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第164話 ノスル国へ

 ラスと小太郎と共に馬車で揺られること3日。僕はノスルの国都にいた。

 基本的な構造は、元がイース国から別れた国だからか、イースやウェルズとは変わらない。

 けどその2国とは圧倒的に違う場所があった。それは、


「おお、海だ……」


 国都に面するように、いや、面するように国都を作ったのが正しいか。半円を描くように湾となっている向こう側は果てがない青色が広がるのみだ。

 こうも果て無い海を見るの何て久しぶりで、ちょっとテンションが上がる。


 だがその感動に待ったをかけるのがラスだ。


「イリスちゃん。これは海じゃなくて河だよ。イェロ河っていうの」


「河? これが? いや、対岸が見えないじゃないか」


「だからそれほど大きな河なの。この向こう岸はエティン国があるんだよ」


 そういえばそうだったっけか。

 必死で頭に入れた地図を思い出す。

 エティン国。確かに大陸の北部にある国で、その間に青いラインがあったけど、それがこのイェロ河ってことか。


「へぇー、でかいっすねー。ま、相模湾には劣りますかな。はっは」


 小太郎は何か得意げだし。比較の基準が分からん。


 ともあれ、ノスル国が水に面していることは間違いなく、湾部には大小様々な船が入り乱れているのを見れば、交易でにぎわっているのが実感できる。

 なるほど。この交易があるから、何もせずとも富が集まってくるのか。

 謎の国の真相が知れて、少しほっとした。


「ただ、それもいいことばかりじゃないらしいっすよ。最近のこの国はちょっとやば気です」


「やば気?」


 小太郎はどうやらこの国にも諜報の手を伸ばしていたようだ。本当に有能ではあるんだよな、風魔。


「ええ。なんでも現太守はそれなりに高齢で、その後継者に当たる人物がいたんですが、それが色々あって20年前に病没。それ以来、一度は退いた太守の地位に返り咲き。以来、これまでこの国を支配しているんですが、やはり歳には勝てないようで」


「後継者不足ってことか」


「いえ、いることにはいるんですが……」


 何やら奥歯にものが挟まったような言い方に不審を覚えていると、


「うわー! なにこれ!? 水!? これが海!?」


「カタリア様、何を言い出しているのですか?」


「お嬢、これ河ですよ。地理の時間にならったっしょ」


「わ、分かってましたわ! これはあなたたちを試したんですの!」


「はぁ……そうですか」


「ふーん」


 おやぁ? 何か聞き覚えのある声だ。


 振り返る。相手もこちらに気づいて振り向く。


 目が合った。


「…………」


「…………」


 えっと、なんかどこかで見たことがあるような、このですわ口調の圧倒的高所から見下す感じの声は……。


「なんでイリス・グーシィンがここにいるんですの!?」


「なんでカタリアがいるの!?」


「いや、わたくしは、そう、正使ですわよ! ノスル国への。それよりなんであなたがここにいますの!? 傷を負ってぴーぴー泣き言を言ってた軟弱者が来るところではありませんわ!」


「カタリアちゃん、軟弱ってどういうことかな? イリスちゃんはね、強いんだよ!?」


 ラスが僕の背中に隠れながらも、カタリアに抗議する。


 そんな風にしてまで反発して見なくても……。頼むからちょっと引っ込んでてくれないかなぁ。話がこじれる。


 っと、それはそうと、あまりに普通過ぎて流してたけど、今回は動向を許されたのか。カタリアの左右にはユーンとサンがいた。


「お久しぶりです。カタリア様のお世話、大変お手数おかけしました」


「ちゃお。なんかお嬢が迷惑かけたってゆーか。傷、平気なん?」


 どうも砕けた感じで挨拶してくれた。前までは完全敵対していた仲だけど、共通の障害カタリアというものを得て、少しだけど心が通じたような気がして嬉しい。


「ユーン、サン! そんなのと会話してるんじゃありません!」


「えー、でもお嬢だって普通に話してるじゃん」


「はい。むしろ帰国してからずっと彼女の心配をしているカタリア様の姿は、なんというか、キュンと来てしまいました」


「余計なことを言うんじゃありません!!」


 え、カタリアそんなことしてくれたの?

 ヤバい、ユーンじゃないけど、そのデレにキュンだ。


 というか話がかなりズレた方向に向かってしまったな。

 ここでカタリアと出会ったのも何かの縁。僕がここまで来た理由。ノスル国を、太守の人となりをこの目で見て判断する。そのために、言い方は悪いけど彼女を利用させてもらう。


「カタリア。お願いがある。僕を――」


「お断りですわ」


「…………え?」


 まだ何も言ってないんだけど?


「カタリア様、そんなバッサリ断ってはいけません! 焦らして焦らして、そして一気に飛び込む! それが恋愛の極意です!」


「そうっすよ、お嬢。ここは無駄に意地張って得意満面のおーっほっほからの転落がお嬢らしいんですから!」


「駄目だよ! イリスちゃんに命令するのはわたしだけなんだから……あ、でもイリスちゃんにお手ってするの、いいよね?」


 外野3人がぎゃーぎゃー騒ぎだす。

 なんか色々と3人の闇が垣間見えたような気がするけど、聞かなかったことにしよう。


「「…………」」


 僕とカタリアは、なんだか気まずくなって、お互い視線を合わせては外すを繰り返す。


「えっと、その。ごめん。なんていうか、ラスが」


「いえ、うちの馬鹿2人が変なことを……」


 初恋か! このもじもじしたムード!

 ええい、こうなったらもう正面突破でごり押す!


「ただ、お願いだ。僕を太守に会わせてくれ。いや、もちろんカタリアが正使として行くのは当然として、そこについていくだけでいい。この国の性格と人柄を知ることは、イースがこれから生き残るのに必要なことなんだ!」


「イースのため……」


 カタリアがつぶやく。よし、さらにもう一押し!


「カタリアが威風堂々、対等に太守と交渉している様は、やっぱりちゃんと見て伝えなきゃって思ってさ。ほら、今度タヒラ姉さんに会った時には、カタリアの雄姿をちゃんと話しておきたいし」


「タ、タヒラ様に……わたくしの雄姿を」


「さすがです。カタリア様をよいしょしつつ、弱点を的確に突く論法。たぶらかしの才能あり。ヴェリーグッドです」


「いやいや、ここまでお嬢を軽く転がすなんて。嘘つきの本領発揮ってか?」


 外野2人、黙っててくれ……ちょっと傷ついたぞ。


 けど、それはカタリアの耳には入っていなかったらしい。


「…………これ以上この男女おとこおんなに手柄を横取りされるのはいけませんわ。けどタヒラ様に……。あぁ、タヒラ様。タヒラ様。わたくしを見て、聞いて、感じて」


 押し黙ってしまったかと思ったら、小声で何か言っているのが聞こえた。

 けど、聞かなかったことにしよう。うん。


 と、カタリアは、こほん、と咳ばらいを1つ。


「先生がそれでいいというなら、わたくしは何もいいません。勝手になさい」


 どうやら天使と悪魔では悪魔が勝ったらしい。

 勝手になさい、と言いながらも、なんかすげぇいい笑顔してるし。


 てか、そうか。先生もいるのか。

 まだ学生の僕らだけに全権を渡すわけはないから、保護者同伴は当然っちゃ当然。


 よし、あとはあの兄ちゃん先生をたぶらか――納得させればどうにかなる。

 それでノスルの固めはばっちりだ。そう思った。

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