表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

242/712

挿話34 平知盛(デュエン国軍師)

「で、逃げられちゃったわけ?」


 千代女が呆れたようにつぶやく。


「仕方なかろう。あの異能。それほど強力なのだ」


“ざうす”と“とんかい”の軍を蹴散らして再起不能にし、あとは“いいす”にケリをつければすべてが終わる。そう思って北上したものの、その時にはすでに逃げ出した後だった。

 しかも足止めを命じていた小太郎は、何が起きたのか、天高く舞い上がり遥か西へと飛んで行ってしまったのを見た。


 あの巨大化した小太郎につぶされるでもなく、逆に撃退したというのだからそこにいるのは、あの“いりす”という少女だろう。そしてそれを裏付けるように、そこに残っていたのはわずか2名の女。


 そこに向かって山県を突っ込ませた。

 彼女自身、あの蘭陵王との一騎討ちで怪我を負っていたが、相手が“いりす”ということで気負っていたようだ。


 だが山県は見事に撃退された。突如として起こった突風が、騎馬隊の足を乱して進めなくしたのだ。


 この状況で突風が都合よく吹くわけがない。

 そして風と聞いて思い出したのは、あの“いりす”と出会った戦場でのこと。巻き起こる風。それを乗り越えた先に彼女たちはいた。あの時の異能使い。


 風が収まった時には、2人の女の姿は嘘のように消えていたという。


 本来ならそのまま“いいす軍”を追撃といきたいところだったが、それは断念せざるを得なかった。

 というのも、予想以上に“とんかい軍”が――というより、蘭陵王によって受けた損害が多かったのだ。


 たった1と500。

 それなのに死傷者が1千近いというのはどういうことか。

 まぁその大半は死兵として使わせた“のする”の兵だから、こちらとしては大きく痛手を受けてはいないわけだが。

 そう考えると、あの蘭陵王を討った山県の功績ははるかに大きいと言えよう。


 それを考えれば、こうやって千代女の意地の悪い愚痴を聞くのも耐えられる。


「すぐに出る?」


「ああ。死傷者の対処が完了すれば、すぐ。今更急いだところで“いいす”の本隊には追いつけまい。それに山県のこともあるしな」


「私ならすぐに出れる」


 千代女と話しているところに山県が姿を現した。馬には乗っておらず、左肩を包帯で巻いて吊っている状態で歩いてきたらしい。


「休んでなくていいのか」


「なに、かすり傷。すぐに出ても問題な――ぐぅ……」


 山県の顔が苦痛に急にゆがんだ。

 見れば千代女が横から山県の傷口の部分をつんつんしている。


「嘘じゃん。めっちゃ痛がってるし」


「直に触られればな!!」


 まったく。緊張感のない。

 それでもこのやり取りにも慣れた自分がいることに気づき、苦笑しないでもない。


 それにしても山県昌景。この小さな体でよくもやるものだ。

 その武力と闘争心。敵でなくてよかったと今更ながらに心から思う。


「まぁいい。山県がいるなら話は早い。千代女」


 千代女に向き直って聞く。


「別動隊の方は?」


「本国から3千の増援で、“のする”の降兵と共に“いいす”の国都へ向かって進軍中。邪魔な遊撃隊は蹴散らして、明日には着くだろうって」


「アレはしっかり準備しているんだろうな?」


「見てきた」


「よし」


 いよいよだ。

 正々堂々ではないこの戦。心に引っかかるものがないとは言えない。

 だが平家再興のため。ここで失敗は許されない。


「では、最後の総仕上げといこう」


 この“いいす国”侵攻作戦。

 これにて決着とする。


 あの娘とも。すべて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