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第115話 合流、そして

 カタリアの軍は、寡兵にもかかわらずかなり粘っていた。


 対する敵は2方向から攻撃を加えていたけど、守りに徹したカタリアたちを崩すには至らず、皇帝と僕らの部隊が合流したことと、呂布の軍が一時立て直しをしているのを見て退いた。

 僕らとしてはその部隊を排除しないと逃げられないわけで、誰が率いているのか知らないけど、本当に嫌らしい用兵をする相手だ。


 そして目覚めたラスとの再会を祝うまもなく、僕としてはげんなりする時間が訪れた。


「イリス、遅いですわ!」


「遅いって……これでも大変だったんだからな」


 すでに陽は傾いていて僕の制限時間も近い。

 焦りがカタリアへの反発になる。


「おぅおぅ、んだてめぇ。かたりあの姉御に何ナマ言ってんだ、あぁ!?」


 と、突然僕とカタリアの間に入った男がめっちゃメンチ切ってきた。

 男らしい髭をたくわえたいかつい雰囲気のヤンキー風の30代の男。てかなに? カタリアの姉御って……。


「ホンジョー! 邪魔よ、あなたはすっこんでなさい」


「おおぅ、さすが姉御だ。上杉の姐さんとはまた違った、バッサリ来るのがいいぜぇ」


 あ、変態だ。結局この人もただの変態か。


 ……って待て。ホンジョー? そして上杉って……まさか!?


「本庄!? えっと……繁長だっけか!? 上杉家の!?」


「あ? んだ? 俺を知ってんのか? てかいきなり呼び捨てか、こら!?」


 うぅ、怖い。けどこいつ、カタリアにあんな言われて恍惚としてた変態だよなぁ。なにこの二面性。


 本庄繁長。

 戦国時代の上杉謙信に仕えた猛将だ。

 ただ普通の猛将と違って、信玄とか信長にそそのかされて上杉謙信に何度か謀反を起こし、そのたびに許されて帰参したとかなんとかな人だった……はず。

 申し訳ないけど、あまり印象的な活躍した人じゃないんだよなぁ。ゲームで武力は強いからよく使ってたけど。てか上杉家なら柿崎、宇佐美、直江、斎藤あたりが欲しかったなぁ。なんて。


 けどその武威はかなりのものだった。

 というのも、二手に分かれた敵の一手を、ほぼこの本庄繁長1人で防いでいたというのだから。分かれたといっても1千近くいる敵を防ぐとか、化け物か。いや、スキルのおかげなのか。


「いりすは色々な人を知ってるのだな。これもまた、魂の共鳴による宿業ということか」


 琴さんが感心したように、また意味の分からないことを言いだしたけど、まぁ未来の知識とは言えないからな。


 ただ、その琴さんも驚くようなとんでもない人物の情報が出てきた。


「ああ、相手の指揮官は巴御前だぜ」


「は!?」


「そ、それは偽りの仮面をかぶった愚者の言葉ではないのか?」


「あ? ちげーよ。だって本人が言ってたからな」


「…………」


 琴さんが絶句していた。

 何かあったのだろうか、と思い聞いてみると、


「中沢家はもとは真田家に仕えていた家系なんだ。真田家、つまり信濃の松代藩さ。そして信濃と言えば木曾、木曾といえば巴御前だろう。ボクも昔は巴御前の転生した魂を感じていたからな。他人事ではないんだよ」


 なるほどなぁ……よくわからないけど、憧れの人だったってことなのかな。


 てか巴御前かよ。

 木曾義仲の妻(妾?)でありながら猛将でもある女性だ。その武勇は素手で人の首をねじ切るほどだというけど。


 呂布に項羽、源為朝に巴御前とか……脳筋――いや、武勇に優れた猛将ばかり。さらにそこに白起が指揮を取ればもう。立地もあってマジで天下とれるぞ、ゼドラ国は。

 はぁ……最初にそこに行っておけばこんな苦労は……でも、そうじゃなかったらみんなと出会えなかったわけだし、ラスたちと敵対すると考えるとゾッとする。


「それよりイリス。どうする」


 土方さんが真面目な顔でそう言った。


 どうするかとは、もちろんこの状況だ。


 どうするかも何も、このまま逃げ切るしかないわけだけど、そのためには障害がまだまだたくさんある。だから一度状況を整理してみよう。


 今ここにアカシャ帝国皇帝がいて、それを警護するための軍が約3千。指揮はカタリアが取ってるけど、総指揮官としては土方さんが担っている。あと南門の方に負傷したジャンヌが1万以上の帝都民をまとめているはずだ。

 対するゼドラ軍は、巴御前が率いる2千ほどが僕らの北にいて、僕らの退路を断とうとしている。そして南西方向からは呂布の軍が後続と合流して5千弱、さらに帝都の方では白起が1万もの兵を率いているという。


 ここから南門のジャンヌと、帝都内の白起らは除外していい。


 そうなると、僕ら3千に対しゼドラ軍7千という数字が出てくる。


 数にして2倍以上。しかも挟撃を受ける位置にいる。圧倒的不利だ。


 それを覆すとしたらイレギュラーの存在だろう。彼らの持つスキルは一気に盤面を動かすことができるはずだ。

 そのイレギュラーの味方としては、


 土方歳三。疲労。スキルは幻影を相手に見せる。

 中沢琴。元気。スキルは風を引き起こす。

 風魔小太郎。帝都を偵察中。スキルは巨大化する。

 林冲。疲労。スキルは城門をも破壊する槍の一撃を放つ。

 本庄繫長。元気。スキルは巨大な盾を召還する。


 対するゼドラ軍は、

 呂布。負傷。スキルは不明。

 源為朝。負傷。スキルは不明だが、城門を破った力からして弓矢系の何かか。

 巴御前。元気。スキルは不明。

 項羽。負傷。スキルは地面をえぐってぶん投げるというものから、何かしらの自身強化ということか。

 白起。元気。スキルは白起に対して何かしようとすることを無効化するとかなんとか。滅茶苦茶強いけど大軍での戦いにはそこまで影響ないような気もするけどどうだろうか。


 ただし項羽と白起は帝都の西で中門の崩落から逃れて部隊を再編しているだろうから、すぐにはここには来られない。


 この場にいるイレギュラーの数はこちらが上、ただやっぱり呂布と為朝というゼドラの武神級2人が輝いて見える。

 その2人とも負傷しているが、そんなもの屁ともしないような気もする。


 最後に勝利条件と敗北条件を確認しておこう。


 僕らの勝利条件は当然のことながら、生きてこの場から逃げること。逃げる方向は東のツァン国。

 敗北条件は皇帝を捕縛、あるいは殺されること。


 ゼドラ軍としてはその逆だ。


 いや、ちょっと違うか。

 僕らの敗北条件は皇帝の無事に加え、イース国みんなの無事だ。


 ここまでやってきて、ここまで一緒に頑張ってきて。こんなところで果てるなんてあっちゃいけない。全員一緒に無事に帰る。それまでが遠足ってもんだ。


 もちろん、このことは僕の胸の中だけにしまっておくことだから特段言わなかった。けど、きっとみんなの胸の中にも同じ思いがあるんだと思う。

 アイリーンの取り巻き2人の死を見て、その思いを新たにしていた。

 そのアイリーンは気丈にも、もう涙は見せずに皇帝の傍で控えている。マシューは応急手当はしたものの、予断を許さない状況だ。


 そんな極限な状況。

 さてさて、どう手を打つべきか。

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