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挿話40 平知盛(デュエン国軍師)

「そうか。山県が負けたか」


 まだ陽が落ちる前だったが、退却のかねを打たせた。

 山県の敗北。そして西門に展開する大筒の破壊。それによって一度態勢を立て直す必要が出てきたからだ。


 そして昨日作った陣の幕舎で、千代女と話している。


「ん。本人はまだやれるとかほざいているけど。右の上腕骨折は当然、肋骨の骨折もひどい。血を吐いたから、これは内臓を傷つけてるかも。あと左手首の打ち身も酷い。ここにいたら死ぬね」


「満身創痍じゃないか。とにかく治療を最優先だ。なんとか大人しくさせて、本国に送り返すしかない」


「今はわたしの薬で眠らせている。応急手当は済ませたから、あとは本人の運次第」


「運次第、か」


 同じ傷を負っても、死ぬ者と助かる者がいる。

 その違いが何なのか。私にはわからない。


 あるいは天がすべてを決めているのか。それとも他の何かなのか。


 分からない。そしておそらく人知を超えたことだろう。考えても無駄だ。

 なら自分にできるのは、彼女の無事を祈ること。そしてこの戦いに勝つことだ。


「分かった。とにかく絶対安静にさせて、丁寧に送ってくれ」


「了解」


「しかし、それほどの相手ということか、あのいりすというのは」


「多分。あの北の軍神とタメ張るかも」


「いつか言っていた、上杉なにがしとかいうやつか。厄介だな」


「けど、まだ負けたわけじゃないでしょ」


「ああ。山県の離脱は痛いが、そもそも騎馬隊は攻城戦には向いていない。相手の騎馬隊を好き勝手暴れさせないよう抑えるだけでいい」


「でも騎馬隊も結構損害出しているみたい」


「ぐっ……。ま、まぁそれは相手もだろう。あのいりすとやらも血を吐いたというではないか。山県も相討ちということでしっかり仕事は果たしてくれたということだ。なに、抑えるだけでいいのだ。こちらが勝つまで」


「そう上手くいくといいけど」


「そこは上手くいくって応援してほしいなぁ!?」


 やれやれ。

 といいつつ、千代女も意外と動揺しているんじゃないか。さっきから言葉に切れがない。きっと山県の負傷は、私と別の意味で彼女にとって大きなことだったのだろう。


「そんなこと思ってないし」


「心を読まないでくれる!?」


 くそ。ちょっと油断したらこれだ。


「そういえば、あの風魔小太郎は?」


「なんか遠くに飛んでった。それきり。まぁ生きてても、あと何日かは来ないんじゃない?」


「あれも異能のせいか。惜しいなぁ。あれで巨大化すれば、あんな城壁もひとっ跳びだろう」


「ああ、それで敵の弓矢の的になれと」


「そこまでひどいことさせないからね!? って、もしかして焼きもちやいてる? 忍同士、私の方がすごいのよーって」


「そんなことないし」


 これはビンゴだろ。まったく、可愛いところもあるじゃないか、千代女も。

 ふふ、これは普段の借りを返せそうだ。


「絶対そういうのじゃないから」


「ふふ、今のは私じゃなくても心は読めたぞ。素直じゃない奴め」


「……それ以上言うなら、いつ何時クナイが飛んでくるか気を付けるといい」


「分かった。話を変えよう」


 まぁいいだろう。明日以降、この件で千代女をいじるのも楽しい。


 しかし、こうも千代女と冗談を言い合うとは。

 やはり山県の離脱が、自分的にも衝撃的で少し現実逃避でもしてみたかったのだろう。


 だが私は侍だ。戦いに勝つためには、どうしても現実と向き合わなければならない。


「で、明日からはどうする?」


「別に変らない。と、言いたいところだが東門を使ってみようか」


 あのボロボロの城壁と、少ない守備隊。そのあからさまな感じが、罠の匂いを漂わせている。

 攻めればひどいしっぺ返しが来るだろう。だが、それを無効化できれば、一気に城内に入り込む有力な道になる。


「罠だよ」


「だろうな」


「知ってて行く気? 死ぬの? 馬鹿なの?」


「さぁね。それは明日のお楽しみだ」


「ケチ」


「軍機だよ」


「ケチ盛」


「知盛だ!」


 まったく。こいつにはもう一度、この私の崇高さを教えてやらなければならないな。

 権中納言ごんのちゅうなごんだよ? 従二位じゅにいだよ? 殿上人てんじょうびとだよ? 偉いんだからね? ……まぁ解官されたけど。


 それにしても明日の戦いだ。

 そして私の華麗なる戦ぶりを見れば、きっとこの女の私の評価も…………変わるといいなぁ。

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