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挿話8 ラス・ハロール(ソフォス学園1年)

 夜。

 誰もが寝静まった中、わたしは部屋を出て廊下を歩く。


 そしてお目当ての部屋の前に立つと、辺りをうかがう。大丈夫。誰もいない。

 そっと扉に手をかける。開かない。ドアには鍵がかかっている。当然だよね。私は胸ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に刺して回した。ガチャ。開いた。


 鍵はホーシャンさんにイリスちゃんの看病するといって無理言って借りた。

 ここまではびっくりするくらい上手くいっている。これも天がわたしにやっちゃえと言ってるってことね。


「イリスちゃーん、いますかー、いますよねー、知ってまーーす」


 できるだけ音を立てないよう、ドアを開けて中に入る。

 中は真っ暗。灯りは窓から差し込む月明りだけ。


 その灯りを頼りに、すり足で進む。万が一、ものが増えていて足にひっかけてしまうと事が事だから。


 イリスちゃんの部屋……。


「すぅぅぅぅ」


 鼻いっぱいに空気を吸い込む。

 あぁ。イリスちゃんのにほひ。


 ここ数日。カタリアちゃんに連れられて街に出かけていたからこの成分に飢えていたのは確か。

 カタリアちゃんたちと一緒に遊ぶのは面白いんだけど、やっぱり1日1イリスちゃんはしないと体はともかく心が持たない。3日もすれば、体もおかしくなってくる。


 だからこれはわたしの心身を正常にするために必要なこと。お薬と同じ。だから仕方ないもんね。


 部屋の中。

 ベッドには布団が敷かれて、人型に膨らんでいる。ターゲット、ロックオン。


 心配で来てみたけど、足がもつれちゃって倒れ込んじゃいましたー。

 うん。よし、これだ。


 それで傷を心配しながらいちゃいちゃして、これまでの悶々とした気分をぱぁーっと晴らしてもらおう。


 あと3歩。

 そこにイリスちゃんがいる。お布団をかぶって縮こまって可愛い。

 あと2歩。

 もうすぐそこ。はぁ、この気持ち。抑えられない。はぁ……。

 あと1歩。


「はぁ……はぁ……イリスちゃん、いただきまーす!!」


 思いっきりベッドにダイブ。

 おっと、台本と違うことになっちゃった。けどまぁいいよね。既成事実既成事実。


「あ、ごめんね! 大丈夫!?」


 さて、お布団を剥がして、ご対面っと。


「やぁ、これは乱暴なことをする子猫ちゃんだ。ただその積極さ、嫌いじゃないな」


 あれ? 声が違う。体つきも違う。なにより匂いも違う!

 まさか、この声……。


「し、師匠!?」


 まさかのムサシ生徒会長だった。でもなんでこんなところに!?


「やぁ、君だったかラスくん。ふっ、まったく奇遇なところで出会うものだ」


 奇遇? 奇遇ってどういう意味だっけ?

 少なくとも深夜、誰もいないイリスちゃんの部屋で使うような言葉じゃないと思う。


「まったく、ダメですよ師匠。人の部屋に勝手に入っちゃ」


「ふむ、それはラスくんも同じではないのかな?」


「違います。わたしはちゃんと鍵を使って入りましたから」


「なるほど。それは一本取られたな、ははは」


「うふふ、そうですね。では出て行ってくれませんか? わたし、これから大事な大事な用事があるので」


「それは残念だ。私も大事なミッションがあってね」


 師匠とにらみ合う。お互いに退けない。


 その時だ。


 ガチャ。


 ドアが開いた。


 え? なんで? 誰が? ここの鍵は、私が持ってるのに?


「ラス、何やってんの?」


 イリスちゃんが、いた。

 イリスちゃんの手にあるランタンの灯りが部屋を照らす。ぼぅっと浮かび上がるイリスちゃんの姿。なんとも幻想的で蠱惑こわく的で――


「ああ、もう好き! でもあれ? なんで? イリスちゃんが?」


「いや、夜にリハビリ兼ねて琴さんと組み手を……って、ラスだけじゃなく生徒会長!?」


「ふっ、バレてしまったか! 帰って来たイリスくんを私が全力で癒してあげようとスタンバっていたんだよ」


「あー、ずるい師匠! わたしもそっちにすればよかった!!」


「まだまだ甘いな、ラスくん。しかし、こうなってしまってはどうだい。私と君とイリスくん3人で朝まで楽しもうじゃないか」


「あ、そうですね! じゃあそれで!」


「お前らいい加減にしろ!!」


 夜の闇にイリスちゃんの怒声が木霊した。


 ああ、イリスちゃんに叱られちゃった。それがまた、か・い・か・ん。

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