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第95話 イリスVS呂布 決着

 武器破壊。


 それによって命は助かった。けどこれは僕に圧倒的な不利を招く。


 1つは武器の強弱。

 いくら鉄の塊で強力な鉄棒だが、呂布の一撃を受ければたやすく両断される。つまり刃を受けることは不可能だと実証されたということ。


 そしてもう1つ。致命的なリーチ。

 これまでは僕の身長より長いこの武器で方天画戟のリーチと力に対抗してきた。それが短くなったということは、より懐に入らないと方天画戟を止められないということ。これまでがギリギリのところでなんとか止めていたのに、さらに一歩踏み込まないといけないとなれば間に合わない。つまり、次は受けることはできないということ。


 今までなんとか食いついていたギリギリの均衡が、たった数十センチ失っただけで圧倒的な敗北へと転落していく。

 そしてそれは僕の死に直結するのだ。


「もう終わりか。呆気ないな」


 呂布がつまらなそうに鼻を鳴らす。


「なんの。これくらいのが使い慣れてるんでね」


 カラ元気だ。けどそうでもしないとこんなところに立っていられない。相対していられない。

 今すぐにでも涙を流して命乞いをするか逃げ出すかしたい。けどそんなことをすれば、怒り狂った呂布に確実に殺されるだろうし、万が一そこから逃れても、この周囲に展開するゼドラ兵に突き殺されることは目に見えている。


 だから戦うしかない。たとえその先にあるのが完全な死だとしても。


 そう思わないと気が狂いそうだった。


「そうでなくては!」


 呂布が来る。

 凶悪な笑みを浮かべて。圧倒的な死を振りまいて。


 どうする。武器は壊され、逃げ場もない。抵抗に意味はなく、逃走は無意味。あるのはただ悄然と首を刎ねられるのを待つのみ。まさに罪人の心地。


 もういいか。頑張った。僕は。

 けど僕の死では終わらない。だからせめて、傷でもつけてから死のう。この鉄棒でも渾身の力で投げれば、呂布に傷1つくらいは負わせることができるだろう。

 そうなれば、僕は死んでも僕の勝ちだ。ラスたちに希望は残る。


 そんな破れかぶれな、あるいは自暴自棄な考えに脳が支配されていく――その時だ。


「イリス!」


 背後から高杉さんの声。振り向けない。振り向いたら終わる。いや、終わっていいんじゃないか。最期に、ここまで尽力してくれた高杉さんに礼を言うくらいは悪くない。そんな風にぼんやり思った。

 そんな僕に構わず、高杉さんは続ける。


「狂え! 君ならできる! 結果を求めず、ただひたすらに狂いたまえ!!」


 なんつー応援だ。いや、応援なのか。


 けど、熱い。その声を受けた背が。声、いや、熱だ。高杉さんの言葉にこもる熱。それを受けた。


 意識がはっきりした。

 そして背中を押されるように、前に出た。


 気が狂いそうだ。いや、なら狂ってしまえばいい。

 遮二無二、ただひたすら敵を倒すことを願い、戦う。相手が誰かなんて関係ない。勝った負けたで何が起こるかなんて必要ない。ただただ戦え。狂ったように戦え。

 そう言われたような気がした。


 だから、


「ああああああああああっっ!!」


 叫ぶ。

 魂からの叫び。僕の命。それをすり潰して力にしようと、全てを吐き出す。


「来い!」


 僕の怒号に応えるように、呂布が初めて方天画戟を両手で持った。


「散れぃ!!」


 呂布の攻撃が来る。突きか薙ぎか。突きだ。さらに速い。回避は不可。諦めるか。否。狂え。もっと。狂ったように狂え。鉄棒。リーチは短い。でもこの距離は僕の距離だ。振った。横じゃない。下から上。それで方天画戟の穂先を下から叩く。

 いかに最強の男の最強の一撃とはいえ、不意の力には抗えない。突きという前に進むために全力を使う動きは、上下からの動きに弱いのは変わらない。だから――


「だぁぁぁぁぁ!!」


 弾いた。上に。方天画戟がずれる。

 身をかがめるだけでそれは僕の上を通過。


「なに……」


 呂布の顔に驚愕が走る。抜けた。すぐそこに無防備な呂布の体。鉄棒を動かす。回転だ。棒術の利点、それは全体が武器だということ。先も石突きもない。だからこそ、片方で払った後に、もう片方で全力の一撃が出せる。

 突きあげた棒、それを反動で回転させ、逆の方で呂布の体を狙う。


「もらった!」


「この!」


 呂布の腕が激しく動く。瞬間、


「ぐ、はっ!」


 腹部に激痛。息がつまる。

 弾かれた方天画戟を、僕と同じように回転させて石突きの方で僕の胴を叩いたのだ。僕は棒を呂布に向けて突き出していたから、カウンターになった。さらに下からの一撃は僕を馬から引きはがし、宙へと飛ばす。


 浮遊感。すぐに重力に引かれ、落下運動に入る。


「楽しませてもらったぞ、これはその礼だ」


 呂布が笑いながらも振り切った方天画戟を再び構える。その狙いは横なぎの一閃。空中にある僕は回避もできないから、防御ごと叩き斬る必殺の一撃。


 なら僕が取るべき方法は。

 思考は一瞬。防御。無意味。回避。無理。受け流し。不可能。


『いりすが呂布に傷1つ負わせれば、我々は1日、攻撃を控える』


 白起の言葉。この試合のルール。なら、取るべきは――


「くら、えっ!!」


 鉄棒を握る手に力を籠める。そこから放たれるのは渾身の一投。

 防御も回避も無理なら、攻撃しかない。それは攻撃によって相手の攻撃を止める、というものではない。相手は呂布だ。この攻撃を受けようとも僕を両断するくらいのことはする。

 けどそれでいい。それはつまり、僕を殺すなら呂布は避けない。つまりそれは傷を負わせるということ。ルール上は僕の勝ちだ。


 勝負に負けて試合に勝つ。


 それでいい。それが僕だ。

 残念だけど僕はここまで。イリスには申し訳ないけど、僕はこれが精一杯だった。


 ラス、みんな。生き残ってくれ。


 そう願いながら――次の瞬間、腹部にとてつもない痛みが走った。

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