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第223話 激闘の予感

 急に敵が加速した。

 その動きに不自然なものを感じたが、これ以上速度は上げられなかった。急に反転されると避けられないし、馬の質もバラバラだから追いつけない馬も出てきてしまう。さらに後続の姉さんやクラーレら歩兵と切り離されるのも怖い。


「いりす殿。ちょっとその棒を拝借しても?」


 急に背後に乗った小太郎がそう話しかけてきた。


「棒? 赤煌しゃっこうを?」


「そう、赤煌しゃっこう。いいですね、いい名前ですね。それをちょっと上に振り上げてほしく」


「振り上げるって……こう?」


「はい、それで」


 知らない女の声がした。いや、聞いたことがある。

 けどそんなことは問題じゃない。振り上げた赤煌しゃっこうに重みがかかる。何か、と思って見た瞬間、あの暗殺者の女が僕の赤煌しゃっこうの上につま先で乗っていた。

 止める間もなく、赤煌しゃっこうは振り上げられる。同時、あの女も跳ぶ。いや、飛ぶ。空へ。


 なんであの女が。そう思ったが、そういえばあれは小太郎なのか。以前、まるで人物が入れ替わるみたいにあの女から小太郎が現れた。とすればその逆もありえるということか。

 あれが小太郎の異能なのか。けどあの巨大化とかはどうなんだ? よくわからないから今度問い詰めてみよう。


 なんて考えていると、空高く飛んだ女が急降下してくる。激突する、と思ったがなんと女は僕の後ろに「たとん」と小さな音を立てて、馬の背中に降り立った。


「ふぅ」


「えっと、無事?」


「はい。私の異能は自重をゼロにする力。ゆえに着地に影響はありません」


「はぁ」


 そういうものか。というかこの子は一体誰なんだ?


「そういえば紹介がまだでした。私は“さら”。あの、風魔小太郎の所有物です」


「しょ!?」


 所有物って……なんか意味深だな。


「それは私はあの男――あぁ!! もう何言ってんのよ、さらちんは! そうじゃないからね、いりす殿。さらは自分の相棒さ、あ・い・ぼ・う」


 途端、男の声に変った。小太郎だ。

 馬の操縦に前を向いていないといけないから、どういった原理で切り替わりが発生しているのかは見えない。けど、小太郎とあのさらという暗殺者は本当に表裏一体の同一人物なのだろう。多重人格、解離性同一性障害ってやつか? その割には仲悪そうだけど。


「はぁ」


「あー疑ってるね。ま、いいや。そこはおいおい。てかさら。見たことを報告して。…………はい。敵は加速して反対側に展開する軍を攻めていました。およそ2千。おそらく“うえるず軍”でしょう。それが一蹴、蹴散らされてました」


「っ!!」


 なるほど。空高く飛んで戦場を俯瞰で見てくれたわけだ。すごいスキルだ。


 けどそんなことは今はどうでもいい。

 ウェルズ軍が来てくれる。そのために琴さんを送り込み、ウェルズの国都を解放させたのだ。そこまでは上手くいったが、本来は挟み撃ちにするはずが各個撃破されてしまったということか。


 ウェルズ国都が落ちるのを前もって知り、そのために西門に兵を集中させるや反転して挟み撃ちを回避した。いや、元からウェルズ軍1千ほどが行方不明になっていたのだ。それに対するために策を練っていたということはありうる。


 どちらにせよ、デュエン軍の動きによって必殺の挟撃策は崩壊した。

 そして今やイース全軍5千と、デュエン軍1万との野戦に引き込まれていた。おそらく平知盛の最終的な狙いはこれだったのだろう。大砲が破壊された初日から、城門を破るよりも僕ら兵を狙い撃ちしようと思ったのかもしれない。


 今から国都に戻ろうとしても遅い。タヒラ姉さんとクラーレの軍はイケイケで進軍している。それを止めて反転させる前に、敵がかさにかかって襲い掛かってくる。そうなれば逆に追撃を受けてそのまま国都になだれ込まれるだろう。


 そうなるとあとはもう、この倍の兵力差で野戦で勝つしかない。


「両部隊に伝令! 停止し、陣形を組むように!」


 どちらにせよ姉さんとクラーレの軍は止めなければいけない。反転せずに、そこで陣を組む。そうすれば圧倒的な負けだけは回避できるはず。


 いや、違う。ダメだ。負けを回避するだけじゃ。

 それは今ここで負けないだけで、その後の敗けまでの期間を延ばすだけだ。何より僕にはもう、時間もない。


「イリス、どういうことですの!」


 カタリアが馬を寄せて聞いてくる。

 僕はラスたちも集めて簡単に説明する。


「なんという……」


 カタリアが絶句する。それほどまでにこの状況。かなりマズいわけだ。


「それで、どうするつもりですの、イリス?」


 カタリアが聞いてくる。

 丸投げか。そう思ったが目は真剣。

 そうか、僕に託したということか。投げやりではなく信頼。ならその信頼に応えてこそ、この世界で僕が生きる意味。


「よし、なら作戦は……」


 考える。敵と味方。その兵力。配置。士気。周囲の状況。すべてを頭に入れて頭を高速で働かせる。


 ずきん。頭が痛む。

 それでも思考は止めない。ここで倒れたとしても、命のともしびが消えようとも、考えに考えに考え抜いて、この局面を打破して見せる。


 それが今僕がここでやるべきこと。

 そう考えれば、自然と答えは出る。


 だから、言った。


「500で敵1万に突撃する。皆の命をくれ」

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