第1話 切野蓮という人
自己紹介をする。
そう言われて、嬉々として話す人間は一体なんなのだろう。
そんなことをしても一文も得にはならないし、時間の無駄だし、お前なんて知らねーよで終わるし。そんなもの意味ないんじゃないか?
けど、まぁいいや。
しろと言われたならする。
僕はそこまで空気を読まない人間ではないと自認しているし、するしないでうだうだとしている時間の方が無駄だから。
名前、切野蓮。
年齢30歳。身長165センチ、体重62キロ。
大手物産メーカー勤務。総務部特殊管理部部長。
独身。彼女なし。
趣味はゲームと読書に歴史。あとは仕事。
こんなものでどうだろう。
どこにでもいるただの平凡なサラリーマンってところだ。
けど業務は普通じゃなかった。
職場の名称が示す通り、特殊な環境。
そこで行われたのは、ひたすらなコストカット。
社員の恨みは買った。それは確かだ。僕が現れたら目をひそめり、露骨に嫌な顔をされたりしたものだ。
だから飲みとかカラオケとか誘われたことないし、社内で声をかけてくる人間もいない。
もともと、そんな人づきあいの良い方ではなかったし、人見知りする方だから調査して命令するだけなのは性にあった。
仕事ができて、給料が上がって、それで好きなゲームや本を買って休日はゆっくり過ごせるだけで十分に幸せだった。
友達なんていなくてもいい。
家族なんていなくてもいい。
自分はこれだけで満足できる。
そう思える人生で、それが、いつまでも続くと……本気で信じていた。
『切野君。君はとても優秀だ。君のコストカットによってわが社は一時は存続の危機にあったが、なんとか持ち直し、我ら社員700人の命も救われた。君は命の恩人だ。だからこそ、君に最後のコストカットを頼みたい。さぁ、受け取り給え』
ある日突然社長に呼び出されて渡された一枚の書類。
解雇通知。
『悪く思わんでくれたまえ? これも社のために仕方ないのでな。これ以上、君のような人間を雇っていると、私にも恨みが行く。それは困るのだよ。なに、君の実績は大したものだ。君ならどこへ行っても重宝されるだろう。さて、これからが大変だ。君が切り捨てたものから、一部を取り戻し、社員の人気を取り戻さなければならないからね。はっはっは』
意味が分からなかった。
いや、思考能力すら奪われていたのだろう。
もはや何が現実で何が夢で、その境界すらも分からない。
そして僕は死んだ。
そして生まれ変わった。