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第93話 イリスVS呂布 覚悟

「なぁイリス。本気でやるつもりかい?」


 外だ。

 並べられた武器を眺めていると高杉さんが近づいて話しかけてくる。


「まぁ成り行き上ね」


「しかし君も見ただろう? あの呂布のデタラメな強さを。正直、あまり彼を知らないんだが、あの男を間近で見て、そして僕の奇兵隊を薙ぎ払った技を見て――いや、見えなかったんだが、とんでもない化け物だと思った。あんなの、京にも江戸にもいなかった。それと殺し合いだなんて」


「殺し合いじゃないよ、ただの試合」


「実質殺し合いみたいなものだろう? ここに並べられた武器を見ろよ。調練用のものなんて1つもない。確実に相手を殺すための武器ばかりじゃないか。あっちはあのバカでかい槍みたいな武器だし。怖くないのか?」


「……うん、そうだね。怖いよ」


 なんてったって相手は呂布だ。三国志最強の男だ。劉備、関羽、張飛の3人がかりでも倒せなかった男。名だたる武将を、これもまた三国志最強の馬・赤兎馬と共に薙ぎ払ってきた。

 その力の一端は、さっき高杉さんの奇兵隊を目にもとまらぬ神速の武技で薙ぎ払ったことでも分かる。


 そんな相手と1対1で命のやり取りをするなんて、命を投げ出しているのと変わりはしない。


 でも――


「怖いけど。そもそも高杉さんには関係ないことだったんだ。けど高杉さんは命を賭けて約束を果たしてくれた。なら、あとは僕の番だ。結果はもう見えている。けど、まずやる。それから決める。僕はいまここで死ぬかもしれないけど、皆が死んでいくのを見てから死ぬよりは断然いい」


「イリス……君は……」


 高杉さんはわなわなと震えたかと思ったら、


「なんて素敵なんだ! その年で松陰先生の行動を体現しているとは! ああ、それこそまさに『狂』! その精神こそ愛おし――ぐほっ!」


 急に抱き着かれた。高杉さんなりの感激の表し方だとは思ったけど、今の僕はイリスの体。というか反射的に肘打ちが高杉さんのボディに入った。あー、びっくりした。


「そういうお触り厳禁!」


「ふっ……よいボディだ……がくっ」


 腹を抱えて悶絶する高杉さんは放っておいて、さて、いよいよ気を引き締めようか。

 武器を眺めているものの、ぶっちゃけどれでもいい。いや、どれもよくない。そもそも僕に呂布を殺せるなんて思ってない。それに使い慣れない武器で勝とうだなんて無茶もない。アイリーンの仇討ちの言葉が脳裏に浮かぶけど、それは仕方ないこと。

 死んでもいいという気持ちではあるけど、死ぬつもりはないのだ。


 ただ1つだけ。

 並んだ武器の中で、1つ刃を有していないものがあった。それは2メートルほどの銀色に輝く金属製の棒。僕が使ってきた“赤煌しゃっこう”よりかなり長くて太い。けど軍神のスキルなら操れないことはない。それにこれくらいでないと、あの呂布の方天画戟に対抗できない。


 僕はその銀の棒を手にして、兵たちが囲む広場の中心。呂布と白起が待つ場所へと向かう。


「やっとか。待ちわびたぞ」


 呂布が赤兎馬にまたがって腕組みをした状態で言う。

 その姿。まさに鬼神のごときいで立ちに思える。呂布の圧もすごいけど、彼の乗る馬――おそらくこれが赤兎馬なのだろう――の圧もすさまじい。僕の身長より高いだけでなく、全体的な大きさと筋肉の量が半端ない。まさに馬の化け物、いや、王だ。

 僕にスキルがなかったら、それこそ目の前に出ただけでへたり込んで命乞いしたくなるほどに凶悪な雰囲気を醸し出している。


「その武器でよいのか?」


 僕と呂布の間に立った白起が、僕の得物をちらと見て無関心そうに問う。


「はい」


「ならばよし。それではもう一度確認する。賭ける物は時間。いりすが呂布に傷1つ負わせれば、我々は1日、攻撃を控える。呂布が勝てば、お前たち2人の首を掲げて即座に攻撃に移る。それで良いな?」


「はい」


「ああ」


 勝てば僅かな希望、敗ければ確実な死。

 ハイリスクローリターンなギャンブルだけど、今はこれしか手はない。今、1日という時間は、ダイヤモンドよりも貴重だ。


「いい覚悟だ、いりす。この国の男どもは誰もが貧弱で脆すぎる。俺の相手になるのは、項羽と為朝くらいだがあいつらは今は味方。俺の武の渇きを満たす男は現れないと思ったが……女のお前が現れた」


「渇いてくれたままでいいのに」


「そうはいかん。貂蝉ちょうせんも大事だが、やはり俺には戦場だ。そして敵だ。血が高ぶるいくさ、見せてくれ」


「ま、死なない程度に頑張るよ」


 口で言いながら、心ではぶるぶると震えている。そう思ったけど不思議と心は平静だ。

 開き直ったか、あるいは呂布の圧倒的な武の気配に、抗うことを諦めてしまったのか。どっちでもいい。生か死か。それは戦いの果てにある。


 僕は乗って来た馬に乗ると、棒を携えて呂布に向き直る。


「よろしい。では時間無制限1本勝負。はじめ」


 何の高揚もない、淡々とした白起の合図で、戦いの幕が切って落とされた。

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