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第2話 天下統一?

『おめでとうございます、あなたの勢力が天下統一しました!』


 画面に映った文字を見て、ほぅっと一息をつく。

 それは安堵のため息。

 無事にゲームクリアをクリアできたことに対する喜びに、今の僕は満たされている。


 もちろん歴史シミュレーションゲームのことだ。


 ここは数々の名将がそろう軍議の場じゃない。血沸き肉躍る戦場でもない。

 都内にある築30年以上のマンションの一室。僕の家だ。


 今回は手ごわかった。

 最初は周囲を強国に囲まれ、なんとかその危機を脱したかと思えば、すぐに包囲網を敷かれる。

 極めつけは、ずっと同盟を組んでいた相手、松永秀久が、急に同盟破棄をして裏切ったのだ。


 自分はちょうど別国を攻めて、もう少しで滅ぼせそうって時だったから、後ろはがら空き。松永にとっては草刈り場だ。

 味方だと思っていた途端、攻められる。

 まさかそれをCPUにやられるとは思いもよらなかった。舐めていた。迂闊だった。


 その時の僕は、コントローラーを置き、2時間ほど悩んだ。

 空腹を紛らわすためにデリバリーを頼んで、モニターから一度離れて考え込んだのだ。


 2時間経って出た結果は、ある意味苦渋の決断だった。


 捨て駒&焦土しょうど作戦。


 どのみち領土や城は松永に奪われるのだから、自らの手で荒廃させる。

 城を弱体化させて、農地は荒廃させる。

 そして金と武将は後方に送り、性能としては中くらいの武将を残し、その武将で籠城戦をさせたのだ。


 援軍がない状況での籠城戦は愚策と言われている。

 そしてそれはその通りだった。


 津波に飲み込まれる小島のように、籠城した部隊は敵に飲み込まれて全滅した。

 捕虜になった中には討ち死にした武将もいた。

 つまり見捨てたのだ。


 卑怯?

