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第94話 イリスVS呂布 戦闘開始

1話抜けていました。掲載します。

「いくぞ」


 呂布がつぶやき、そして赤兎馬を動かす。それは走る、というものではない。ただ単に散歩に出かけるような自然さで、前に出る。それが速い。スピード0の状態から一気にトップスピードへ。これが馬中の馬の赤兎馬の力か。

 同時、呂布の方天画戟が空を切る。僕の首を狙って。横なぎの一閃。


 それをぼんやり眺めている自分がいた。あまりに自然過ぎて、あまりに速すぎて、その一撃が僕の命を刈り取りに来たなんて思えない。だからそれに反応できない。こうやって何も分からないまま、首を跳ね飛ばされる。それが呂布の強さなのだろう。

 一方で、そのぼうっと眺める自分を叱咤する自分がいる。軍神の僕。迫る圧倒的な死から抗おうと必死で体を動かそうとする。


 諦観の死と激情の生。

 僕の中で渦巻く闘争は、激情の生に軍配が上がる。


 馬を動かす。前へ。一歩でも。さらに鉄棒を構え、そして両手で呂布の方天画戟に向かって叩きつける。

 金属音、いや、爆発音。それほど激しい武器同士のぶつかり合い。そして衝撃。


「ふん、やるな」


 呂布が満足そうな笑みを浮かべる。

 彼の持つ方天画戟が止まっている。方天画戟という武器は、そもそもが槍の左右に刃をつけた代物。槍の突きに加え、戟の薙ぎ払いが可能な殺傷力に特化した武器。

 その戟の部分。それがボクの首のすぐ横にあった。ごくりと唾を飲み込む。その溜飲運動で喉が裂けるのではないかと思えるほど近くだ。


 僕が棒を叩きつけたのはその戟の部分ではなく、そのすぐ下の柄の部分。戟の部分に叩きつけていたら、棒が真っ二つにされ、そのまま僕の首も真っ二つだったに違いない。さらにあと一瞬でも躊躇していれば、停止が遅れてやはり真っ二つだ。


 軍神の力をフルパワーにしてギリギリ命を繋いだ。しかもこちらは両手に対して相手は片手。押し返そうにも気を抜けば一瞬で持っていかれる。恐ろしいまでのパワーだ。


「俺の一撃を食らって生きている奴は両手で数えるほどだ。やはり俺の目に狂いはない。お前は最高だ、いりす!」


「お誉めに預かり、光栄ですよ……っと!」


 鉄棒に加える力の方向を一瞬ずらす。同時に馬を走らせ、背中を馬の背につけて寝そべるように反らす。鼻すれすれのところを方天画戟の刃が通り抜けていく。

 方天画戟の横なぎが空を切り、僕の馬は赤兎馬とすれ違う。


 一合目をなんとか切り抜けた。上体を起こしながら、馬を操り再び呂布の方へ向き直る。

 本当になんとか、という具合で今更ながらに冷や汗がどっと噴き出る。


 こんな相手に、一撃くらわすことなんてできるのか? そう思ってしまうほどに、呂布という男は強大だった。いや、分かってたはずだ。なんてったって呂布だ。人中の呂布だ。そう簡単に勝てると思ってない。初撃を乗り切れただけでも勲功ものだ。


 それにしても、と思う。

 周りを囲むゼドラの兵たちが静かすぎる。月初めに行ったツァン国でのカタリアとの模擬戦では、ツァン国の兵たちは歓声をあげて盛り上がっていたのに、ここの兵たちは黙々として僕らの一騎討ちを眺めている。

 感情があるのかと思うが、あるいはこれが白起の練兵の成果だというのか。だとしたら危険すぎる。彼らは感情なく、帝都にいる人たちを、まるで家畜を解体する屠殺場のように処理していくに違いない。

 こんな人間たちを帝都に入れてはいけない。その思いが闘志を増させる。


「ふっ!」


 呂布が来る。こちらも応戦するように馬を走らせる。

 次は受ける。そして流す。それで相手の隙を狙い――


「死ね」


 あっ。ヤバい。回避。回避!!


 鉄棒を渾身の力で叩きつけようと気張っていた身体を修正。のけぞるように、転がるようにして馬から落ちた。

 そのわずか上空を、呂布の方天画戟の槍の部分が貫いていく。


「ちっ!」


 必殺の一撃をかわされ舌打ちする呂布が遠く離れていく。


 僕は地面を転がるも、片手は手綱を掴んでいた。それに導かれるようにして立ち上がると、そのまま馬に飛び乗る。


 危なかった。というかバカかと自分を罵りたい。方天画戟は槍の両側に刃がついた形だとさっき自分で言ったじゃないか。

 それはつまり突きも武器ということ。というより本来はその使い方が正しいもの。


 それを忘れ、また横なぎで来ると思い違いした僕がバカだ。


 武器ごと薙ぎ払う刃による薙ぎ払いで来るか。それとも回避しづらい、しかも間一髪の回避だと両側の刃の餌食になる突きで来るか。

 たとえるならストレートとカーブしかないピッチャーなんだけど、その速度が半端ないから来た瞬間には見極めてバットを振らないといけない。なんて無理ゲーだ。


 それから数合。僕は全身全霊を受けに徹して、呂布からの攻撃を受けることになる。

 最初の見定めと防御に徹することで、相手の攻撃をしのぐことはできた。


 だがそれは未来のない消極策。一度でも読み違えればその瞬間ゲームオーバーなじり貧地獄。


 そしてその時が来る。


 来る。突き、いや、薙ぎだ!

 棒。振る。遅い。いや、速い! ここで呂布がギアを1つ上げた。


 激突する。方天画戟の刃の部分。互角。いや、刃が鉄に食い込む。そして――


「貧弱ぅ!!」


「しまっ!」


 金属音が響く。それは冷たく、僕の行く末を占うかのように不吉な音。


 僕の武器である鉄棒。石突きから3分の1ほどいった当たり、刃のぶつかった部分から真っ二つに切断されていた。

 ただ赤煌しゃっこうと違い、長さと太さに勝っていたのが僕の命を救ったと言ってもいい。ほんの1秒か2秒か。武器が両断されるのに時間がかかっていた。それが活きた。その数秒の間に僕の馬が走った距離の分、刃が届く位置がずれたのだ。


「イリス!」


 高杉さんの声。


 心配というより、悲痛に満ちたその叫びにあるのは、この勝負の行く末をしったからだろう。

 それは僕が何より感じている。呂布との一騎討ち。その果てにある結末。


 この勝負――僕の、敗けだ。

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