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第123話 これから

 高師直の軍が合流して数日。

 その間、何もなかったかというと……まぁ、何もなかった。少なくとも僕らは。


 というのも、復帰した岳飛を大将軍として、副官に土方歳三、そしてツァン国の高師直と高杉晋作を中心に今後の対策を練っていたからだ。

 僕らは所詮は他国の留学生。いくら一軍の指揮官に任命されたとはいえ、あれも非常事態ゆえのこと。人心地ついたところでは、あとは大人のお話ということだ。

 これまで子供ながらに死地にて頑張ってくれた僕らへの休息の褒美と見れなくもないけど、ま、そこらはあまり考えないようにしておこう。無理に政治ゲームに巻き込まれる必要はない。


 というわけで、僕らとしては暇になり、かといってただ食っちゃ寝の毎日を過ごすのも決まりが悪いということで、ある夜にカーター先生が皆を集めて言った。


「我々としては、皇帝陛下のために存分に働いた。とはいえこれ以上ここにいても我々に出来ることは少ない。というわけでそろそろイース国に帰ろうと思う」


 なんて、何もしてなかったカーター先生が言ってたけど、まぁその通りだとは思う。

 暦的こよみてきにはもう3月も終わり、明日からは4月に入る。そもそも2か月で戻るという予定だったわけだから、2月の出発を考えると帰国するのは時期的にも適っているわけだ。


「そうですね。特にイリスくんにカタリアくん。そしてラスくんの活躍は目覚ましいものだった。私は生徒会長として、君たちのような優秀な後輩をもって誇りに思う! だから是非に次期生徒会長の座を君たちの――」


「あのー、これからってどうなるんすか? 政治情勢っていうか、イース国(うち)的に」


 ムサシ生徒会長の言を遮って質問したのはサンだった。あまりそういった政治情勢とか興味なさそうな彼女がそういった質問をするのに、僕だけでなくカタリアやユーンも驚いた様子だ。

 さすがにゼドラ国の侵攻と帝都陥落を間近で体験することになれば、興味のない人間もそう思ってしまうのは仕方のないことなのだろう。


「うん、いい質問だ。満点をあげよう。ただそれを決めるのは我々ではない。まずは起きたこと、体験したことをあまさず国に持ち帰って報告し、それをもって太守様をはじめとする国の代表に決めてもらう」


「つまり、わたくしのお父様の出番ということですわね!!」


 カタリアが自信満々に胸を張って言う。そうなんだけど、もうちょっと自粛できないか。うちの兄さんもいるし。別にお前自身が偉いわけじゃない……んだけど、今回のこいつも大活躍だったからなぁ。うぅむ。


「そういうことだ。まぁ国論としてどうなるかは分からないけどな。第一、我が国は帝都ともゼドラ国とも接していない。ツァン国は一応隣国だが陸では接していないから、軍勢を送るのも難しいし、勝ったところで得るものが少ないと見るかもしれないな」


「そっか。じゃあ、あいつらとまたやるわけじゃないのか」


 サンが残念そうにつぶやく。

 そしてそのままカタリアに向き直り、


「お嬢、できれば部隊の派遣を父君様に頼めないかな? あのアイリーンの三馬鹿、こっちが借り返してねーのに、かってにくたばっちまってさ。なんかムカつくから、せめてその仇討ちくらいはしてやりてーよな」


「サン……あなた」


 珍しくしおらしいサンに、カタリアが息を呑む。

 ユーンやムサシ生徒会長も感じ入ったのか、すでに少し涙目だ。


 その中で僕は1人、少し冷めた視線で見ていた。


 いや、冷めていたのとは少し違う。

 怖いのだ。


 こうやっていとも簡単に戦うとかそういう話になるのが怖く思えてならない。


 現代に合わせて言えば、留学先で戦争が起こったからそこに自衛隊を派遣してほしいって言っているようなもの。そんなことをしたら世論をぶっ壊すほどの大混乱になるだろうし、それをキッカケに世界大戦に発展しかねない。


 それほど恐ろしい判断なのに、今の彼女たちはそれもやむなしと考えている。

 世界の価値観の違いと言ってしまえばそうなんだけど、なんとも言えない恐怖感というのが僕の中に渦巻いているのは確かだ。


 そう思いながら見ていると、みんなとの会話の中でまた1人。まだ一言も発していない人物がいることに気づく。


 ラスだ。

 彼女は何か思い詰めたようにジッと下を向き、口を固く結んでいる。


 どうしたんだろう。

 そう思い、彼女に話しかけようとした時だ。


「イリス! あなた、聞いたましたの!?」


「え?」


 ハッと顔を上げれば、みんなの視線が僕に集中する。

 何やら議論が進んでいたみたいだけど、ラスに気を取られてまったく聞いてなかった。


「えっと、なんだっけ?」


「まったく。ほんと、こういう時はぼぅっとして。本当に緊張感がないというか、自覚がないというか」


「帰路をどうするか、という話ですよイリスさん。海路にするか、陸路にするかっていう」


 ユーンの捕捉にああと頷く。話はもうそこまで進んでいたようだ。

 といってもこれはほぼ一択じゃないか。陸路は、去年戦ったデュエン国を通ることになる。前に本国からの手紙で知ったけど、南のトンカイとイース国とで順調に進行しているという話らしいから、通行ができないというわけじゃないけど圧倒的に危険だ。下手すれば戦場のど真ん中を通るなんてこともあるだろう。


 それに反して海路は安全で早い。

 けど、どうしても頭に浮かぶのは梁山泊の連中。河をいけば、まったく逃げ場のないところなわけで、こっちもこっちで危険がある。それにツァン国を西から東へと横断しないといけない。高杉さんに頼んで通行証をもらえれば問題はないけど、陸路をいく場合より少し時間はかかってしまう。


 まぁそれを考えても海路の方が断然良いわけなんだけど。

 なんせこっちにはあの頭領(本人は否定しているが)の林冲がいるわけだし。


 というわけで帰路についても、あっさり解決。

 そんな時だ。


「あの!」


 と、ラスが満を持して口を開いたと同時、部屋の扉をノックする音。


「あー、ちょっといいか?」


「土方さん!」


 入って来たのは土方さん、そして岳飛将軍だ。

 ずっと会議室に籠って軍議のはずだったのに。それとも結論が出たのか。

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