 いやいや、味方を守るために自分の身を捨てた忠義の家臣ですよ。鳥居元忠とりいもとただですよ。

 何より無駄に俸給が高いのに、ろくに働きもせずに財政を圧迫していた連中だ。コストカットするにはちょうどよかった。


 けどその甲斐があって、大返しした主力が間に合って敵と相対することになる。

 しかも捨て駒の籠城戦で敵の部隊にも少なからず損害が出ている状態。


 こちらは部隊を分け、落としたばかりの防御力ゼロの城を攻めるふりをして敵を振り回し各個撃破。

 またにらみ合いをしながら、後方の敵の城に調略をかけて裏切らせたりする。


 それでも戦況は互角。

 このままだと兵糧が厳しいことになりそう、


 そんな時だ。


 松永の背後の別の国が、がら空きになった松永の国へ攻め入ったのだ。

 敵はそれに対応するために兵を分ける。そうなればもうこちらの有利だ。


 奪われた城を一気に奪い返し、松永を背後から強襲した別の国が城攻めしているところを、さらにこちらが強襲。

 そこからはもう、止まらない。

 旧同盟国を滅ぼし、城攻めに背後から襲われ兵力を減らした背後の国はろくな抵抗ができず滅亡。あとは当初の予定通り攻めていた国を滅ぼす。

 そうなればもうそんじょそこらの勢力が敵わない大勢力だ。


 最後に戦国オールスターズともいえる大勢力との一大決戦を、後方の調略で敵を分断することで撃破したら、もう後はもう流れ作業と言ってもいい。


 そんなわけで無事、天下統一をはたしたわけなのだけど。


「ふぁ……ねむ……」


 なんだかんだで3日か。

 こういうのは状況が刻一刻と変わり、次のターンに何をするかを常時考え続けなくてはいけないから、止めるタイミグをなくす。

 RPGとかなら次の街に行ったり、章が切り替わるところでコントローラーを置くことは可能だけど、こういった戦略シミュレーション系はそれがないのだ。


 だからほぼモニターの前から動くことなく、気が付けば3日が経っていたということ。

 もう曜日の概念すらなくなって久しい。


 幸いにして、それなりに給料はもらって、私生活でもコストカットして貯蓄に回していたから、向こう1年は働かずとも生きていける。

 その後はどうしようか、というのは今はない。

 考えるのすら億劫になっている。だから今は、好きなゲームと読書三昧。晴耕雨読とは言いがたいけど、それに似たのんびりとした暮らしに僕は満足していた。


「腹減ったな……」


 眠いけどお腹は空く。

 さっき――といっても7時間前になるのか。デリバリーを頼んでから飲み物だけで生きてきたわけで。


 こういう時は腹いっぱい食べて、時間関係なく寝るに限る。


 だが、何を食べるかだ。さっきはデリバリーなんて無駄に高いものを頼んでしまった。作る手間や後片付けを考えればコスパは良いが、単価が高いだけでなくそこまで物量はない。せめてピザにしておけば、温めなおして今ちょうど食べれただろうけど、あの時は無性に米が食べたかった。悪手だった。ならこれから自炊するか、と思ってもさっさと腹を満たして寝たいという欲求が一番で、何より億劫で。だがそれが一番コストカットにはちょうどいい。なにせ一番のカット率を誇るのはやはり食費なのだから。そうなるとさっとできるインスタントラーメンはコスパ最強なわけで。いや、だが最近こればかりだがストックはあったか? こればかりだと栄養が偏るのもよくはないが、コスト面では――


 なんてことに思考を費やして、ぼぅっと椅子に座ってこのまま寝てしまうのではと思った瞬間。


「ん?」


 モニターが揺れた。

 ゲームの画面が映っていたのが、砂嵐のようなノイズが出て、いや、何か人の形? なんだこれ。そんなシステムあった? バグ? あるいは眠すぎて見ている幻覚か。


 っと、その前にモニターがつけっぱなしだ。これは無駄。

 そう思ったのだが体が動かない。


 おい、動け。この1分1秒が、電気代が……!


 そんな混乱をよそに、そのノイズが大きくなる。手を伸ばしているのか。平面的ではなく立体的な感じに見える。

 普通ならテレビの中に映る人間が、こちらに手を伸ばそうが慌てはしない。

 所詮、映像なだけであり、見ている側に影響があることなんてそうありえないから。


「っっ!」


 だがこの時は違った。


 平面(2D)のはずの映像が、現実(3D)との境界をぶち破って来たのだから慌てるのは当然。

 ぶち破って来たのは――骨に皮を巻いただけみたいな生気のかけらもない気味の悪い――細くて蝋のように白い腕。

 その速度は速くなく、モニターから離れればいかようにも避けることができただろう。


 だが僕の体は先ほどから逃げることを拒否している。

 逃げるのがめんどくさいとかではない。

 全力で逃げようとしているのに、脳が、肉体が、精神が、動こうとするのを拒否している。

 僕はここにいるのに、僕の魂がどこかへ行ってしまったかのようなありえざる状態。


 いや、なんか格好よく言ってみたけど嘘で、脳内では「動け動け動いてよ!」みたいなどこかのロボットアニメの主人公みたいな感じで大混乱の真っ最中だったわけで。


 そんなこちらの事情なんておかまいなしに、腕は伸び、そしてその目標が僕の顔だということが分かって、さらに恐怖と嫌悪と不快が全身を包み込んでいく。


 目の前にあるのは指――皮だけといったものの、焼く前の手羽先みたいなブヨブヨしてもう気持ち悪い以外の言葉が見つからない――で、それがぐちゃっという擬音をはさみたくなるくらいに不愉快な動きをする。


 やがてそれが手のひらを広げる動作と分かり、僕に向かって手のひらを向けるものだと知りさらに不快になる。

 にちゃり、と音が聞こえるほどに、どこかどろどろして、べたべたして、ぐずぐずしている感じ。スライムでも手に塗りたくってるのか、と思うほどに粘着性のある細い手。


 そこから先は早かった。


「っ!」


 腕が一気に伸びたかと思うと、それは僕の顔――ではなく、喉をつかんだ。

 手羽先とかスライムを想像するように、やっぱりブヨブヨでぐちゃぐちゃな感じが喉に来て気持ち悪い。

 それでも抵抗もできないのだから、本当にどうしてしまったのかと思う。

 声1つあげられないのだから、情けないったらありゃしない。


 だがその後に続く現象は、これまでの事象をはるかに超えてなおあまりあるほどの驚愕のものだった。


「はぁーーーい! 今夜はあなたにビッグチャンスぅぅ!」


 腕が、言った。


 いや、腕に口はないからそんなことは言わないし、何より鶏ガラみたいなこの腕の持ち主が、こんなパリピみたいなウェーイ系の陽キャな若い男の感じで言うはずがないという、ギャップが現実を否認していた。


 それなのに、いや、だからこそか。

 僕はこの現実が現実であることを受け入れた。今起きていることは夢で片づけるにはあまりにも現実離れしすぎていると感じたからだ。


 そして腕は続けて言う。


「君に選択肢を与えよう! このまま自分と一緒にあの世に行くか、それとも新世界で新たな自分を発見するか、どうする?」


 暗くなっていく視界の中、そんな人生の一大転換点ともいえるお誘いを、こんな相手、こんな状況で聞くなんて。

 その時の自分には信じられなかったんだ。

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