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第43話 激動のプロローグ

 カタリアとやりあって、ラスと友達になって、カーター先生から告白された日から、僕の周りに変化が起きた。


 正直、その当初はあまり実感はなかった。

 論陣やらプロポーズやらで消耗しきった僕は、午後の授業もほぼ虚ろ。

 帰った後も、家族は出かけていた(まぁ仕事だし忙しいのだろう)から部屋に引きこもって、今日の振り返りをしているうちに、夕食の時間になってお風呂に入って寝てしまった。


 だがその翌日。

 あまり行きたくなかったが、それでも知り合ったばかりのラスやカーター先生のこと、それからこの世界を理解するのに学校という組織はうってつけだということを考えると、仕方なく登校した。

 学校に行かなかった場合、やることが全く思いつかずに暇すぎるというのもあった。


 変化は登校の時から起きた。

 今日も今日とて、馬車に揺られての登校だ。


 そして校門を通った時に感じた敵意。

 その数がなんとなく減っている気がした。

 もちろん数えたわけでもなんでもないけど、スキル『軍神』を得てから、なんとなくの勘がよく効くようになった気がするから、勘違いではないだろう。


 教室に入っても同じで、まだ完全になくなってはいないけど、あからさまに敵意の視線を向けてくる人はいなくなった気がして、少し過ごしやすくなった気分だ。


「おはよう、イリスちゃん」


「あ、お、お、おはよう。ラス」


 これが一番の変化かもしれないが。

 ラスの存在によって、それ以外のクラスメイトの視線があまり気にならなくなったから、かもしれない。


 そしてもう1つ。


「来ましたわね、イリス・グーシィン!」


 おそらくというか、あるいはというか、この人物が変化の中心にいるんじゃないか。

 カタリアが険しい瞳を怒らせて、僕の席の横に立ちふさがる。両脇にはツインテールの少女と青髪の少女が控えている。水戸黄門みたいだなっと思った。

 これまた朝っぱらからハードなエンカウントだ。


「ひっ」


 っと、隣にいたラスが小さく悲鳴をあげて僕の背中に隠れる。

 まぁ昨日の今日だからなぁ。カタリアを裏切った形のラスにとっては酷だろう。


 カタリアの方もラスをキッと睨みつけると、


「わたくしがお化けか何かに見えて!?」


「それより怖いんじゃない?」


「なんですって?」


 変にちゃちゃを入れたせいで、油を注いでしまったようだ。やれやれ。


「で、何か用?」


「何か用? それはこっちのセリフですわ!」


「いや、そっちから来たんだろうに」


「…………え、ええ。そうとも言いますわね」


 なんだ、今日のカタリア――といっても1日しか知らないわけだけど。

 それでも昨日と比べてどこか挙動不審な感じがする。あるいはこれが地なのか。


 両脇の2人、もといクラス中が今や固唾をのんでカタリアの次の言葉を待っている。

 ようやく意を決したのかカタリアは口を開き、


「昨日の件ですわ!」


 あぁ、やっぱりその件か。

 公衆の面前で論破されたんだから、まぁ恨んでるよな。

 その後になんとか話そうと思ったけど、結局逃げられたし。


 正直、今のこの国の状況を見ると、僕が来年まで生き延びられる可能性は限りなくゼロに近い。

 周囲を囲まれ、耕地も狭く、優秀な人材も多くない。

 何より国のトップを補佐するナンバーツー――要はイリスの父親とカタリアの父親――が決定的に仲が悪いのが問題だ。仲が悪くてもそれぞれが勝手にそれぞれの分野を極めてればいいものを、足の引っ張り合いをしているのだ。

 そしてまだ会っていないが、この国のトップの太守はことなかれ主義で暗愚と聞く。


 こんなのゲームだったら、開始早々NPCに真っ先に攻め滅ばされる国だ。


 だからせめて。僕ができることを考えた時に、カタリアと同じクラスだというのは一筋の光明だった。

 彼女と仲良くなれば、その父親同士の橋渡しを行い、最低限、国の上層部がまとまるという状態が作れるんじゃないかと思ったからだ。


 けどまさか最初から仲たがいしていて、それを一時の感情とはいえ、自分の学園生活の向上のために決定的な対立を初日から作ってしまうとは……。はぁ、頭が痛い。


 だからなんとか昨日のことは水に流して、交流を深めたいと思うんだけど……無理そうだな。昨日も助けたのに怒られるし。

 そもそも何を話したらいいか分からないし。こういう時、どういう顔をすればいいのか分からないんだ。


「で? 昨日のって?」


 とりあえず話の続きを振る。

 正直、朝は苦手でやる気も起きない。できれば穏便に済ませたかった。


「それは……」


 カタリアは何か口ごもり、それを口にしようとして、だけど口を閉じて、それでも口をもぞもぞと動かして、まぁ挙動不審ここに極まれりだった。何やってんだ、こいつ。


 その想いが視線となって伝わったのか、不愉快そうな表情を浮かべたカタリアは、


「貴女の口八丁のでまかせに迷惑してるんですの! 取り消しを要求します!」


「でまかせって……?」


「わたくしが貴女を嵌めようとした、ということです!」


「いや、事実でしょ」


「事実無根です! なんでわたくしが貴女ごときを気にしなくちゃいけないんですの!?」


「いや、めっちゃ気にしてたじゃん」


「違います! ただ目障りだから消えてほしいと思ってただけです!」


「ひでぇ……」


 なんでそこまで言われなくちゃいけないのか。

 本当に、イリスってどういう子だったんだ。


「とにかく! 変な噂を立てられてわたくしは迷惑しているんです! 以後、気をつけなさい!」


 言うが早いが、カタリアは踵を返してそのまま自分の席に向かってしまった。


 いや、気をつけろって言われても……何を?

 本当に意味が分からない。


「カタリア様。お礼を言うんじゃ……」


「そんなわけありません!」


 去っていくカタリアに、何やらツインテールの方が小声で聞いたのが聞こえた。

 けどお礼? 何のだろう?

 ま、いっか。よくないけど。朝っぱらから疲労困憊になる前に終わってよかった。


 というわけで、僕の異世界学園生活はこうして始まったわけだけど。

 最初から荒波にもまれ、七転八倒のめちゃくちゃな始まりだったわけだけど。


 それでもここまではまだ平和な部類だった。

 本当の激動はこの後に来る。


 1つはその週末の土曜日。ラスとの帰り道に起こったこと。

 そしてもう1つはその翌週。月曜日から国家を揺るがしかねない大事件が起きる。

 これで僕は、この世界というものを改めて知ることになる。


 切野蓮の残り寿命352日。

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