本当なのよ。2か月前に目の上を斬られてね。ああ、その斬った奴は串刺しにして生きてることを後悔させてやったけど。ああ、そうそう。それで血が止まるまでアイパッチしようってことになったんだけど。その格好だとなんか兵がよく動くのよね。やっぱわたしの前の雰囲気良くなかったかなぁ。ま、そういうわけでたまにこうやってアイパッチして指揮取ってたんだけど。せっかくだし、カタリアちゃんもイリスちゃんも知らないから脅かそうと思ったのよ」


「ふん! そんなことで喜ぶなんて、おふざけが過ぎますわ」


「あはは、まぁいいじゃない。こういうとこいると、色々溜まっちゃってさ。で? 大変なんだって?」


「そうなんです! お父様が、お父様が……」


 そうしてカタリアは語り始める。父親との方針の齟齬。そして決別。そして本題とばかりに父親に近づく謎の女。それを5倍くらい過大に、2倍くらい虚飾を交えて話すカタリア。

 それをふんふん、と興味深そうに見えてまったく聞き流している風のクラーレ。


 ようやくカタリアが語り終わったのは、それから20分近く経ってから。


「へぇー、そうなってんの。大変ねぇ」


「お姉さま、少し無頓着すぎませんか」


「まー、わたしも半分勘当されているようなものだからね。だからこそ、こんな辺境に独りおっぽり出されてるし。うーん。あるいは側室ってことにして、男子を産もうとしてるのかしら?」


「なんですって!? わたくしというものがありながら……」


「一応、長女なんだけど、わたしの方が」


「失礼ですけど、お姉さまはそういった方面には疎いと思っておりました」


「ま、確かにそっちには全く興味ないからねー。後方でえっちらおっちらしてるより、こうやって前に出て敵をぶっ殺してた方が好き」


 とんだサイコキラーだな。敵になった方はかわいそうに。


「なるほどね。だから父さんに逆らって、逃げ出したガールズ集団ということなわけね」


「そんな端的にまとめないでください! わたくしたちはイース国のことを思って、そしてラスに帝位を好きにさせないために立ち上がった義軍! つまり義挙なのです! だからわたくしたちは――」


「あ、そんな感じでいいです」


 カタリアがうるさいので、適当に頷いておいた。間違ってないしね。


「そんなわけなんで、ちょっと助けてほしいというか」


 せっかくなのでそのまま説明に入る。完全にかくまうというところまで行くと、クラーレの立場もあるので無理だろうと思ってるので、数日ここに置いてほしいというもの。

 その間にトンカイ国への渡りをつけて、ゴサ国へと出発しようと考えている。


 そのことを話すとクラーレはうんうんと頷いた。


「じゃ、とりあえず疲れたでしょ。ゆっくりしていってー」


 そう言ってパチンと指を鳴らすクラーレ。

 それからはあっという間だった。入口の幕が開いてどかどかと数十人の兵が入って来たかと思いきや、別の入り口もあったのか、そこからも大量の兵が陣幕の中に入ってくる。それらは大きく展開して僕らを取り囲むようにしている。その誰もが、むき出しの剣を所持しており、こちらが動くより先に相手の剣が来るようになっている。


「なんの真似、ですの?」


 カタリアがすごい目つきでクラーレを睨む。あの敬愛しているという姉に対してのこととは思えなかった。


「んー、これでもわたしはイース国の将軍だからね。中央からの命令には従わなくちゃ。ね?」


 くっ……読み違えた。

 クラーレの性格とカタリアの情。その両方を攻めれば見逃してくれるはず。そう思ったのが外れた。


「というわけで、わずか数日の家出はおしまい。楽しかった? ダメよ、大人を困らせちゃ」


 どうする。どうするどうする。

 ここで暴れるのは簡単だ。僕と千代女、それに繫長がいれば勝てない状況じゃない。けど相手は味方だし、何よりこの囲まれた状況だとカタリアやムサシ生徒会長たちを守れる自信がない。最悪、人質に取られたらそれで抵抗できなくなる。

 千代女がちらちらと視線を送ってくる。彼女の分身のスキルで先手を打つかと聞いてきているのだ。それでも迷う。それをしてしまったら、本当に二度とイース国に戻れなくなる。功績を立てたとかそういうのも無意味。

 だってその時は、ここにいる兵か僕らのうち誰かが命を落とすことになる。そうなってしまえば、いくら功績をあげても遺族がなっとくしない。どれだけ優れた将であっても、味方に嫌われたら勝てるものもなくなる。だからイース国に戻らない決意があるならここで戦うべきだ。

 それでも迷うのは、僕が僕であるのはイース国にいるからであって、家族のこと、そしてラスのこと。それらがあってこそ僕はこの世界で生きて来れたわけであって。


 だから――


 千代女に向けて小さく首を振った。


 もうどうしようもない。僕らの旅はこれで終わりだ。ゴサ国へのおつかいもできず、ラスにはとても迷惑がかかることになるけど、どれもこれも僕の見通しが甘かった。インジュインパパに対する力不足だ。


「さぁ、というわけでみんな観念して――」


 クラーレの言葉に覚悟を決め、


「酒盛りをしよう!!」


「は?」


 一気に拍子抜けした。

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